働くということを、映画に学ぶ ― 不条理と希望のあいだで(その2)

映画館の暗闇の中で、働く人の姿に涙する瞬間があります。それは、スクリーンに映るのが誰か知らない人物の人生でありながら、どこか自分のことのように感じるからでしょう。働くという行為は、単なる経済活動だけではありません。誰かのために動き、悩み、報われたり報われなかったりする――その過程が人を形づくっていく、映画は、その働くことの物語を、私たちより少しだけ俯瞰した目線で描いてくれています。

今回は、こうした会社生活での悩みや課題に関連した映画を紹介したいと思います。既にご覧になった作品もあるかもしれませんが、ネタバレにならないように注意しながら、ポイントを絞り説明することで、悩み解決のヒントを得ることができたり、共感を感じ心が温まることがあれば、幸いです。

それでは、4つの軸ごとに映画作品を4本ずつ(重複あり)紹介し、最後に共通するテーマをまとめてみます。

一つ目の軸 新米社長の成長物語リーダーとしての孤独と希望(前号)
二つ目の軸 上司や友人との交流人は人によって育つ
三つ目の軸 会社と個人の葛藤自分らしさを探して
四つ目の軸 「不条理な会社生活」――矛盾の中で、どう生きるか

二つ目の軸 上司や友人との交流人は人によって育つ

ここでは、仕事の温かい側面―「上司や友人との交流」をテーマに、人間関係の中で成長していく姿を描いた映画を紹介していきます。どんな職場にも、思い出す顔があります。最初に叱ってくれた上司、支えてくれた同僚。ときに競い合い、すれ違いながらも、気づけば自分を支えてくれた人たち。働くという行為の本質は、「人と関わること」と思い直してくれる映画です。彼らの会話やまなざしの中に、職場の人間関係のヒントが見つかるのではと思います。


映画『グッド・ウィル・ハンティング』:心を開いた瞬間に、人は変わる

ボストンの大学で清掃員として働く青年ウィル。実は天才的な頭脳を持ちながら、心を閉ざし誰にも近づこうとしない。そんな彼に寄り添うのが心理学者ショーン(ロビン・ウィリアムズ)です。ショーンはウィルにこう語ります。

“You’re afraid of what you might become if you open up.”
(心を開いたら、自分が変わってしまうことを恐れているんだ。)

この一言が、ウィルの世界を揺らがせます。「誰かに理解される」という経験が、彼を初めて大人にします。仕事の現場でも同じことが言えます。本音を言えずに距離を取ってしまう瞬間は、誰にでも起きます。だが、信頼できる上司や同僚に心を開けたとき、人は初めて前に進めることができます。リーダーとして部下を導く人も、同僚と共に歩む人も、まず「相手の物語を聞く」ことから始めてみてはどうでしょう。そこから関係は静かに動き出します。


映画②『最強のふたり』:違いが生む絆

裕福な車いすの男性フィリップと、スラム出身の青年ドリス――。一見、正反対の二人が出会い、人生が変わっていくお話です。最初はまったく噛み合わない。フィリップは知的で繊細、ドリスは無鉄砲で率直。けれども、互いの違いを笑い飛ばしながら、やがて深い友情が生まれる。

“Don’t pity me. You don’t know how lucky you are.” (同情なんてするな。お前は幸運なんだよ。)

この言葉の裏には「対等でありたい」という願いがあります。職場でも、年齢や立場、価値観の違いが人を遠ざけることが起きます。でも、その差こそが関係を豊かにするチャンスです。

ドリスのように飾らずに接する勇気。フィリップのように違いを受け入れる余裕。どちらも、職場の空気を変える力を持っています。友情や信頼は、立場の上下を越えたときに初めて育つことを教えてくれます。


映画③『マイ・インターン』:世代をつなぐ優しさ

70歳のベン(ロバート・デ・ニーロ)は、オンラインファッション企業にシニア・インターンとして入社します。若き女性社長ジュールズは、最初は彼を扱いかねますが、次第にベンの穏やかさと誠実さに救われていきます。

“You’re never wrong to do the right thing.” (正しいことをするのに、間違いなんてない。)

この言葉には、時代を越えた普遍の価値があります。経験を重ねた人の静かな存在感は、チームを落ち着かせる。ベンは大きなことを成し遂げたわけではありません。ただ、誰かの話を聞き必要なときにそっと背中を押しただけです。

それだけで、職場の雰囲気は変わる。リーダーシップとは、命令することではなく寄り添うこと。この映画は、世代間のギャップを越えて、人と人が理解し合う美しさを描いています。


映画④『パターソン』:何気ない日々の中の優しさ

働く人の友情や絆は、ドラマチックな出来事の中だけにあるわけではありません。映画『パターソン』の主人公は、アメリカの地方都市でバス運転手として働く穏やかな男です。毎日同じルートを走り、夜にはノートに詩を書き留める。特別なことは何も起こらない。でも、彼には妻がいて仲間がいて、静かに励まし合う時間がある。

“The most beautiful thing we can do is just keep going.”(いちばん美しいことは、ただ続けることだ。)

忙しさの中で、私たちはしばしば関係を続ける力を忘れてしまいがちです。同僚とのコーヒーの時間、何気ない雑談、そんな小さなやりとりが、明日の自分を支えてくれています。そう人間関係に奇跡は要らない。大切なのは、続ける優しさだと物語は伝えてくれます。


まとめ:人との出会いが、働く意味を変える

ここで紹介した人たちは、皆、誰かとの出会いで人生を変えていきます。

ウィルはショーンに出会い、ドリスとフィリップは互いに人生を照らし合い、ベンとジュールズは世代を越えて心を通わせ、パターソンは日常の中で人の温もりを見つける。どの物語にも、共通して流れるテーマがあります。それは「人は、人によって育つ」ということ。上司に叱られる日も、同僚に支えられる夜も、すべてが自分を形づくる大切な経験になります。
職場での人間関係に疲れたときは、ぜひこれらの映画を思い出して下さい。そこに描かれているのは、誰かに理解されたい、認めてもらいたい、と願う共通の思いです。