解雇規制と実務上のポイント(その1)
使用者が労働契約を解約(=解雇)する場合、労働契約に期間の定めがある場合と期間の定めがない場合に分けて考える必要があります。以下では、解雇規制と実務上のポイントについて解説します。
1.期間の定めのある場合 (1)契約期間満了に関する民法上の原則 (2)労働契約法による修正 (3)実質無期状態・更新の合理的期待の判断基準 (4)客観的に合理的な理由・社会通念上相当の判断基準 (5)期間途中の解雇(以上本号) 2. 期間の定めのない場合 (1)民法上の原則 (2)労働基準法による修正 (3)労働契約法による修正 (4)整理解雇 (5)就業規則 (6)その他の規制 3.実務上のポイント (1)解雇のリスク (2)雇用終了合意書の薦め (3)雇用終了合意書で定めるべき事項 (4)退職パッケージ (5)手続の流れ (6)留意点 |
1. 期間の定めのある場合
(1)契約期間満了に関する民法上の原則
民法上は、労働契約の期間が終了すれば契約の効力は当然に終了しますが、労働者が所定の契約期間を過ぎても労働を継続し使用者がこれを知りながら異議を述べない場合は従前と同一の条件で契約が黙示に更新されたものと推定されます(民法629条1項)。そのため、有期雇用契約を期間の終了と同時に打ち切るためには、黙示の更新を避けるべく、更新拒否(=雇止め)の意思表示をする必要があります。
(2)労働契約法による修正
2012年の労働契約法改正により、従前の判例法理が反映され、以下の条件が満たされる場合は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で有期労働契約が成立することになりました。
- (i)過去に反復して更新された有期労働契約であって、その契約期間満了時にこれを更新しないことにより終了させることが期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をして契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合、又は(ii)労働者が有期労働契約の契約期間満了時に契約更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合であること。
- 労働者が、(i)契約期間満了日までに契約更新の申込をした場合、又は(ii)契約期間満了後遅滞なく有期労働契約締結の申込をした場合であること。
- 使用者が上記②の申込を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上認められない場合であること。
上記②の契約更新の申込は黙示の意思表示でもよいため、労働者が使用者の雇止めに遅滞なく異議を述べれば更新又は締結の申込をしたことになります。その結果、反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合や契約更新につき労働者の合理的な期待が認められる場合は、使用者の雇止めに遅滞なく異議を述べた労働者との有期労働契約が成立することになります。上記①及び③の要件を満たすかどうかは、従前の裁判例(①(i)につき東芝柳町工場事件 最判昭和49.7.22、(ii)につき日立メディコ柏工場事件 最判昭和61.12.4等)を検討する必要があります。
(3)実質無期状態・更新の合理的期待の判断基準
実質無期状態かどうかは、反復更新の有無・程度や更新管理(契約書の事前作成、更新の有無や契約内容の確認、署名又は記名捺印)の厳密さ等に基づいて判断されます。例えば、反復して更新され、更新手続が特段の手続を経ずに自動的に行われている場合には、実質無期状態と判断される可能性が高くなります。
更新の合理的期待の有無は、業務内容(基幹的なものか一時的なものか)、当該労働者の更新回数・通算期間、同種労働者の更新回数・通算期間、雇用継続の期待を持たせる言動等に基づいて判断されます。例えば、業務内容が基幹的なもので反復して長期にわたり更新されている場合、同種労働者が反復して長期にわたり更新されている場合、採用時や更新時に更新の期待を持たせる説明をしている場合は、更新の合理的期待が認められる可能性が高くなります。
(4) 客観的に合理的な理由・社会通念上相当の判断基準
雇止めが客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるかは、労働者の成績不良、仕事上のミスや非違行為の内容・程度が吟味されますが、雇止めの正当理由も併せて判断されることもあります。有期労働者の無期転換権行使(労働契約法18条)を免れることは正当理由と認められない傾向にあります。
(5)期間途中の解雇
使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、期間の定めのある労働契約の契約期間満了前に労働者を解雇することはできません(労働契約法17条)。「やむを得ない事由」は、期間の定めのない労働契約における解雇に必要な「客観的に合理的で社会通念上相当である」ことよりも厳格に解すべきとされています。期間途中での解雇が無効である場合において契約期間が満了しているときは、期間満了により契約が終了するか更新がなされるかにつき判断すべきとされています(朝日建物管理事件 最判令元.11.7)。