IPOをめざそう(その6)~ 事業計画の作成
今回はIPOを目指すためには、どのように事業計画を作れば良いかについて、簡単に説明したいと思います。どの会社であっても、経営を管理するためであったり、また銀行から融資を受けるためであったり、事業計画を作成されていることでしょう。様々な作成目的がある事業計画ですが、IPOのためにはなかんずく説得力のある合理的な計画を作成する必要があります。取引所の審査において、事業計画どおりに持続的に収益を上げていける蓋然性が高いと取引所が判断して初めて上場が認められます。ベンチャーキャピタルから資金を調達する場合や証券株式会社の株式を引受けてもらう場合にも、事業計画の合理性・信頼性が重要となります。
| 1.事業計画の重要性 2.事業計画の作成 ①事業計画の骨格と作成の流れ ②経営理念と経営ビジョン③外部環境と競合環境の分析 3.予算管理 |
1.事業計画の重要性
① 上場審査において、ガバナンスの体制、内部監査の体制、開示体制、関連当事者取引の妥当性など、ポイントはいろいろとありますが、事業計画は最重要部分です。審査は、最終的に株主のために持続的に収益を上げていくしくみができているか、という点に集約されると言っても過言ではありません。審査の過程で、予算と実績の乖離が大きくなれば、事業計画の信頼性を損なうことになり、一時的な外部環境要因によるものであるとか、適切な対策があり十分リカバ-できるなど、合理的な説明ができなければ、上場はできません。
② 上場後も、決算短信において、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の予想を開示するよう、取引所から要請されます(東証では、2025年3月期の決算発表時において、2,111社、94.6%が開示しています)。
③ 投資家は、会社の発表する業績予想や事業計画を材料に会社の将来の利益を判断し、株式を売買しています。そのため、予想と現況に大きな乖離が生じた場合は、当然、予想を修正し開示することが求められます。上期もしくは通期業績が、予想売上高に対し±10%以上乖離する場合、予想営業利益、予想経常利益、予想当期純利益に対し±30%以上乖離する場合には、適時に業績予想の修正開示が必要になります。乖離が生じているにもかかわらず開示されていない情報は、インサイダ-情報となります。事業計画の未達の状況が続けば、投資家の信頼を失い、株価は低迷することとなるでしょうし、資金の調達も難しくなります。
【なお、投資判断材料提供の制度としては、有価証券届出書や有価証券報告書などの金融証券取引法に基づく法定開示制度と金融証券取引所における適時開示制度があります。取引所は、上場会社に対して、業績予想の修正のほかにも、一定の決定事実、一定の発生事実、決算情報(決算短信、中間期決算短信、第1・第3四半期決算短信)、配当予想の修正、一定のその他の情報、一定の子会社等の情報などの開示を求めています。】
2.業計画の作成
① 事業計画の骨格と作成の流れ
上場申請のための事業計画の説明には、経営理念・経営ビジョン、会社の過去の沿革・実績、事業の外部環境の分析や自社の事業の特徴・他社との競合の状況を踏まえた経営戦略、経営戦略を実行していくため必要な組織体制、リスク要因とその対応などの説明が必要です。
事業計画作成に当たっては、過年度の業績を分析し、会社の利益構造を良く把握することがポイントとなります。費用を売上げにかかわらず発生する固定費と売上げに比例する変動費に分解するなどし、どれだけ費用を使って何を売ればいくら儲かるのか、セグメント別、商品別、サ-ビス別、あるいは店舗別に利益構造を理解することは、合理的な計画を作成するための基礎となります。また、それによって、予想と実績の乖離が生じた場合、より具体的で有効な施策を立てることが可能になります。
事業計画の数値への落とし込みは、売上計画の作成から始めます。過去のトレンドの分析から、商品別、顧客別、地域別といったセグメント別の売上を積み上げて合算し、売上計画を作成します。特に過去の延長線ではない高い伸びを計画する場合は、なぜ伸ばせるのか具体的な裏付けが必要です。次に売上げを達成するための購買計画や経費計画、製品を製造するための設備投資計画、人員計画や資金計画などを作成し、最終的にそれらを織り込んだ予想損益計算書、予想貸借対照表、予想キャッシュ・フロ-計算書を作成します。
② 経営理念と経営ビジョン
経営理念とは会社の使命や普遍的な価値観を示すもので、経営ビジョンとは会社が中期的に目指す姿・方向性を示すものです。ジェ-ムス・コリンズ著の「ビジョナリ-・カンパニー」を待つまでもなく、明確な経営理念・経営ビジョンを持つことは、従業員が一致団結し、社会との関係性を強化し会社を成長させていくのに大変有用です。特に、経営環境が大きく変化する時や業績が思うようにならない時においても、軸のぶれない経営を行うことが可能になります。
③ 外部環境と競合環境の分析
経営戦略を作成するためには、まず企業を取り巻く外部環境と競合環境の分析を行います。ポイントは、どのような市場のどのような顧客のニ-ズをタ-ゲットとするか、それはどれくらいの市場規模でどのように変化しているか、同業他社にはどのような企業があり、自社の弱みや強みを踏まえどのように差別化していくのか、そしてその戦略を実現するための「人・もの・かね」をどのように手当てしていくのかを説明していきます。市場の説明や競合の説明には、できるだけ具体的な数字を示していくことが大切です。
必要に応じ、SWOT分析、ファイブフォ-ス分析、3C分析、Pest分析など分析手法を用います。SWOT分析は、内部環境の強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境を機会(Opportunity)と脅威(Threat)の4つの視点で整理するもので、どの業態でも比較的分かり易く戦略を説明できる分かり易いツ-ルです。強みと弱みを踏まえ、どのように機会を捉え脅威に対応していくかを説明します。
3.予算管理
年度予算は事業計画に含まれる1年の計画で、年度予算を月次に展開して管理していきます。月次決算では、予算の達成状況を把握し差異の分析を行い、取締役会への報告を行います。特に未達が生じた場合、要因分析を基に具体的な対応策を立て、速やかに実行していくことが肝要です。月次決算は月初め10営業日くらいに終え、取締役会は遅くとも月半ばには開催することが求められます。決算の状況によっては、予算の修正や必要な開示を行っていきます。

