譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(その3)

実務上発展してきた譲渡担保権及び所有権留保を法制度化する「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(「法」)が成立し2025年6月6日に公布されました。従来、民法上明文で認められた担保物権(典型担保)は留置権、先取特権、質権及び抵当権の4種類に限られていましたが、これらに加え、譲渡担保や所有権留保等が判例上認められてきました。企業の資金調達における担保としては不動産担保や個人保証が広く用いられてきましたが、譲渡担保及び所有権留保が法制度化され権利関係が明確になったことにより、不動産担保や個人保証に頼らない両制度の活用が期待されます。

1.譲渡担保権とは(これまで) 2.譲渡担保契約の効力 3.集合動産・集合債権を目的とする譲渡担保権(以上前号まで) 4.他の担保権との優劣関係 5.譲渡担保権実行に関する規律 6.倒産手続における取扱い 7.施行日

4.他の担保権との優劣関係

譲渡担保権は同じ財産について複数設定することができるため、複数の譲渡担保権が競合する可能性があります。また、譲渡担保権と先取特権や質権が競合する可能性があります。そのため、いずれの担保権者が優先的に返済を受けられるかを決める必要があります。

(1)他の譲渡担保権との競合

同一の動産について複数の動産譲渡担保権が競合する場合は、当該動産の引渡(登記・登録を要する動産の場合は登記・登録)の前後によることが明文化されました(法32条)。

同一の債権について複数の債権譲渡担保権が競合する場合は、債権譲渡に関する確定日付ある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾の前後によることが明文化されました(法49条)。

同一のその他の財産(動産・債権以外の財産)について複数の譲渡担保権が競合する場合は、当該財産譲渡についての対抗要件具備の前後によることが明文化されました(法55条)。

(2)質権・先取特権との競合

同一の動産について動産譲渡担保権と先取特権が競合する場合は、動産譲渡担保権者は、民法330条に定める第一順位の先取特権者と同一の権利を有するものとされました(法34条1項)。同一の動産について動産譲渡担保権と質権が競合する場合は、動産の譲渡についての引渡と動産質権の設定の前後によることが明文化されました(法35条)。

同一の債権について債権譲渡担保権と質権が競合する場合は、債権譲渡に関する確定日付ある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾と質権設定に関する確定日付ある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾の前後によることが明文化されました(法51条)。

同一のその他の財産(動産・債権以外の財産)について譲渡担保権と質権が競合する場合は、財産譲渡についての対抗要件具備と質権設定についての対抗要件具備の前後によることが明文化されました(法56条)。

(3)占有改定についての例外

動産譲渡担保の対抗要件は引渡ですが、これには占有改定(設定者が目的動産を引き続き所持しながら以後担保権者のために目的動産を占有するもの)が含まれます。占有改定を外部から認識することは困難であるため、新たに担保権を設定する者は優先する担保権の有無を判断できず担保価値を把握することが困難です。

そのため、占有改定で譲渡担保動産の引渡を受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権者は、占有改定以外の方法で譲渡担保動産の引渡を受けることにより対抗要件を備えた動産譲渡担保権、動産質権又は企業価値担保権に劣後するものとされました(法36条1項)。

(4)目的動産と牽連性のある金銭債権を担保する動産譲渡担保権の優先性

目的動産と牽連性のある金銭債権を担保する動産譲渡担保権については、動産譲渡担保権設定者の事業継続の観点から優先的に扱う必要が高いといえます。

そのため、譲渡担保動産の代金の支払債務(又は譲渡担保動産の代金の支払債務の債務者から委託を受けた者が当該代金の支払い債務を履行したことにより生ずる当該債務者に対する求償権に係る債務)(利息、違約金、実行費用、損害賠償を含む。)(「牽連性のある金銭債務」)のみを担保するための動産譲渡担保契約に基づく動産の譲渡は、譲渡担保動産の引渡がなくても第三者に対抗できることとされました(法31条)。

また、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権は、牽連性のある金銭債務を担保する限度において、競合する他の動産譲渡担保権、動産質権又は企業担保価値担保権に優先することとされました(法37条1項)。但し、動産譲渡担保権が他の担保権者が対抗要件を具備した後に譲渡担保動産の引渡を受けた場合はこの限りではありません。