カスタマーハラスメント対応(完)
厚生労働省が令和2年に行った調査によれば、労働者が過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した者の割合は15.0%であり、パワーハラスメント(31.3%)よりは少ないですが、セクシャルハラスメントよりも高い割合となっています。そこで、本稿では、カスタマーハラスメントへの対応について考えてみたいと思います。
ハラスメントに関する規制一般カスタマーハラスメントの定義及び判断基準カスタマーハラスメントの具体例カスタマーハラスメントへの対応(以上前号まで)カスタマーハラスメント対策の基本的枠組み 6.カスタマーハラスメント対策のメリット |
5.カスタマーハラスメント対策の基本的枠組み
(1)平時における対策
①事業主の基本方針・基本姿勢を明確化し、従業員に周知・啓発し教育すべきです。
②カスタマ-ハラスメントを受けた従業員が相談できる相談窓口(又は担当者)を設置し、従業員に周知すべきです。
③カスターハラスメントへの対応体制や手順(報告手順や対応担当者等)を予め決めておくべきです。
④カスタマーハラスメントへの対応に関する社内ルールを従業員に周知し、教育すべきです。
⑤労働者がカスタマーハラスメントの相談を行ったこと又は事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないことも、従業員に周知すべきです。
(2)有事における対策
①事実関係を正確に確認する必要があります。顧客等の主張する事実を正確に把握した上で、追加調査により不明点を確認し、顧客等の勘違いがあれば是正すべきです。
②確認した事実関係に関する情報は、現場監督者や相談窓口担当者と共有すべきです。顧客等に対して一貫した立場で対応するためです。
③必要な初動対応をすべきです。初動対応の遅れは問題の拡大につながるおそれがあります。商品・サービスの瑕疵や従業員の過失がある場合は謝罪すべきですが、かかる瑕疵や過失がない場合は要求に応じる必要はありません。事実を正確に確認できない段階では、事実を確認中であることを前提として対応すべきであり、安易に非を認めるべきではありません。
④カスタマーハラスメントを受けた従業員に対して(メンタルを含めて)適切な配慮をすべきです。
⑤再発防止のために定期的に取り組みの見直しや改善を行うべきです。事例紹介
6.カスタマーハラスメント対策のメリット
カスタマーハラスメント対応には、以下のメリットが考えられます。
(1)業務への好影響
・顧客対応のノウハウが社内に蓄積されます。
・対応方法(担当者、手順、対応内容等)が明確になることにより、従業員が迅速且つ的確に対応することが可能となります。
・顧客や取引先との関係の改善強化につながることも考えられます。
(2)従業員への好影響
・事業主の姿勢が明確になることにより、従業員に安心感が生まれます。
・カスタマーハラスメントを受けた従業員への配慮により、従業員に安心感が生まれます。
(3)職場環境への好影響
・迷惑行為をする顧客が少なくなることにより、職場環境が改善します。
(4)事業主責任の軽減
・カスタマーハラスメント対策を講じることにより、事業主の雇用管理上必要な措置を講じる義務(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2)の違反や、従業員に対する安全配慮義務の違反のリスクが低減されます。