外国人の就労について/後編 制度改定と今後の課題(完)

本年8月に本年6月14日「育成就労」創設を柱とした出入国管理及び難民認定法(以下、入管難民法)の改正法案が可決・成立、2027年よりの施行が決定されました。これまで外国人技能実習生の人権が十分に尊重されておらず、それが原因で失踪者や犯罪加担者を生み出してきたなど、多くの問題が指摘されてきた外国人技能実習制度の見直しが、2022年12月より開催されてきた有識者会議、政府閣議、衆参議院での審議を経て、ついに実現された訳です。

一時期マスコミでも取り上げられ、その報道内容では一般的にこの流れと決定を好意的に受け止めているとのことでしたが、「実習生の転職の禁止が諸悪の根源で、これを条件付きで認める事により実習生の権利は保証され、実習生に魅力ある制度となる」みたいな見解がやたらと引用される一方で、日本の労働力不足という待ったなしの問題点との兼ね合いでの効果はどうか、という議論が大変薄い様に筆者には感じられました。

前回、前編として「外国人就労の現状」を掲載し、外国人が就労するためには在留資格が必要なこと、外国人の就労は日本がかかえる労働力不足という問題を解決するために不可欠なものであることをお話ししました。 今回は「育成就労」制度の内容と今後の課題についてお話ししてみたいと思います。

1.今回の制度見直しの背景・経緯と新制度の概要 2.労働人口の推移予測 3.今後の課題 各分野における要件設定を現実的なものに出来るか?送金原資を確保できる給与の提供は可能か?(以上前号まで)移民政策批判への対処は大丈夫か? 4.最後に

3.今後の課題

今回の制度改定は、長く足かせとなってきた「国際協力」という看板をおろし、日本の労働力不足に真っ向から取組む制度設計となっています。これは画期的なことであり日本の将来に大いに貢献する試みと評価して良いでしょう。

まずは特定技能制度において、先にあげた今後5年間の受入れ見込み数を確保し、労働力不足問題に対処することでしょう。さもなければ、その先はよりおぼつかないものとなります。最初の5年間を成功させるために課題として考えられることを以下してみます。

3)移民政策批判への対処は大丈夫か?

同じく日本が就労場所として選ばれるかどうか、の重要な視点として永住権獲得の可否があげられます。移民の門戸をあけよ、ということです。

特定技能を経ての永住権獲得を想定し、移民政策である、として真っ向から反対にまわる勢力・人々が多い様です。移民政策反対派の論拠は、① 移民増により国の形がかわり日本の文化や伝統が失われる ② 社会の治安が悪化し社会的コストが増える ③ 日本人の雇用が奪われ労働条件が悪化する ④ 外国人移民に対する医療、介護など社会保障費が増大する ⑤ 既に移民を受け入れた欧州諸国は失敗している、の5つに集約されます。

それぞれの論拠に対し、① 労働人口がどんどん減っていく高齢化社会の日本でその文化・伝統は守れるのか? ② 労働力不足により建設など社会インフラの補修が遅れた場合でも社会の治安は悪化せず社会的コストは維持できるのか? ③ 現実に実習生制度や特定技能で外国人が就労している職場は日本人が働かなくなった職場ではないのか? ④ 移民より社会保険料・社会保障費を徴収すれば現状と違う姿になるのか? ⑤ 欧州は戦争や地域紛争による移民・難民が多く、米国は不法入国者が多いがための政策の失敗であり、これを日本に適用するのはお門違いでは? と、論陣をはれる訳ですが、何より政府がこれらの勢力に対し相当配慮しているので、せっかく労働力確保のための種々の政策を行っても腰砕けになってしまわないかを危惧します。 「政府としては、例えば、国民の人口に対して一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない。」2018年の首相の国会答弁においての回答です。特定技能1号を制度化した時のものですが、新制度に舵を切った現在において、移民政策への批判圧力を考慮し議論を行わないという政府の基本的姿勢が今回も変わらないのであれば、新制度の機能にはかなり制限がかかると思われます。

4.最後に

先日、北関東を中心に連続強盗事件をおこしたとして、ベトナム人2名が逮捕されました。

朝の人気番組で取り上げられた際、ある識者と思われる方が「この2名は実習生あがりで、実習制度は労働者の転職を認めていないが、今回の育成労働制度への改定で転職を認めたから大丈夫」という趣旨の発言をされていて、実習制度がもたらした犯罪であるという刷り込みを狙った発言か、と驚いてしまいました。 この識者およびマスコミが「外国人就労が増えると犯罪が増えるという指摘があるが、制度を変えたから大丈夫」という見解に忖度したのか、あるは本当に正しいと信じているのかは不明ですが、いずれの場合でも、この見解を繰り返すのみでは、上記3に述べた問題は解消しません。