家庭の法律基礎知識(離婚編)

ビジネスの世界だけでなく家庭内でも、法律に従った対応が必要な場合があります。そこで、このシリーズでは、家庭内のもめごとに対応する上で知っておいていただきたい法律の基礎知識を概説します。本編は離婚に関するものです。括弧内の条文は民法の条文を指します。

1.離婚の現状 2.離婚原因 3.離婚に際して定める事項 4.弁護士に相談するにあたって

1.離婚の現状

離婚件数は、昭和38年以降増加し平成14年には約29万組となったが、平成15年以降は減少傾向が続いており、令和2年は19万3000組でした。令和2年の「年齢別婚姻率の 合計」(1人の男または女がその 年齢別婚姻率で一生の間に結婚をするとしたときの結婚回数に)は男が 0.79女が 0.84 であり、令和2年の「年齢別離 婚率の合計」(1人の男または女 がその年齢別離婚率で一生の間に離婚をするとしたときの離婚回数)は男が 0.26、女が 0.27 であるので、結婚に対する離婚の割合は男女とも 0.32 、即ちおよそ結婚した3組に1組が離婚していることになります(厚生労働省令和4年度人口動態統計特殊報告)。

2.離婚原因

夫婦は、協議上の離婚又は裁判上の離婚をすることができます(763条、770条)。

裁判上の離婚事由は、①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④回復の見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由の5つに限られます。但し、裁判所は、①ないし④の事由がある場合であっても一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認める場合は、離婚の請求を棄却できます。原則として有責配偶者からの離婚請求は認められません(最判昭和27・2・19)が、長期間別居している場合は特段の事情のない限り有責配偶者からの離婚請求が認められる余地があります(最判昭和62・9・2、最判平成6・2・8)。テレビのバラエティー番組で離婚できるかどうかがクイズ形式で出題される場合がありますが、法定離婚事由は上記の通り限定されており、裁判上の離婚は簡単ではないことを認識すべきです。協議上の離婚原因は限定されていないので、単なる「性格の不一致」であっても協議が成立すれば問題ありません。

3.離婚に際して定める事項

離婚に際しては、以下の事項を定める必要があります。

(1)子の監護

子の監護をすべき者、子との面会その他の交流に関する事項、子の監護費用の分担に関する事項、その他子の監護について必要な事項を、子の利益を最優先して考慮しなければなりません。協議できない場合は家庭裁判所が定めます(766条)。

(2)離婚による復氏

婚姻により氏を改めた夫又は妻は婚姻前の氏に復しますが、離婚から3ヶ月以内に届け出ることにより離婚の際に称していた氏を称することができます(767条)。

(3)財産分与

婚姻中に夫婦で築いた夫婦共有財産を夫婦間で分割清算することになります。協議できない場合は、離婚から2年内に限り、家庭裁判所に対し協議に代わる処分(分与させるべきか並びに分与の額及び方法)を請求できます(768条)。財産分与請求権と慰謝料請求権のいずれかを選択して行使することができます(最判昭和31・2・21)が、財産分与請求権の行使によっても精神的苦痛を慰謝するに足りない場合は別個に慰謝料請求をすることができます(最判昭和46・7・29)。裁判所は、当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の額及び方法を定めることができるとされています(最判昭和53・11・14)。分与の割合は財産を築いた貢献度によって決まりますが、一般的には(専業主婦であっても)2分の1ずつです。

(4)祭祀承継

婚姻によって氏を改めた夫又は妻が祭祀を承継した場合は、その権利を承継すべき者を定める必要があります。協議できない場合は家庭裁判所が定めます(769条)。

4.弁護士に相談するにあたって

離婚を弁護士に相談する場合は、以下の点に留意する必要があります。

①相談の真の目的は何か

不貞をやめさせたい、痛い目に遭わせたい、暴力から身を守りたい、別の人と結婚したい等、離婚したいという場合の本音は様々です。もし離婚によっても根本的解決にならないのであれば、別の方法を検討すべきかもしれません。また、離婚と慰謝料のいずれを優先するのかも最初に決めておくべきです。とにかく離婚したいのであれば離婚を優先すべきですが、相手方を懲らしめることが主眼であれば慰謝料請求は譲れないことになります。

②依頼の範囲

離婚の相談を受けた弁護士が行う作業としては、通知、交渉、離婚調停、離婚訴訟が考えられます。弁護士に依頼する場合は、どこまで依頼するのかを明確にしておくべきです。仮に訴訟までは考えていないのであれば、交渉までなのか、離婚調停までなのかを委任契約上明確にすべきです。

③受任通知のタイミング

受任した弁護士は、通常、受任通知を相手方に送ってから交渉を開始します。弁護士が窓口となることにより依頼者の心理的負担は軽減されるのですが、その反面、受任通知により依頼者に弁護士がついたことを知った相手方から離婚事由や慰謝料請求の根拠となる証拠を収集することが難しくなります。仮に証拠収集が不十分であれば、受任通知のタイミングを延ばすべきかどうかについて弁護士と相談すべきです。

④別居

別居期間が長いと「婚姻を継続し難い重大な事由」となる場合があります(一般には5年の継続が必要)が、正当な事由なく別居すると「悪意の遺棄」と認定されるリスクもあります。離婚事由や慰謝料請求の根拠となる証拠の収集や相手方の資産状況の把握という観点からは同居がベターですが、DV被害を避ける等の緊急性がある場合は別居すべきです。

⑤裁判外紛争解決手段(ADR)

依頼者が裁判を臨まない場合や証拠が乏しく勝訴の見込みが低い場合は、弁護士会が運営している裁判外紛争解決手続を利用することが考えられます。訴訟手続を始める前に同手続を利用するかについても弁護士と相談すべきです。

⑥証拠収集

訴訟をする場合は、離婚事由や慰謝料請求の根拠となる客観的証拠の収集が必須です。客観的証拠というのは裁判所が納得するレベルの証拠という意味です。DV被害の診断書(精神的DV、性的DVも対象)、相手方の手帳・財布・スマホ、通話録音、メール等が考えられますが、写真や録音については日時等がわかる形で保存する必要があります。そのために日記やメモを併用することも考えられます。例えば、相手方が不貞相手と一緒に写っている写真があってもいつどこで撮影されたかがわからないと訴訟では使えません。また、慰謝料の請求が考えられる場合は、相手方の資産状況に関する情報(口座情報、不動産情報等)も収集しておくべきです。

⑦婚姻費用

夫婦はその資産収入その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担することとされています(760条)。別居している場合は、婚姻費用を相手方に請求することにより、相手方が交渉や訴訟を長引かせることへの抑止効果が期待できます。

⑧DV対策

DV被害が深刻である場合は、証拠収集よりも依頼者の安全を最優先すべきですので、安全な別居先を検討すべきです。場合により、裁判所から相手方に対する保護命令(接見禁止等)を出してもらうことも検討すべきです。離婚調停で相手方と接触しないよう裁判所や弁護士に配慮してもらうことも検討すべきです。

⑨不利な事実の開示

訴訟が開始してから依頼者に不利な事実(依頼者の不貞・浪費癖等)が相手方から暴露されると訴訟方針が崩れて極めて不利な状況になります。言いにくいことであっても、守秘義務があり違反すると刑事罰を受ける弁護士を信頼して、重要な事実はすべて最初に弁護士に説明しておくべきです。