外国人の就労について/前編 外国人就労の現状

本年6月14日「育成就労」創設を柱とした出入国管理及び難民認定法(以下、入管難民法)の改正法案が可決・成立、2027年よりの施行が決定されました。これまで外国人技能実習生の人権が十分に尊重されておらず、それが原因で失踪者や犯罪加担者を生み出してきたなど、多くの問題が指摘されてきた外国人技能実習制度の見直しが、2022年12月より開催されてきた有識者会議、政府閣議、衆参議院での審議を経て、ついに実現された訳です。

一時期マスコミでも取り上げられ、その報道内容では一般的にこの流れと決定を好意的に受け止めているとのことでしたが、「実習生の転職の禁止が諸悪の根源で、これを条件付きで認める事により実習生の権利は保証され、実習生に魅力ある制度となる」みたいな見解がやたらと引用される一方で、日本の労働力不足という待ったなしの問題点との兼ね合いでの効果はどうか、という議論が大変薄い様に筆者には感じられました。 問題を整理するため、外国人の就労に係る制度と歴史、現状と今後の課題などをお話ししてみたいと思います。

以下、前編として「外国人就労の現状」についてまとめます。

後編は「制度改定と今後の課題」についてで、年末ないし年初に掲載します。

1.在留資格 2.日本の労働人口の推移 3.外国人就労にかかる制度の変遷
  • 在留資格

我々のまわりでは多くの外国人が働いており、その数や職種はここ数年で大きく増加しています。特に都市部でその傾向が顕著です。 

外国人が日本で就労するためには出入国在留管理庁が発行する「在留資格」が必要です。

  1. 就労が可能な在留資格は以下となります。
  2. 身分に基づく在留資格

永住者、日本人の配偶者、永住者の配偶者、定住者(家族滞在は含まず)

  • 専門的・技術的分野の在留資格

教授、芸術、宗教、報道、高度専門職1号(*1)、高度専門職2号(*2)、経営・管理、

法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、

興行、技能、特定技能1号・2号

(*1) システムエンジニア、プログラマー等

(*2) 1号取得者が3年以上在留し、素行善良、日本国の利益に合致等満たした場合

■ 技能実習

■ 資格外活動

他の在留資格で在留する外国人に報酬を受ける活動を行うことを許可するもので、

アルバイトでの就労が可能となる

該当例:文化活動、短期滞在、留学、研修、家族滞在

■ 特定活動

法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動

該当例:外交官等の家事使用人、EPA看護師・介護福祉士及びその家族、

インターンシップ・国際文化交流

  • 在留資格別にみた外国人労働者の推移を統計(2023年10月時点)で以下に示します。

*我々が日頃から接点のある、コンビニやレストランでの接客、ホテルのフロントなどで見かける外国人の多くは、技術・人文知識・国際業務 (技人国と略称)または特定技能1号の方々です。

*技能実習生は、建設現場、食飲料品製造工場、工業製品製造工場、農業現場などで多く働いています。

*資格外活動 (学生アルバイトが多い) の数字の大きいことに驚かれるかもしれません。

  食飲料品製造工場やスーパー・コンビニの惣菜製造などで多く働いています。

 新型コロナの影響で2019~2021年初頭は入国延期による伸びの鈍化がみられましたが、特定技能、技能実習ともにその数は伸びてきています。

  • 日本の労働人口の推移

外国人の就労はいかにして始まったのでしょうか。その背景には日本の労働人口の推移があります。

日本の労働人口(15~64歳のゾーン)と総人口に対する比率は以下の通りになります。

(出典:総務省情報通信白書、令和4年)

1950年 5,017万人(総人口比 59.6%)

1970年 6,047万人(64.1%)

1980年 7,883万人(67.3%)

1990年 8,590万人(69.5%)

2000年 8,622万人(67.9%)

2010年 8,103万人(63.3%)

2020年 7,509万人(59.5%)

2000年頃より就労世代の人口減少が開始し、2007年頃より人手不足問題が発生し始めました。不足する労働力は外国人就労に求められることとなりました。

労働人口問題は万国共通の問題で、人口ボーナスがある、何時まで続く、という文脈でよく語られます。国が経済発展を遂げ、円熟期を迎えた時、それは人口ボーナスが終了する時で、外国人の就労に対する需要が一気に高まります。 労働力はより良い条件の仕事に流れますので、3Kと呼ばれる職場、給与含む労働条件の改善が期待できない職場では慢性的に労働力が不足し外国人の就労に期待せざるを得なくなります。 この例は日本に限らず、例えばタイ国では現在ミャンマー人とネパール人の出稼ぎ就労者を多く抱え、彼ら無しには道路他のインフラの補修や建造物維持、街中の清掃作業などに支障をきたす状況になっています。安全と安心は彼らのお蔭と言うタイ人も多くいます。

