現場主義の重要性

「事件は現場で起きているんだ!」という「踊る捜査線」の名セリフを覚えておられる方もいると思いますが、弁護士の世界でも現場が大事です。今回は、事例形式でご紹介します。

1.水漏れ事故

事案の概要:

某ホテルで客室の浴槽からお湯があふれて階下まで漏れるという事故が発生した。宿泊客によれば、浴室の湯船の蛇口をひねってお湯をためている途中で寝てしまい、目が覚めたら部屋中が水浸しだったとのことである。ホテルが宿泊客に対して水漏れ事故による損害の賠償請求をするためには、宿泊客が湯船の蛇口をひねったまま放置したことと水漏れ事故との因果関係を証明しなければならない。

現場主義の成果:

当該ホテルに向かい、水漏れ事故の発生した客室と同じ構造の客室を借りて、宿泊客の説明通りに湯船にお湯をためた。何回か繰り返すうち、湯船の縁に伏せて置いてあった洗面器があふれるお湯とともに洗い場に落下した。その後も同じことを繰り返すと、洗い場の排水口に流れ込むお湯が洗い場に落ちた洗面器に当たって洗面器が動き出した。洗面器はくるりと円を描くように排水口のほうに動き、そのうち排水口を完全に塞ぐ形で止まった。そうすると、排水口からお湯が流れなくなって、みるみるうちに流し場にお湯が溜まっていった。これにより、湯船の縁において伏せて置いてあった洗面器が湯船にお湯があふれることで流し場に落下し、その後お湯に流された洗面器が排水口を塞いだことにより、客室が水浸しになったという因果関係が判明した。

2.事情聴取

事案の概要:

某会社の内部通報窓口に、匿名でA事業所での不正行為について通報があった。A事業所は、ここ数年間、優秀な営業成績をあげている。A事業所から本社に報告された過去の取引記録を精査しても異常は見当たらず、通報者を特定することも難しい。不正行為の内容次第では、今後の会社の事業運営にとって重大な悪影響があるため、不正行為の有無を至急確認しなければならない。

現場主義の成果:

A事業所では毎朝午前8時に全従業員が集まって朝礼を行っていた。そこで、朝礼時間に本社役員とともにA事業所を乗り込み、役員から全従業員に対し、パソコンも携帯も触らず部屋からも出ないように命じてもらった。「フリーズ!」である。各従業員のパソコンのデータをコピーし、各従業員の卓上のカレンダーと会社貸与の携帯を回収し、個人携帯についても同意を得て一時預かりとした。同時に、従業員を順次別室でインタビューし、他の従業員は本社役員と同じ部屋で待機してもらった。インタビューが一通り終わったが不正行為の事実は確認できなかったため、ひとまず喫煙タイムとし、10数人の従業員が喫煙所に移動した。喫煙所で従業員同士であれこれ会話が交わされる中、「やっぱ○○(の事実)はあったよな。」「○○取締役は○○してたよ。」等、新たな事実が聞こえてきた。これを糸口としてさらにインタビューを続けた結果、不正行為の存在が明らかとなった。

3.刑事弁護

事案の概要:

B被告は、窃盗(空き巣)の容疑で起訴された。窃盗現場での物証は見つかなかったが、検察は、窃盗現場付近の喫茶店の前でB被告を犯行時刻に目撃したというC証人の証言を決め手と考えているようであった。B被告は、窃盗現場付近には行ったことがないと主張しているが、B被告が犯行時刻にほかの場所にいたことのアリバイを証明できない。B被告を無実とするためには、C証人の証言の信用性を覆す必要がある。

現場主義の成果:

犯行時刻と同じ時間帯に窃盗現場付近の喫茶店を訪れ、付近の写真撮影を行った。犯行時刻は夕方であり、喫茶店の看板の文字は読みづらく色も識別できない状況であった。別の日の明るい時間帯に再び訪れると、喫茶店の看板には、青い下地の上に白い文字で「キャメル」と描かれていた。公判期日の証人Cに対する反対尋問は以下の通りであった。

「あなたが被告人を見たのは何時頃ですか。」「夕方5時頃です。」

「どこで見たのですか。」「キャメルという喫茶店の前です。」

「そこはよく通るところですか。」「初めて通りました。」

「キャメルという店名は何故わかったんですか。」「店の看板がありました。」

「看板は何色でしたか。」「青色でした。」

「これは、午後5時頃の現場写真ですが、『キャメル』という看板の文字は読めますか。」「わからないです。」「看板は何色ですか。」「よく見えません。」

「看板の文字も色もわからない状況で本当に被告人を見たんですか。」「・・・・・。」

(→被疑者を目撃したとの証言の信用性を覆すことに成功)

法律に限らず、現場を確認することで、新たな気づきがあったり、現場でしかわからないことが見つかったりしますので、「現場主義」は重要ですね。