カスタマーハラスメント対応

厚生労働省が令和2年に行った調査によれば、労働者が過去3年間に勤務先で顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した者の割合は15.0%であり、パワーハラスメント(31.3%)よりは少ないですが、セクシャルハラスメントよりも高い割合となっています。そこで、本稿では、カスタマーハラスメントへの対応について考えてみたいと思います。

ハラスメントに関する規制一般カスタマーハラスメントの定義及び判断基準カスタマーハラスメントの具体例カスタマーハラスメントへの対応カスタマーハラスメント対策の基本的枠組み 6.カスタマーハラスメント対策のメリット

1.ハラスメントに関する規制一般

職場におけるセクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント及びパワーハラスメントを防止するため、事業主は、①事業主の方針の明確化及びその周知啓発、②相談に適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速且つ適切な対応(マタハラについては職場におけるマタニティハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置を含む)等の雇用管理上必要な措置を講じる必要があります(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条、11条の3、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2)。

セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント及びパワーハラスメントの定義及び関連する政府の指針は以下の通りです。労働者がハラスメントの相談を行ったこと又は事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されます。

・セクシュアルハラスメント:①対価型:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること及び②環境型:かかる性的な言動により労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号))

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf

・マタニティハラスメント:職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前休業を請求したこと、産後休業をしたこと等に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28 年厚生労働省告示第312 号))

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605635.pdf

・パワーハラスメント:職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)(「パワハラ指針」))

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf

2.カスタマーハラスメントの定義及び判断基準

他のハラスメントの定義及び上記パワハラ指針を前提とすれば、カスタマーハラスメントとは、顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの、と捉えることが考えられます。

従って、①顧客等のクレーム・言動の要求内容に妥当性があるか、及び②かかる要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当であるか、を判断することになります。

3.カスタマーハラスメントの具体例

厚生労働省の調査によれば、以下のような行為が確認されました。

  • 時間的拘束

・長時間の拘束、居座り、電話

リピート型

・頻繁に来店し、そのたびにクレームを言う

・度重なる電話

・複数部署にまたがる複数回のクレーム

  • 暴言

・大声・暴言で執拗にオペレーターを責める

・店内で大声をあげて秩序を乱す

・大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し

  • 対応者の揚げ足取り

・電話対応での揚げ足取り

・自らの要求を繰り返し、通らない場合は言葉尻を捉える

・同じ質問を繰り返し、対応の御簾が出たところを責める

・一方的にこちらの落ち度に対してのクレーム

・当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立て

  • 権威型

・優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求

  • SNSへの投稿

・インターネット上の投稿(氏名公表)

・会社・社員の信用を失墜させる行為

  • 正当な理由のない過度な要求

・言いがかりによる金銭要求

・私物(スマホ、PC等)の故障についての金銭要求

・遅延したことに寄る運賃の値下げ要求

・難癖をつけたキャンセル料の未払い、代金の返金請求

・備品を過度に要求する(歯ブラシ10本)

・入手困難な商品の過剰要求

・制度上対応できないことへの要求

・運行ルートへのクレーム、それに伴う遅延への苦情

・契約内容を超えた過剰な要求

  • セクハラ

・特定の従業員へのつきまとい

・従業員へのわいせつ行為や盗撮

  • その他

・事務所への不法侵入

・正当な理由のない業務スペースへの立入

4.カスタマーハラスメントへの対応

上記パワハラ指針では、以下の通り述べられています。

事業主は、取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、例えば、⑴及び⑵の取組を行うことが望ましい。また、⑶のような取組を行うことも、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる。

 ⑴ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等 からの著しい迷惑行為に関する労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ 適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、4(2)イ及びロの例[注:相談への対応のための窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること、相談窓口の担当者が相談に対しその内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること]も参考にしつつ、次の取組を行うことが望ましい。また、併せて、労働者が当該相談をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。

イ 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、これを労働者に周知すること。

ロ イの相談を受けた者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 ⑵ 被害者への配慮のための取組

事業主は、相談者から事実関係を確認し、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うことが望ましい。

(被害者への配慮のための取組例)

事案の内容や状況に応じ、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に一人で対応させない等の取組を行うこと。

 ⑶ 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組

⑴及び⑵の取組のほか、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為からその雇用する労働者が被害を受けることを防止する上では、事業主が、こうした行為への対応に関するマニュアルの作 成や研修の実施等の取組を行うことも有効と考えられる。また、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては効果的と 考えられる。

5.カスタマーハラスメント対策の基本的枠組み

(1)平時における対策

①事業主の基本方針・基本姿勢を明確化し、従業員に周知・啓発し教育すべきです。

②カスタマ-ハラスメントを受けた従業員が相談できる相談窓口(又は担当者)を設置し、従業員に周知すべきです。

③カスターハラスメントへの対応体制や手順(報告手順や対応担当者等)を予め決めておくべきです。

④カスタマーハラスメントへの対応に関する社内ルールを従業員に周知し、教育すべきです。

⑤労働者がカスタマーハラスメントの相談を行ったこと又は事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないことも、従業員に周知すべきです。

(2)有事における対策

①事実関係を正確に確認する必要があります。顧客等の主張する事実を正確に把握した上で、追加調査により不明点を確認し、顧客等の勘違いがあれば是正すべきです。

②確認した事実関係に関する情報は、現場監督者や相談窓口担当者と共有すべきです。顧客等に対して一貫した立場で対応するためです。

③必要な初動対応をすべきです。初動対応の遅れは問題の拡大につながるおそれがあります。商品・サービスの瑕疵や従業員の過失がある場合は謝罪すべきですが、かかる瑕疵や過失がない場合は要求に応じる必要はありません。事実を正確に確認できない段階では、事実を確認中であることを前提として対応すべきであり、安易に非を認めるべきではありません。

④カスタマーハラスメントを受けた従業員に対して(メンタルを含めて)適切な配慮をすべきです。

⑤再発防止のために定期的に取り組みの見直しや改善を行うべきです。事例紹介

6.カスタマーハラスメント対策のメリット

カスタマーハラスメント対応には、以下のメリットが考えられます。

(1)業務への好影響

・顧客対応のノウハウが社内に蓄積されます。

・対応方法(担当者、手順、対応内容等)が明確になることにより、従業員が迅速且つ的確に対応することが可能となります。

・顧客や取引先との関係の改善強化につながることも考えられます。

(2)従業員への好影響

・事業主の姿勢が明確になることにより、従業員に安心感が生まれます。

・カスタマーハラスメントを受けた従業員への配慮により、従業員に安心感が生まれます。

(3)職場環境への好影響

・迷惑行為をする顧客が少なくなることにより、職場環境が改善します。

(4)事業主責任の軽減

・カスタマーハラスメント対策を講じることにより、事業主の雇用管理上必要な措置を講じる義務(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2)の違反や、従業員に対する安全配慮義務の違反のリスクが低減されます。