民法改正(令和6年5月成立公布)
父母の離婚が子の養育に与える深刻な影響、子の養育のあり方の多様化、養育費・親子交流の低調な取得率・履行率に鑑み、離婚後も父母双方が適切な形で子を養育する責任を果たすことが必要です。かかる観点から、民法等の一部を改正する法律が令和6年5月に成立・公布されました。改正法は、公布から2年以内に施行される予定です。
1.親の責務等に関する規律の新設 ①親の責務②親権 2.親権・監護等に関する規律の見直し ①離婚後の親権者に対する規律の見直し②婚姻中を含めた親権行使に関する規律の整備③監護の分掌に関する規律の整備、監護者の権利義務に関する規律の整備 3.養育費の履行確保に向けた見直し ①先取特権②法定養育費制度の導入③その他 4.安全安心な親子交流に向けた見直し ①別居中の交流②父母以外の親族の交流③その他 5.その他の見直し ①養子縁組②財産分与③その他 |
1.親の責務等に関する規律の新設
①親の責務
父母が子に対して負う義務(子の人格の尊重義務、子の年齢・発達の程度に配慮した子の養育義務、子が自己と同程度の生活を維持できるような扶養義務)が明確化され、婚姻関係の有無にかかわらず、父母は子に関する権利の行使又は義務の履行に関して子の利益のため互いに人格を尊重し協力しなければならないこととされました(817条の12)。
②親権
親権が子の利益のために行使されなければならないものであることが明確化されました(818条1項)。
2.親権・監護等に関する規律の見直し
①離婚後の親権者に対する規律の見直し
離婚後の親権者として、父母の一方だけでなく父母の双方とすることが認められました(819条1項、2項)。
家庭裁判所が親権者を定める(又は変更する)場合は、 子の利益のため、父母と事の関係、父と母の関係その他一切の事情を考慮することとし、父母の双方を親権者とすることにより子の利益を害する場合(子への虐待、DV等)は父母の一方を親権者と定めなければならないとされました(819条7項)。
子の親族に加えて子も親権者の変更を家庭裁判所に請求できることとなりました(819条6項)。家庭裁判所は、親権者を変更する場合は、父母の協議の経緯、その後の事情変更その他の事情(DV、家事調停の有無、ADR利用の有無、協議結果についての公正証書作成の有無等)を考慮するものとされました(819条8項)。
②婚姻中を含めた親権行使に関する規律の整備
親権は原則として父母が共同して行いますが、一方のみが親権者である場合、他の一方が親権を行使できない場合又は子の利益のため急迫の事情(DV・虐待からの避難、緊急の場合の医療等)がある場合は単独で行使できることされました。また、父母の双方が親権者である場合であっても、監護及び教育に関する日常の行為(子の身の回りの世話等)については、単独で親権を行使できることとされました(824条の2)。
③監護の分掌に関する規律の整備、監護者の権利義務に関する規律の整備
協議離婚において定める離婚後の子の監護に関する事項として、「子の監護をすべき者」のほか「子の監護の分掌」が追加されました(766条)。 子の監護をすべき者は、監護教育をする権利義務(820条)、子の人格の尊重義務(821条)、居所指定権(822条)及び職業許可権(823条)について親権者と同一の権利義務を有し、単独で、子の監護及び教育、居所の指定及び変更並びに営業の許可・取消・制限をすることができ、子の監護をすべき者でない親権者はこれを妨害してはならないこととされました(824条の3)。
3.養育費の履行確保に向けた見直し
①先取特権
子の監護の費用に係る債権に優先権(先取特権)が付与されました(306条3号)。これにより、債務名義がなくても債務者の総財産について差押えが可能になりました。優先権(先取特権)は、夫婦間の協力及び扶助の義務(752条)、婚姻費用分担義務(760条)、子の監護に関する義務(766条、766条の3)及び扶養義務(877条ないし880条)に係る定期債権の各期における定期金のうち、子の監護に要する費用として法務省令で定める相当な額とされます(308条の2)。
②法定養育費制度の導入
子の監護に要する費用の分担について定めることなく協議離婚した場合であっても、父母のうち離婚時から引き続き子の監護を主として行う者は、他の一方に対し、離婚の日から父母が定めた日、子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日又は子が成年に達した日のいずれか早い日までの間、毎月末に、法務省令で定める額の支払を請求できるようになりました (766条の3)。
③その他
執行手続の負担軽減策(ワンストップ化)や、収入情報の開示命令などの裁判手続の規律が整備されました(167条の⑰、民事執行法167条の17、人事訴訟法34条の3、家事手続法152条の2等)。
4.安全安心な親子交流に向けた見直し
①別居中の交流
別居する父母その他の親族と子との交流に必要な事項は、子の利益を最優先して父母の協議で定め、協議できない場合は父又は母の請求により家庭裁判所が定める(必要があれば変更する、子の利益のために特に必要があれば父母以外の親族との交流実施を定める)こととされました(817条の13)。
②父母以外の親族の交流
離婚審判において、家庭裁判所は、子の利益のために特に必要と認める場合は、父母以外の親族(祖父母等)と子との交流を実施することを定めることができ、他に適当な方法がない場合に限り、父母以外の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者については過去に当該子を監護していた者に限る。)も審判を請求できることになりました(766条の2)。
③その他
審判・調停前等の親子交流の試行的実施に関する規律が整備されました(人事訴訟法34条の4、家事手続法152条の3等)。
5.その他の見直し
①養子縁組
養子縁組が子の利益のために特に必要であるにもかかわらず養子の父母で子の監護をすべき者(及び養子の父母で親権を停止されている者)が縁組の同意をしない場合、家庭裁判所が子の法定代理人の請求により同意に代わる許可を与えることができることとなりました(797条1項)。養子の親権者として、養親に加えて、養親の配偶者が追加されました(818条3項2号)。
②財産分与
財産分与の請求期間が2年から5年に伸長されました。また、婚姻中に取得又は維持した財産についての寄与割合は原則として同等としつつ、家庭裁判所が考慮すべき要素(寄与の程度、婚姻期間、婚姻中の生活水準、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入)を明確化しました(768条3項)。
③その他
夫婦間の契約を婚姻中いついでも一方が取り消すことができるという規定(754条)が削除されました。裁判上の離婚原因から「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき」が削除されました(770条)。