カーボンゼロⅦ..バイオプラスチック
地球温暖化対策が課題として捉えられるようになって以来、バイオプラスチックが取り上げられることが多くなってきましたが、実はバイオプラスチックという名は全く違う2種類のものを包含して、もしくは混同して使われています。このことは、少し詳しい方であればご存じとは思いますが、今回はこのことを整理してみたいと思います。
バイオプラスチックと呼ばれているものの一つは、植物を原料とするバイオマスプラスチック、そしてもう一つは自然界(主として土壌中)で分解する生分解性プラスチックです。バイオマスプラスチックは、植物を原料としていますので地球温暖化対策としての機能が期待されますが、生分解性プラスチックは一部のバイオマスのものを除いてその機能は期待できません。最近は多くの情報が溢れているだけに、言葉が混同して使われると個々の判断を誤らせるリスクが高くなりますので、使用する時だけでなく読む立場でも多くの注意が必要です。AIはすべての情報を受け入れた上で判断していくでしょうから、特に利用するときには慎重になる必要があるでしょう。
ところで、バイオマスプラスチックの多くは、石油由来のプラスチックと同じものですので、廃棄物問題、特に海洋プラスチック問題のようなプラスチックを巡る他の課題への貢献は期待できませんし、非可食の植物を原料としているのは少数で大部分は大豆・トウモロコシのような食料としても重要な植物を原料としているという別の課題も含んでいます。食料となるものを原料としていることは、人間や動物が食料として分解しやすいものが化学的にも分解しやすいため原料とし易いのは当然ですので、地球温暖化対策で重要な生産時のエネルギー消費面でも優位となりやすいので、コストが大きな課題であるバイオマスプラスチックのこの課題を軽減することにつながりやすくなります。また、大豆やトウモロコシなどの生産者からみると安定的な需要が期待できるというニーズがあることは重要で、ひいては食料の安定供給にも貢献してもいます。ですから、食料と原料面で競合していることだけで否定的にみることはできませんが、前回も触れたように国連世界食糧計画(WFP)が「今日を生きるための食料、8億人待ち」と呼びかけていることを考えますとどうにか良い解決策はないものかとも考えてしまいます。
また一方、生分解性プラスチックは、主として土壌中の微生物によって分解されますので、利用・廃棄のされ方が重要となります。そうでないと折角の機能を発揮することが出来ず、生産時のエネルギー消費が大きいだけのプラスチックとなり、地球温暖化に負の効果を及ぼすだけということになりかねません。つまり、一時的に地表を覆うとか、時間差で土中に流出させるもの(肥料とか)を内包させて埋設するとかで利用したり、廃棄時に埋め立て処理する必要があります。海中でも分解されることが実証されているものもありますが、完全に分解されるには1カ月以上はかかりますし、まさか海洋廃棄を奨励することは難しいと思います。
少しカーボンゼロからずれていますが、次回も、もう少し生分解性プラスチックについて触れてみるところから話を進めたいと思います。
[以下、次回分です。]
生分解性プラスチックの機能を生かすには、利用の仕方・廃棄の仕方が大切だと言うことを前回述べましたが、このことを考慮すると日本では生分解性プラスチックの有効な活用は限定的にならざるを得ないと思います。皆さんご存じのように日本ではプラスチックはペットボトル・食品用トレー等特別なものを除いて、分別せず利用もしくは焼却処理されています。したがって、生分解性という機能を生かす場画がありません。しかし、世界では焼却されずに投棄もしくは埋め立て処理されているプラスチックは多くありますので、そのようなところでは生分解することでゴミが減量することでは価値を生むことでしょう。このことは、海中で生分解するものでも変わりません。日本は、海の家で飲み物を飲んだ時に使用したカップやストローを生分解するからと言って海に捨ててもいいという文化ではないですし。なってほしくありません。
少し前になりますが、今年のはじめ大手カフェチェーンが地球温暖化対策として紙に変更していたストローを環境に適応したプラスチックに変更するという発表したのをご存じの方も多いと思います。発表を知らなくとも多くのカフェでストローがプラスチック製になっていることに気づいていらっしゃると思います。このプラスチックはバイオマス生分解性プラスチックであることをカフェチェーン・樹脂メーカー双方から発表されています。更にこのプラスチックは土壌中だけでなく海中でも生分解する機能も有しており、原料も食用油でさらに化学的にではなくバイオ法で作られているということです。因みに、このプラスチックは以前から大手コンビニチェーンのストロー、スプーンなどでも利用されています。
少しこのプラスチックの宣伝のようになってしまいましたが、ここでこのプラスチックの大手カフェチェーンでの価値の活用について考えてみたいと思います。結論から言いますと、折角様々な性能を持ちながら今のところほぼバイオマスである事しか活用されていないように思えます。テイクアウトした時、ストローは自宅であれ、街中のゴミ箱であれ、プラゴミとしてのみ分別されるでしょうし、店内でも他のプラゴミと分別されているようには見えませんので、生分解性は活かせていないでしょう。日本で安定的に供給されているバイオマスプラスチックとして使用されていると思いますが、樹脂メーカーから見ると顧客のニーズに対するオーバースペックとも言えます。このような場合、安定的に安価に供給される生分解性の有しないバイオマスプラスチックが登場すると代替されるリスクが非常に高いでしょう。この場合というわけではありませんが、供給側から見て大きな性能だと考えているものが調達側から見るとほぼ無意味であるケースがビジネス上もまま起きますので注意しなければいけません。ただ、この逆が起きるケースもあり、その場合は大きなビジネスチャンスとなりかねませんので、難しいですが。
バイオプラスチックは、バイオマスプラスチックでも生分解性プラスチックでも様々な課題に非常に有用な性能を有していますが、原料に始まって廃棄・リサイクルに及ぶサプライチェーン全体をよく把握して、その特性に従った活用を行わないと他の副作用、場合によっては逆効果を生みかねませんので気をつけていく必要があります。これは他のことでも、よくあることです。例えば、電気自動車もリチウムの採掘から始まり多大なエネルギーを必要とし耐用年数も限定的な蓄電池を使用していますので、電源を再生エネルギーとし余程稼働率が高い使われ方をしないとライフサイクルとして温室効果ガス削減に逆効果になる可能性があります。ビジネスでも家庭でも、やった気になっているだけになっていないか、皆さんも再考してみませんか?

