ショート・ショート未来物語(いじめ編)
《いじめに関する現在の諸問題は未来社会ではどうなっているか?今回は、いじめ問題に関する希望的な未来物語です。》
「ただいま~!」
小学1年生の孫が学校から帰ってきた。孫は、同居している娘夫婦の長男である。最近はゲームに熱中していて困りものだが、大人向けのゲームもろくにルール説明の漢字も読めないまますぐに要領を覚えて楽しんでいるから、地頭はいいのだろう。
「明日、『エイチエムシーエス』っていうのがあるんだって。エイチエムシーエスって何?」
「悪いことをしていないか調べることだよ。悪いことしてなければ何も心配しなくていいよ。」「ふーん。」孫は、母親に隠れてゲームをしていることを心配しているようである。
HMCS(Harassment Memory Check System)とは、2040年に導入された国民受診制度であり、7歳から70歳までの全国民は、毎年1回受診しなければならない。受診者は、ヘッドホーンのような記憶読み取り装置を装着し、約30分で過去1年間の「他人を攻撃した記憶」と「他人から攻撃を受けた記憶」のみがデータ化される。データ化された記憶はAIが解析し、合理的理由のない攻撃の記憶のみが抽出され、国のデータセンターに集約される。集約された攻撃データの深刻度に応じたポイントが攻撃者に付与され、攻撃者は、3ポイントになると警告を受け、5ポイントになると刑事罰を科される(未成年者は特別更正施設に一定期間入所する。)。ポイントは3年経過すると失効する。ポイントは随時公表され、進学や就職や社内の査定にも反映される。ポイントの付与内容(ポイントを付与しない場合を含む。)に不服がある場合は、1年以内に限り不服審査請求を利用できる。不服審査請求は、親子、夫婦又は恋人のような近親者間の攻撃に関して争われることが多い。近親者間の攻撃データの評価には周辺情報も加味する必要があるためと思われる。未成年者による不服審査請求は、原則としてその親権者が行うが、未成年者が希望する場合は裁判所が指名する代理人弁護士が行う。
HMCSの導入により、身体傷害のような形が残らないメンタルへの攻撃も立証が容易となったため、「いじめ」「ハラスメント」「DV」はもはや死語になりつつある。
「じいじはエイチエムシーエスを受けなくていいの?」「じいじはいじめはしないからいいんだよ(本当は70歳を超えているからだが)。」「『いじめ』って何?」「うーん、いじわるすることかな?」「『いじわる』って何?」「うーん、困らせて優越的地位に立とうとすることかな?」「『優越的地位』って?」・・・・・・
いじめがなくなってきたことは喜ばしいが、かつて世間に蔓延していた悪しき事象を説明するのは難しい。。。

