ショート・ショート未来物語(少子化編)
《子育てに関する現在の諸問題は未来社会ではどうなっているか?今回は、少子化問題に関する希望的な未来物語です。》
午前7時、安眠ベッドの振動付アラームに起こされた。年齢・体調・気温・湿度に合わせて睡眠を管理してくれるこの安眠ベッドのおかげで目覚めはすこぶる良い。ニュース専用モニターでは、「昨年度の出生者数が前年度の103%となり、これで合計特殊出生率は10年連続の増加となりました。」と報道している。
学者風のぽっちゃり男が得意げにコメントしている。
「2025年当時にはその後30年以内に日本の人口が半減すると言われていたのが懐かしいですねえ。当時の少子化対策はもっぱら既に子供のいる夫婦向けの「ばらまき政策」が中心だったんですが、婚姻数の減少や晩婚化といった少子化問題の根本的課題を解決することにはならなかったんですね。」
「最近は少子化問題が話題にならなくなりましたが。」
「理由はいくつかありますが、やはり2030年の国営婚活サポート制度の創設、2035年の婚外子優遇制度の創設、2037年の独身税の導入が主たる要因と考えています。」
「国営婚活サポート制度とは?」
「国が運営するAIシステムで、30歳以上の独身者なら誰でも無料で利用できます。結婚相手に求める条件を「絶対条件」と「出来れば条件」に分けて15まで登録でき、システムにアクセスすると、AIがアクセス者(Aさん)の登録した絶対条件を全て満たす異性の中から「出来れば条件」を満たすレベルに応じて候補者上位50名を適性度(%)付きで選んでくれます。アクセス者がこの候補者から選んでアクセス申請し相手方が承諾すれば、双方が相手方の情報を入手できるというものなんです。35歳以上の独身者には、システムにアクセスしたかどうかにかかわらず、毎年候補者上位50名のリストが届きます。AIはDV歴・犯罪歴等に基づいて結婚不適格者を排除します。昔は同様のマッチングアプリが犯罪に利用されるといった弊害があったのですが、国営婚活サポート制度ではAIがスクリーニングしてくれるのでそのような心配はありません。現にこの制度を利用して結婚した夫婦の離婚率はかなり低いです。候補者数は、上位100名とか200名とか増やすこともできます。いわば国家が後ろ盾となって結婚相手を推薦するお見合い制度のようなものなんですね。この制度を利用して結婚する人は、毎年10万人ほどいます。」
「なるほど。婚外子優遇制度とはどのような内容でしょうか?」
「未婚女性とその子に対する減税・学費免除・給食費免除・補助金・養育施設の優先的利用・婚外母子差別禁止等の各種施策を総称して言います。これにより、未婚女性は、養育費を全く心配せずに育児をしながらキャリア追求できるようになりました。リモートワークの普及や育児施設の拡充も寄与しています。その結果、日本の婚外子比率は2025年の2%から20%に増加し、欧米レベルに近づいています。未婚の母やその子に対する偏見も少なくなってきたことも大きいでしょうね。」
「最後の独身税とは?」
「30歳から45歳までの独身者に対して課される特別税のことです。30歳だと年収の1%ですが、その後税率は3%まで傾斜的に増えます。但し、年収が一定額に満たない場合は軽減税率が適用されます。独身税による歳入は少子化対策・子育て対策に使われます。離婚した場合は婚姻期間の2分の1の期間だけ独身税が免除されます。」
「こういった施策によって、婚姻率と婚外子率が上昇したことで、少子化傾向に歯止めがかかったという訳ですね。」
「婚外子優遇制度によって未婚女性が子供を産みやすくなったのはわかるのですが、婚姻率が上昇することは少子化解消につながるんでしょうか。」
「夫婦の間に生まれる子の数は、1950年代以降ほぼ2人前後で推移していますので、婚姻率の上昇は出生者増加に直結します。2020年代に毎年数兆円をつぎ込んだ子育て支援だけでは婚姻率上昇にはつながらないことが広く認識されるようになり、婚姻率を上昇させるためのダイレクトな施策に力を入れて、子育て支援の施策と連動するにようにしたということです。」「日本と同じように深刻な少子化に悩んだお隣りの国では、AIが選んだカップルを強制的に5年間同居させるという仕組みを導入しましたが、強権国家だから実現できたんでしょうね。」
今夜は、私の米寿の祝いに孫・ひ孫を含めて30名が集まってくれる。やはり子供は多い方が賑やかでいい。