法律改正2023

最近の法律改正(2023年を中心に)

昨年Newsletterで既にご紹介したものも含め、2023年を中心に施行される法律改正をまとめました。

1.労働基準法 2.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 3.民法 4.不動産登記法 5.相続土地国庫帰属法 6.個人情報の保護に関する法律 7.消費者契約法 8.消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律 9.消費税法

1.労働基準法

①月60時間を越える労働に対する50%の割増賃金(2023年4月1日施行)

法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働には25%(法定外休日労働と合わせて月60時間を超える部分は50%)、休日労働には35%、深夜労働には25%の割増賃金を支払う必要があります。就業規則でこれより労働者に有利な規定(例えば1日7時間を超える労働について割増賃金を支払う規定)がある場合はそれに従って支払う必要があります。月60時間を超える部分が50%という規定(労使協定により割増賃金の引上げ分の支払に代えて有給の休暇を付与することも可能)は中小企業にも2023年4月1日から適用されます。なお、管理監督者については、超過労働と休日労働に対する割増賃金の支払は不要ですが、深夜労働に対する割増賃金の支払は必要です(労働基準法37条1項、3項、4項)。

②賃金通過払の例外(デジタルマネー)(2023年4月1日施行)

賃金の支払方法については、通貨のほか、労働者の同意を得た場合には、銀行その他の金融機関の預金又は貯金の口座への振込み等によることができることとされています(労働基準法24条1項)。キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られることも踏まえ、2023年4月1日以降、使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることになります(労働基準法施行規則7条の2)。

③消滅時効の延長(2020年4月1日施行)

2020年4月1日以降に支払日が到来する賃金請求権(非常時払、休業手当、出来高払の保証給、割増賃金、年次有給休暇中の賃金を含みます。)の消滅時効期間が2年から5年(当面は3年)に延長されます(労働基準法115条)。退職金請求権(5年)は変更ありません。労働者名簿、賃金台帳、雇入れ書類、解雇書類、災害補償書類、賃金書類等の書類の保存期間が3年から5年(当面は3年)に延長されます(労働基準法109条)。付加金(解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年次有給休暇中の賃金の支払いがされない場合)の請求期間が2年から5年(当面は3年)に延長されます(労働基準法114条)。

2.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(「育児介護休業法」)(2023年4月1日施行)
常時雇用する労働者が1000人超の事業者は、前事業年度における男性の育児休業等の取得割合(育児休業等を取得した男性労働者/配偶者が出産した男性労働者)又は育児休業等と育児目的休暇の取得割合(育児休等を取得した男性労働者+育児目的の休暇制度(年次有給休暇を除く。)を利用した男性労働者/配偶者が出産した男性労働者)を年1回公表することが義務づけられます(育児介護休業法22条の2)。
これまでは、厚生労働大臣によって「プラチナくるみん認定」を受けている企業のみが、育児休業の取得状況の公表を義務付けられていました。

(<https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001122221.pdf>)

3.民法(2023年4月1日施行)

①相隣関係(隣地使用権、竹木の枝の切除等、設備設置権及び設備使用権)、②共有等(共有物を使用する共有者と他の共有者との関係、共有物の変更、共有物の管理、裁判による共有物の分割、相続財産に属する共有物の分割の特則、所在等不明共有者の持分の譲渡)、③所有者不明土地建物・管理不全土地建物の管理命令(所有者不明土地管理命令、所有者不明建物管理命令、管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令)、④相続等(相続財産等の管理、相続を放棄した者による管理、不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消、相続財産の清算、遺産分割に関する見直し)について改正されました。詳細はNewsletter (2022年5月20日、6月17日、7月8日、8月12日、8月26日、9月2日)をご覧ください。

4.不動産登記法

①形骸化した登記の抹消手続の簡略化(2023年4月1日施行)

以下の形骸化した登記の抹消を、登記権利者の単独申請により可能とする規定が設けられました。

・買戻しの特約がされた売買契約の日から10年を経過したときは、登記権利者(売買契約の買主)は単独で当該登記の抹消を申請できます(不動産登記法69条の2)。

・地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記について登記された存続期間や買戻しの期間が既に満了している場合、所定の調査方法によっても権利者(登記義務者)の所在が判明しないときは、登記権利者は単独で当該登記の抹消を申請できます(不動産登記法70条2項)。

・解散した法人の清算人の所在が判明しないために先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消の申請をすることができない場合、法人の解散後30年が経過し、かつ、被担保債権の弁済期から30年を経過したときは、供託等をしなくとも、登記権利者(不動産所有者)は単独でその登記の抹消を申請できます(不動産登記法70条の2)。

②登記簿の附属書類の閲覧制度の見直し(2023年4月1日施行)

