譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(その2)

実務上発展してきた譲渡担保権及び所有権留保を法制度化する「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(「法」)が成立し2025年6月6日に公布されました。従来、民法上明文で認められた担保物権(典型担保)は留置権、先取特権、質権及び抵当権の4種類に限られていましたが、これらに加え、譲渡担保や所有権留保等が判例上認められてきました。企業の資金調達における担保としては不動産担保や個人保証が広く用いられてきましたが、譲渡担保及び所有権留保が法制度化され権利関係が明確になったことにより、不動産担保や個人保証に頼らない両制度の活用が期待されます。

1.譲渡担保権とは(これまで) 2.譲渡担保契約の効力(以上前号) 3.集合動産・集合債権を目的とする譲渡担保権 4.他の担保権との優劣関係 5.譲渡担保権実行に関する規律 6.倒産手続における取扱い 7.施行日

3.集合動産・集合債権を目的とする譲渡担保権

集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保とは、一定範囲の動産(構成部分が変動するもの)(例えば池の中の鯉や倉庫内の商品)や債権(将来債権を含む)を対象として譲渡担保権を設定するものです。

(1)集合動産・債権の特定方法

集合動産の範囲は、種類及び所在場所等により特定されます(法40条)。集合債権の範囲は、債権の発生年月日の始期及び終期、発生原因その他の事項の指定により特定されます(法53条1項)。

(2)対抗要件の特例

集合動産譲渡担保権者は、動産特定範囲(特定された集合動産の範囲)に属する動産全部の引渡を受けた場合は、その後動産特定範囲に追加された動産についても集合動産譲渡担保権を対抗できます(法41条1項)。

(3)集合動産の処分・集合債権の取り立て

集合動産譲渡担保権設定者は、集合動産譲渡担保権者を害することを知っていた場合や別段の定めのある場合を除き、動産特定範囲に属する動産を処分することができます(法42条1項、2項)。集合動産譲渡担保権者は、集合動産譲渡担保権設定者が集合動産譲渡担保権者を害することを知って又は権限範囲を超えて動産特定範囲に属する動産を処分するおそれがある場合は、その予防を請求できます(法42条4項)。

集合債権譲渡担保権設定者は、債権特定範囲(特定された集合債権の範囲)に属する債権を取り立てることができる旨の定めがある場合は、当該債権を取り立てることができます(法53条1項)。集合債権譲渡担保権の債務者対抗要件(譲渡人の債務者に対する通知又は債務者の承諾)具備後に第三債務者(債権特定範囲に属する債権の債務者)が集合債権譲渡担保権者に弁済した場合は、集合債権譲渡担保権者は、被担保債権の弁済期が到来するまでは、集合債権譲渡担保権設定者に対し弁済等により受けた利益の価額に相当する金銭を支払う必要があります(法53条2項、48条1項)。

(4)集合動産譲渡担保権設定者・集合債権譲渡担保権設定者の価値維持義務

集合動産譲渡担保権設定者は、正当な理由がある場合を除き、動産特定範囲に属する動産の補充その他の方法によって、動産特定範囲に属する動産の一体としての価値を、集合動産譲渡担保権者を害しないよう維持する義務があります(法43条)。

集合債権譲渡担保権設定者は、正当な理由がある場合を除き、債権特定範囲に属する債権の補充その他の方法によって、債権特定範囲に属する債権を一括した価値を、集合債権譲渡担保権者を害しないよう維持する義務があります(法43条、54条1項)。

(5)一般債権者の保護

集合動産譲渡担保権の被担保債権が消滅した日から1年以内に破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立があった場合は、集合動産譲渡担保権者は、集合動産譲渡担保権の被担保債権が消滅した額のうち、集合動産譲渡担保権の目的である動産の価値の9割又は集合動産譲渡担保権の実行費用及び被担保債権の元本の合計額のいずれか大きい額を超える部分を、破産財団、再生債務者財産、更生会社財産、更生協同組織金融機関財産又は清算株式会社の財産に組み入れなければなりません(法71条1項、95条)。集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保においては担保対象の範囲が広いため、労働者等の一般債権者への返済額が減少するおそれがあります。これにより、労働者等の一般債権者への返済が一定範囲で確保されることになります。