何でもかんでもハラスメントでいいの?(その2)

ハラスメントという用語が日常的に使われるようになってきました。セクハラ、マタハラ/パタハラ、パワハラ、ケアハラといった法規制の対象になっているものだけでなく、新しい呼称のハラスメントも生まれています。2024年の人気ドラマ「不適切にもほどがある」の「頑張れと言ってはだめですか!」の回では、「新入社員に頑張れなんて言ったらプレッシャーで押しつぶされちゃうでしょ。」「相手が不快に思ったら○○ハラなんだよ。」という会話に阿部サダオが怒り出す場面がありましたが、何でもかんでもハラスメントにする風潮は、必要以上に窮屈な世の中になる可能性もあると思われます。本稿では、ハラスメントに関する法規制を確認した上で、ハラスメントとの付合い方を検討したいと思います。

1.ハラスメントの法規制(前号)2.新しいハラスメント類型3.ハラスメントとの付合い方4.結語

2. 新たなハラスメント類型

法律(指針を含む。)で定めるハラスメントのほか、最近では以下のハラスメント類型が指摘されています。

・モラルハラスメント(人格否定や無視等、言葉や態度による精神的嫌がらせ)

・ジェンダーハラスメント(性別に関する固定観念や社会的役割のイメージを相手に押し付ける差別や嫌がらせ)

・レイシャルハラスメント(人種国籍等の民族的要素に関連する差別や嫌がらせ)

・リモートハラスメント(テレワーク中のハラスメント)

・テクノロジーハラスメント(IT機器・システムの扱いが苦手な人に対する嫌がらせ)

・アルコールハラスメント(飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権侵害)

・リストラハラスメント(リストラ対象者に嫌がらせや不当な扱い)

・スモークハラスメント(喫煙による健康被害や不快感)

・スメルハラスメント(匂いによる嫌がらせ)

・SOGIハラスメント(性的指向・性自認・性表現に関する嫌がらせ)

・ソーシャルハラスメント(SNSを通した嫌がらせ)

・時短ハラスメント(具体策を講じないままの定時退社の強要や残業の制限)

・コロナハラスメント(新型コロナウイルスへの感染や、新型コロナワクチンの未接種に対する差別や嫌がらせ)

・就活ハラスメント(採用担当者によるハラスメント)

・カラオケハラスメント(カラオケが苦手な人に強制的に歌わせる嫌がらせ)

・ブラッドタイプハラスメント(血液型による差別的な扱いや不快感)

・ハラスメントハラスメント(「嫌だ、不快だ」と感じた他者の発言や行動に過剰に反応した「ハラスメントだ」との主張)

こうした新類型は法律で直接規制されるものではありませんが、その態様や程度によっては、刑事責任(強要罪、脅迫罪等)や民事責任(不法行為に基づく損害賠償責任等)を生ずる場合もあり得ます。しかしながら、法律で規制している上記ハラスメントでは、言動の類型だけではく、「就業環境を害する」という要件を課しており、言動の類型に該当すれば直ちに違反となる訳ではありません。新類型に該当する言動を不快に感じたら直ちに問題というのは、法律で規制する以上の厳しい制約ということになってしまいます。新類型の中には違法性の強いもの(例えば、レイシャルハラスメント)もありますが、ハラスメント類型として微妙なもの(例えば、清潔にしても消えない体臭や加齢臭によるスメルハラスメント)もあります。自分が少しでも不快と思った言動を全て新類型に当てはめて相手を攻撃するのは、それこそ「ハラスメントハラスメント」になってしまいます。従って、ハラスメントの新類型に該当する場合であっても、その態様や程度を十分考慮して対応することが、多様性を前提とする共生のためには必要と考えます。

なお、誤解を避けるために付言しますが、相手が嫌がることを知りながら相手を困らせる意図での悪質な言動を慎まなければならないのは当然です。但し、相手が嫌がることを知らないまままの言動をあれこれカテゴリー化してタブー視するのはどうかということです。