旧不動産登記法下では、土地所在図等の図面以外の登記簿の附属書類については、請求人が「利害関係」を有する部分に限って閲覧可能とされていましたが、この「利害関係」が具体的にどのような範囲のものを指すのかは必ずしも明確ではありませんでした。また、プライバシーへの配慮から、登記簿の附属書類に含まれる個々の書類の性質・内容ごとに閲覧の可否をそれぞれ検討すべきとの指摘もありました。そこで、今回の改正では、「利害関係」との要件を「正当な理由」に変更し、閲覧の対象となる文書の性質ごとに閲覧の可否を検討・判断することとしました(121条3項)。なお、自己を申請人とする登記記録に係る登記簿の附属書類については当然、閲覧が可能です(121条4項)。

③相続登記の義務化(2024年4月1日施行)

相続(遺言による場合を含みます。)によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記(所有権移転の登記)の申請をしなければならないことになりました(76条の2第1項)。遺産分割の協議がまとまったときは、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記の申請をしなければならないこととなりました(76条の2第2項、76条の3第4項等)。正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかったときは、10万円以下の過料の対象となります(164条1項)。施行日前に相続が発生した場合も適用されます。この場合の3年間の履行期間の起算日は、相続登記義務発生日又は施行日のいずれか遅い方です。

5.相続土地国庫帰属法(2023年4月27日施行)

①制度趣旨

相続(遺言による場合を含みます。)によって土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣の承認により土地を手放して国庫に帰属させることを可能にする制度です。

②申請者

相続(遺言による場合を含みます。)によって土地の所有権を取得した相続人が申請できます。制度の開始前に土地を相続により取得した者は含まれますが、売買等によって土地を取得した者を含みません(2条1項)。土地が共有地であるときは、共有者全員で申請する必要があります(2条2項)。

③対象土地

以下の通常の管理又は処分に当たり過大な費用や労力が必要となる土地は対象外です(2条3項)。

・建物がある土地
・担保権又は使用収益する権利が設定されている土地
・通路など他人に使用される予定の土地(政令で定めるもの)
・土壌汚染対策法2条1項に定める特定有害物質により汚染されている土地
・境界が明らかでない土地その他所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地

・その他通常の管理処分に過分の費用又は労力を要する土地(5条1項)
④費用
審査手数料のほか、国庫への帰属について承認を受けた場合は、負担金(10年分の土地管理費相当額)を納付する必要があります(10条)。具体的な金額や算定方法は、今後政令で定められる予定です。負担金納付時に土地の所有権が国庫に帰属します(11条1項)。

6.個人情報の保護に関する法律(「個人情報保護法」)(2023年4月1日施行)

2022年4月1日に国の行政機関に関する行政機関個人情報保護法と独立行政法人等に関する独立行政法人等個人情報保護法が個人情報保護法に統合されたことに加え、2023年4月1日に地方公共団体等:地方公共団体ごとに定めた個人情報保護条例も個人情報保護法に統合されます。これにより、これまで独自に制定した個人情報保護条例を適用していた各地方公共団体等について全国的な共通ルールが定められ、個人情報保護委員会が一元的に制度を所管することとなり、個人情報の保護に関する質の確保などが期待されます。

7.消費者契約法(2023年6月1日施行)

①取消権の拡充

事業者が消費者契約締結の勧誘に際して困惑させることにより締結した消費者契約を消費者が取り消すことができる類型として、①勧誘することを告げずに退去困難な場所に同行して勧誘する場合、②威迫する言動を交えて消費者が勧誘を受ける場所から外部と連絡することを妨げる場合、③消費者契約の目的物の現状を変更して原状回復を著しく困難にする場合が追加されました(4条3項3号、4号、9号)。

②不当条項規制の拡大

事業者の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任(故意重過失によるものを除く。)の一部を免除する条項が、「事業者の軽過失による行為にのみ適用される」ことを明らかにしていない場合は無効とされました(8条3項)。これにより、例えば「軽過失の場合は○○円を上限として賠償します」といった形にする必要があります。

③解約料の説明の努力義務

事業者は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金を定める条項に基づいて損害賠償又は違約金の支払いを請求する場合において、消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定根拠の概要を説明するよう努める義務が定められました(9条2項)。

また、適格消費者団体が損害賠償の額の予定又は違約金の合算額が平均的な損害額(9条1項1号)を超えると疑う相当な理由があると判断して説明を求めた場合は、事業者は、正当な理由がある場合を除き、算定根拠を説明するよう努める義務が定められました(12条の4)。

④事業者の努力義務の拡充

事業者の努力義務として以下が追加されました。

・事業者が消費者契約締結を勧誘する際に、「事業者が知ることができた・・消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験」を総合的に考慮して情報提供すること(3条1項2号)

・定型取引合意(民法548条の2第1項)に該当する消費者契約の締結を勧誘する際に、(消費者が定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じている場合を除き)消費者が民法548条の3第1項に定める請求(定型約款の内容の表示請求)を行うために必要な情報を提供すること(3条1項3号)

