解雇規制と実務上のポイント(その2)

使用者が労働契約を解約(=解雇)する場合、労働契約に期間の定めがある場合と期間の定めがない場合に分けて考える必要があります。以下では、解雇規制と実務上のポイントについて解説します。

1.期間の定めのある場合 (1)契約期間満了に関する民法上の原則 (2)労働契約法による修正 (3)実質無期状態・更新の合理的期待の判断基準 (4)客観的に合理的な理由・社会通念上相当の判断基準 (5)期間途中の解雇(以上前号) 2. 期間の定めのない場合 (1)民法上の原則 (2)労働基準法による修正 (3)労働契約法による修正 (4)整理解雇 (5)就業規則(以上本号) (6)その他の規制 3.実務上のポイント (1)解雇のリスク (2)雇用終了合意書の薦め (3)雇用終了合意書で定めるべき事項 (4)退職パッケージ (5)手続の流れ (6)留意点
  • 期間の定めのない場合
  • 民法上の原則

民法上、期間の定めのない労働契約においては、当事者はいつでも解約の申込をすることができ、雇用は解約の申込後2週間の経過によって終了します(民法627条1項)。2週間の予告期間をおけば解雇できるという「解雇自由の原則」は、労働者の受ける打撃の大きさから、以下の通り労働関連法で制限されます。

  • 労働基準法による修正

①使用者は、労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後の30日間は、解雇することができません(労働基準法19条1項)。「療養」は労働基準法及び労災保険法上の療養補償・休業補償の対象となる療養を指し、治癒(病状固定)後の通院等を含みません。但し、使用者が業務災害による療養開始後3年を経過しても傷病が治らず打切補償を支払った場合及び天災事変その他やむをえない事由のため事業継続が不可能となった場合(行政官庁の認定が必要)はこの限りではありません(同項但書)。

②使用者は、産前産後の女性が労働基準法65条によって休業する期間及びその後の30日間は、解雇することができません(労働基準法19条1項)。但し、天災事変その他やむをえない事由のため事業継続が不可能となった場合(行政官庁の認定が必要)はこの限りではありません(同項但書)。

③使用者は、労働者を解雇しようとする場合は、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告をしない場合は30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法20条1項)。但し、天災事変その他やむをえない事由のため事業継続が不可能となった場合(行政官庁の認定が必要)又は労働者の責に期すべき事由に基づいて解雇する場合(行政官庁の認定が必要)はこの限りではありません(同項但書)。この予告日数は平均賃金1日分を支払った日数だけ短縮できます(同条2項)。解雇予告義務は、日々雇い入れられる者、2ヶ月(季節的業務の場合は4ヶ月)以内の期間を定めて使用される者及び試用期間中の者には適用されません(労働基準法21条)。

  • 労働契約法による修正

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効です(労働契約法16条)。これは、判例法上形成された解雇権濫用法理(使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる)(日本食塩製造事件 最判昭和50.4.25等)を明文化したものです。

「客観的に合理的な理由」は、大別して、労働者の労務提供不能又は労働能力・適格性の欠如・喪失、労働者の職場規律の違反、経営上の必要性、ユニオンショップ協定に基づく組合の解雇要求になります。

「社会通念上相当であると是認することができない場合」は、一般的には、解雇の事由が重大な程度に達しており、他に解雇回避の手段がなく、且つ労働者側に宥恕すべき事情がほとんどない場合に認められることが多いようです。但し、高度の技術・能力を評価されて特定の地位・職務(上級管理職、技術者等)のための即戦力として中途採用されたが期待された技術・能力を有しない場合は、その判定が公正になされ、改善の機会を与える等の配慮をしている場合には、社会通念上の相当性が認められる傾向にあります。

  • 整理解雇

整理解雇(企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇)については、解雇権濫用法理を適用して厳しく判断されています。裁判例では、以下の要素に着目して判断されています。

①人員削減の必要性(企業の合理的な運営上やむを得ない措置であること)

②人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性(配転、出向、一時帰休、希望退職募集等の解雇回避努力義務を履行したこと)

③被解雇者選定の妥当性(客観的合理的基準を公正に適用したこと)

  • 手続の妥当性(労働者・労働組合と誠意をもって説明協議したこと)

(5)就業規則

解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項となっています(労働基準法89条3号)。就業規則上列挙された解雇事由が限定列挙か例示列挙かについては争いがありますが、通常は解雇事由の中に「その他前各号に掲げた事由に準じる重大な事由」といった包括条項があるため、実際大きな差は生じません。但し、解雇が争われる場面では、就業規則の解雇事由該当性が中心的争点となりますので、問題となる場面を想定して、できるだけ幅広く解雇事由を定めておくべきと考えます。