譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(その1)
実務上発展してきた譲渡担保権及び所有権留保を法制度化する「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(「法」)が成立し2025年6月6日に公布されました。従来、民法上明文で認められた担保物権(典型担保)は留置権、先取特権、質権及び抵当権の4種類に限られていましたが、これらに加え、譲渡担保や所有権留保等が判例上認められてきました。企業の資金調達における担保としては不動産担保や個人保証が広く用いられてきましたが、譲渡担保及び所有権留保が法制度化され権利関係が明確になったことにより、不動産担保や個人保証に頼らない両制度の活用が期待されます。
1.譲渡担保権とは(これまで) 2.譲渡担保契約の効力(以上本号) 3.集合動産・集合債権を目的とする譲渡担保権 4.他の担保権との優劣関係 5.譲渡担保権実行に関する規律 6.倒産手続における取扱い 7.施行日 |
1.譲渡担保権とは(これまで)
譲渡担保権とは、担保目的で所有権を譲渡する非典型担保(民法上明記されていない担保)です。被担保債権が不履行となった場合、譲渡担保権者は、担保目的物を自ら取得し又は換価処分して被担保債権に充当し、残額があれば清算金として譲渡担保権設定者に返還します。譲渡担保権者による所有権行使が担保目的の範囲内に制限され且つ清算義務があることが、通常の所有権譲渡と異なります。
譲渡担保権は、裁判手続によることなく私的に実行できることや譲渡担保権設定者が担保目的物を譲渡担保権者に実際に引き渡す必要がないことといったメリットがありますが、後順位担保権の設定の可否について見解が分かれていること、譲渡担保権者が被担保債権の不履行がないのに担保目的物を勝手に処分するリスクがあること、不動産譲渡担保(固定資産評価額の2%)の場合は抵当権(固定資産評価額の0.4%)よりも登録免許税が高くなることといったデメリットが指摘されてきました。法は、以下の通り、こうしたデメリットにも対応する規定も設けています。
2.譲渡担保契約の効力
(1)譲渡担保契約の範囲
譲渡担保法が対象とする譲渡担保契約は、金銭債務を担保するため債務者又は第三者が動産又は債権を債権者に譲渡する契約とされ、不動産(農業用動産及び登録自動車を除く。)や無体財産権を対象とするものは除かれます(法2条1号)。
(2)譲渡担保権者(債権者)の権限
①譲渡担保権者の優先弁済権(譲渡担保権の目的財産から他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利)(法3条)、②譲渡担保権者の物上代位権(譲渡担保権の目的財産の代わりに設定者が取得する金銭や賃料債権からも他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利)(法9条)、③動産譲渡担保権者の物権的請求権(優先弁済権の行使が妨害された場合にその排除等を請求できる権利)(法30条2項)が明文化・明確化されました。
(3)譲渡担保設定者(債務者等)の権限
①譲渡担保権設定者の後順位譲渡担保権設定権(法7条)、②動産譲渡担保権設定者の目的動産の使用収益権(法29条)、③動産譲渡担保権設定者の物権的請求権(目的動産の使用収益が妨害された場合にその排除等を請求できる権利)(法30条1項)が明文化・明確化されました。後順位譲渡担保権設定権が明文化されたことにより、譲渡担保権設定者は、目的財産の余剰価値を後順位譲渡担保権の目的とすることが可能となりました(従前は、目的動産を二重譲渡できるかどうかという問題がありました。)。また、動産質権の場合は質権者が目的動産を占有するのに対し、動産譲渡担保権の場合は動産譲渡担保権設定者が目的動産の占有を継続できることが明確になりました。
(4)根譲渡担保権
根譲渡担保権(被担保債権が個別に特定されず債権者と債務者の間で継続的に発生する多数の債権を一括して被担保債権とする譲渡担保権)(法13条)については従来その法律関係が不明確でしたが、以下の通り明文化・明確化されました。
・極度額(被担保債権額の上限)を定めない場合は、根譲渡担保権者は確定した元本、利息、違約金、実行費用、債務不履行による損害賠償の全部について根譲渡担保権を実行できることとされました(14条)。極度額の定めが必須ではないということです。
・根譲渡担保権の全部譲渡、一部譲渡(譲渡人と譲受人が根譲渡担保権を共有)、分割譲渡(根譲渡担保権を分割してその一方を譲渡)が認められ、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」に定める登記がその対抗要件と定められました(法21条ないし23条)。いずれも根譲渡担保権設定者の承諾が必要です。債権を目的とする譲渡・一部譲渡・分割譲渡は、譲渡人又は譲受人の債務者に対する登記事項証明書の交付による通知又は債務者の承諾がなければ債務者に対抗できません。
・元本確定事由(被担保債権が特定されるための事由)として、根譲渡担保権者が目的財産に対して強制執行、担保権実行又は差押を申し立てたとき、根譲渡担保権者が目的財産に対する差押等があることを知ってから2週間が経過したとき等が定められました(法26条1項1号ないし14号)。
(5)所有権留保
所有権留保(動産の所有権移転を目的とする契約であって、当該動産の代金支払債務その他の金銭債務を担保するため当該動産の所有権移転を留保するもの)(例えば自動車の割賦販売)については従来法律関係が不明確でしたが、動産を目的とする所有権留保について、以下の通り明文化・明確化されました。
・売主の所有権を留保する場合のほか、信販会社等の第三者に所有権を留保する場合も可能となりました(法2条16号)。
・所有権留保の対抗要件は、留保買主等から留保売主等への留保動産の引渡(登記・登録を要する動産の場合は留保売主等を所有者とする登記・登録)が原則ですが、留保動産の代金支払債務のみを担保する所有権留保(信販会社等の第三者に所有権を留保する場合は、留保動産の代金支払債務を履行したことにより生ずる償還債務のみを担保する所有権留保)についてはかかる引渡を要しないこととされました(法109条)。
・基本的に譲渡担保権と同様に扱うこととされました(法111条)。
・買主側が再生手続開始・更生手続開始の申立等をしたことを解除事由とする特約は無効とされました(法110条)。