・消費者の求めに応じて、消費者の消費者契約に基づく解除権の行使に必要な情報を提供すること(3条1項4号)

・適格消費者団体からの不当条項(8条ないし10条)を含む契約条項の開示の要請(12条の3)、損害賠償の額の予定又は違約金の算定根拠の説明の要請(12条の4)、及び不当条項(8条ないし10条)を含む消費者契約締結の停止・予防に必要な事業者の講じた措置の開示の要請(12条の5)に応じること

⑤その他

適格消費者団体認定の申請書類に添付すべき書類が見直されました(14条2項)。

適格消費者団体の業務遂行の適正に関する学識経験者による毎事業年度の調査が廃止されました(旧31条2項)。

※適格消費者団体の事務関係規定については、改正消費者裁判手続特例法と同日に施行されます。

8.消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律({消費者裁判手続特例法})(2023年6月1日施行)

消費者裁判手続特例法(2016年10月1日施行)は、消費者契約に関する財産的被害を集団的に回復するための裁判手続の特例を定めるものです。国から認定された特定適格消費者団体が原告となり、事業者の共通義務(相当多数の消費者に対する金銭支払義務)を確認する第一段階(共通義務確認訴訟)と消費者の債権を個別に確定する第二段階(簡易確定手続)の手続から構成されています。日本版クラスアクションとして期待されていますが、利用例が少ないのが現状です。

①対象範囲の拡大

共通義務確認の対象となる損害として、基礎的事実関係が共通で且つ(i)財産的請求と共通する事実上の原因に基づいて併せて請求される場合又は(ii)事業者の故意により生じた場合の慰謝料が追加されました(3条2項)。

対象となる被告として、事業監督者及び被用者(故意重過失ある者に限る。)が追加されました(3条1項、3項)。

②和解の早期柔軟化

共通義務確認訴訟における和解として、事業者の責任(共通義務)を認める和解だけでなく、解決金を支払う和解等の様々な和解が可能になりました(11条)。

③消費者への情報提供方法の拡充

共通義務確認訴訟が係属する裁判所は、適格消費者団体の申立により、その疎明に基づいて、事業者等に対し消費者情報を開示することを命ずる(保全開示命令)ことができるようになりました(9条)。

簡易確定手続申立団体の対象消費者に対する個別通知の記載事項が簡略化されました(27条2項)。

事業者等は、簡易確定手続申立団体の求めにより、対象消費者に対し個別通知をしなければなくなりました(28条)。

内閣総理大臣が公表する情報として、簡易確定手続開始決定の概要、公告(26条1項、2項前段、3項)の概要、簡易確定手続申立団体の対象消費者に対する個別通知(27条1項)の概要が追加されました(95条1項)。

④特定適格消費者団体の負担軽減

特定適格消費者団体(71条の認定を受けた適格消費者団体)を支援する法人(消費者団体等支援法人)を認定する制度が導入されました(98条ないし113条)。消費者団体支援法人は、特定適格消費者団体の通知や行政の公表等を受託することにより、特定適格消費者団体の負担を軽減します。

⑤その他

簡易確定手続の申立が柔軟化されました(和解に応じた申立、申立期間の伸張等)(15条、16条)。

簡易確定手続の事件記録の閲覧請求は、簡易確定手続の当事者及び利害関係を疎明した第三者に限られることが明確になりました(54条)。

特定認定の有効期間が3年から6年に延長されました(75条)。

特定適格消費者団体と適格消費者団体その他の関係者との連携協力努力義務が定められました(81条4項)。

9.消費税法(2023年10月1日施行)

インボイス制度(商品などに課されている消費税率や消費税額など、法令が定めた内容を明記した書面(適格請求書=インボイス)を交付する制度)が導入されます。インボイス制度により、インボイスではない請求書では仕入税額控除が受けられなくなります。仕入税額控除とは、生産、流通などの各取引段階で二重、三重に税がかかることのないよう、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除し、税が累積しない仕組みです。課税売上高が1億円以下である事業者においては、インボイス制度の施行から6年間、1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみで仕入税額控除が可能です。返還インボイス(適格返還請求書)の交付については、すべての事業者において、少額(1万円未満)の値引き等の対応は不要です。

仕入税額控除に対応するためは、請求書・領収書・納品書・レシートが、適格請求書(インボイス)の要件を満たしている必要があります。インボイスの発行事業者となるためには、税務署に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、「適格請求書発行事業者」となる必要があります。ンボイス制度施行後は発行側も受領側もインボイスを7年間保存する必要があり、書類の保存数はさらに増加します。データとして保存する場合は電子帳簿保存法に対応する必要があるため、今から電子帳簿保存法に対応しておくことが推奨されます。