3.外国人就労にかかる制度の変遷

外国人就労にかかる制度の変遷を以下にまとめます。

  1. 日本の高度成長期1960年代後半より大手企業を中心に日本企業の海外進出が開始、自動車、機械製造、製鉄所・発電所、化学プラント、通信設備等の日本の高度の技術が海外に輸出され、1980年頃より海外現地法人などの社員教育として研修生として受入れる事により技術移転を実施するという方式が普及しました。そのため1982年外国人研修生という在留資格が追加されることになりました。
  2. 1980年代後半より日本の国際貢献が従来以上に求められる様になった一方で、円高の進展等を背景とした来日外国人の不法就労者の急増による社会的悪影響も懸念されました。さらには中小事業者において単純労働の労働力を確保する必要が生まれてきました。これらの問題を解決する制度として1990年に出入国管理法改正と技能実習制度が成立しました。技能実習制度は「途上国人材に日本の技術・知識を伝え途上国の発展を図ること」をその目的とし、「技能実習生」という在留資格(当時は1年、その後3年まで延長される)が新設され、「農業、漁業、建設、各種工業」など17職種が選定されました。職種の明確化により不法就労を排除する、労働力確保が必要とされる分野・職種を巧みに盛り込むも、建付けは途上国人材への技術移転のための制度であり、問題解決のために制度設計されたことが明白な制度でした。「技能実習生」という在留資格を「特定活動」の一つとして設けたことにより、彼らは労働者ではない資格をもったため、雇用主と技能実習生の関係は労使関係に非ずとされ、研修生の権利保護の手段が失われ、労働保護法の枠外に置かれることとなりました。 

労働に対する給与ではなく研修手当として実習生に支給される金額は最低賃金制の対象外であり、実習生の労働条件は向上せず、その意見を述べる場もなく、一方で受入れ職種の拡大に伴い技能実習生の数は増加、送出しに関わる業者数も増加し、激しい競争関係が生まれることとなりました。勢い送出し業者は受入れ企業に最も都合の良い条件を実習生につきつけることとなり、実習生も送出し国の経済事情より海外での就労を求めざるをえず、実習生の労働条件の改善は殆ど考慮されない状況が続きこれが通常化しました。「ゆるい制度の要求を満たしておけば、通常では考えられない低賃金で過酷な労働に対する労働力を確保できる」という風潮となり、それを享受する事業主が多く生まれたわけです。

  • 高齢者の急激な増加に対応する形で 2008年よりEPA(二国間経済連携協定)による外国人看護師、介護士候補者の受入れが始まりました。(要は不足する看護師・介護士を「経済連携協定」の名前にもとにアジア諸国より調達するという建付けです。) 大きかったのがベトナムとのEPA締結で、2014年よりベトナム人の受入を開始しました。社会主義の影響で外国企業の進出は限られ、中国以外に確たる出稼ぎの場所をもたなかったベトナム人の日本での就労への希望は大変多く、ベトナム人が実習制度に殺到し、外国人労働者数も急増、2009年の50万人程度であったものが2014年には80万人、2016年には100万人強の数字になりました。この間、前述の劣悪な労働条件の改善には手はつけられていませんでした。
  • 2016年「外国人技能実習法」が成立しました。外国人技能実習法は、「我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能・技術または知識の開発途上国等への移転を図り開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に協力する」という目的のもと、この目的達成のために「日本人と同じ労働基準法の適用」と明文化、それを担保するための制度適用申請の基準の明確化や、監理組合による管理監督体制の強化・明文化、技能実習生の保護、制度利用の拡充を行うための具体的規定や運用方法を定めました。対象職種はより細分化され82職種・146作業となり、監督団体は法務・厚生労働の両省管轄の「外国人技能実習機構(OTIT)」が新設されました。

従来からある国際協力の看板をおろさず(おろせず?)、先の制度で問題化した実習生の権利保護を押し出す、労働人口不足の職種を追加して確保する、職種を細かく記載する事により不法就労をあぶりだす、という、従来の矛盾を内在したまま、問題となった点を取り除くことに焦点をあてた制度設計になった訳です。

1990年代中盤から新法施行に至るまでに面々と築き上げられてきた、現地側ブローカーの過剰な費用要求や日本側での失踪者を受入れる組織体にメスが入ることはありませんでした。 受入企業側の労働環境の整備に対する意識も改善されたとは言い難い状況でした。

  • 外国人技能実習制度とは全く別の視点から、2018年入管法が改正され「特定技能1号」という在留資格が新たに設けられました。特定技能は「今後の労働人口の激減にむけ外国人労働者の受入基準を緩和することで日本の労働人口を確保し人手不足を解消する」ことを目的とし、対象職種は人手不足が予想される14業種(農業・漁業、飲食品製造、外食、介護、ビルクリーニング、素材加工、産業機械製造、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊)です。

労働人口不足に真正面から取り組んだ画期的な制度創設に見えますが、一方で「移民政策」では無いか?という指摘(批判に近い)も噴出、これに対応するため、永住権獲得のための「特定技能2号」の要件が大変高いものになっています。

  • 数々の矛盾を含みながらも、外国人就労者の数は2015年より急増、2016年に100万人超え、2019年には150万人超え、2023年10月時点では204万人に達しています。

さて、今回「育成就労」制度の導入が決定、制度は大きく見直されることとなりました。

次回、後編として「制度改定と今後の課題」について、年末ないし年初に掲載することとします。