少子化問題の本質を考える

現国会でも議論されている少子化問題についての一考察です。

1.少子化の現状 2.少子化がもたらす諸問題 3.少子化の背景 4.海外の状況 5.解決の方向性 6.結婚しない理由 7.婚姻数増加の方策 8.婚外子割合増加の方策 9.特効薬は何か 10.最後に

1.少子化の現状

日本の出生数は、第一次ベビーブーム期(1949年270万人)と第二次ベビーブーム期(1973年209万人)の二つの山の後は減少傾向にあり、2016年以降は100万人を下回っており、2021年は81万人(6年連続過去最低を更新)でした。

また、合計特殊出生率(出生年の異なる集団の年齢別出生率の合計で、一人の女性が生涯に生む子供の数)は、第一次ベビーブーム期は4を超えていましたが、1950年頃からは2前後で推移していたものの、1974年には人口置換水準(長期的に人口が増加も減少もしない出生水準)を下回り、2005年には1.26と過去最低を記録しました。その後は緩やかな上昇傾向にあったものの2016年以降は再び低下し、2021年は1.30となっています(厚生労働省令和3年度人口動態統計特殊報告)。

2.少子化がもたらす諸問題

急速な少子化(及び高齢化)によって様々な問題が発生します。

(1)労働人口の減少

現在のペースで少子化が進み女性の社会進出や若者の就職率等の問題を解決しない場合は、日本の労働人口は、6426万人(2012年)から5584万人(2030年)、さらに4228万人(2050年)と、40年足らずの間に約3分の2まで減少します(総務省「労働力調査」)。

(2)産業力の低下、国内産業の空洞化

労働人口の減少により産業の担い手が減少します。そのため、産業を継続すること自体が困難となり、生産拠点を海外にシフトすることも検討せざるをえなくなり、産業力の低下や国内産業の空洞化につながります。

(3)消費減少による経済力低下

消費人口の減少により国内市場が縮小します。そのため、国内での売上が減少し、日本の経済力は低下することになります。

(4)社会保障制度の破綻

現役世代の人口減少により、社会制度が破綻するおそれがあります。高齢者一人を支える現役世代の人数は2020年時点で1.9人ですが、合計特殊出生率が2の場合は2060年には1.5人にとどまるものの、合計特殊出生率が1.35の場合は2060年には1.2人となります(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2012年1月参照)。二人で支える状況から一人で支える状況(肩車状態)になるということであり、もはや社会保障制度を維持することが困難となります。

(5)限界集落の増加・集落の消滅

少子高齢化が進めば、限界集落(65歳以上の高齢者が総人口の過半数を占める集落)が増加します。泥棒に入られても駐在さんがいない、火事が発生しても消防士がいない、生活物資を運ぶ人がいない等の機能不全により、集落自体が消滅する可能性も高まります。

3.少子化の背景

少子化が急速に進んだ背景としては、以下の事情が考えられます。

(1) 婚姻数の減少

2021年の婚姻件数は50万1116組で前年より2万4391組減少し戦後最小となりました(厚生労働省令和3年人口動態統計月報年計)。

(2)未婚化

生涯未婚率(50歳時点で未婚の人の割合)は、1970年には男性1.7’%、女性3.3%でしたが、2015年には男性23.4%、女性14.1%まで増えています(国立社会保障・人口問題研究所)。男性の4.2人に一人、女性の7人に一人が生涯結婚しないことになります。

(3) 晩婚化

初婚年齢は、1947年の夫26歳、妻23歳から上昇を続けており、2021年は夫31.0歳、妻29.5歳でした(厚生労働省令和3年人口動態統計)。精子は年をとらないのに対し卵子は年をとるし数も減ります(出生時200万、思春期に20万ないし30万、閉経時はほぼゼロ)ので、晩婚化により妊娠の可能性は低くなるという関係にあります。

(4) 女性の社会進出、キャリア形成(大学進学率と平均初婚年齢)

女性の社会進出が進み、結婚・出産・育児よりもキャリア形成を優先する女性が増えたことで、女性の未婚化・晩婚化を進めていると考えられます。

(*)完結出生児数(結婚持続期間15年乃至19年の夫婦の平均子供数)は、1940年の4.27人から低下して1972年に2.20人になって以降は安定的に推移しており、2.09人(2005年)、1.96人(2010年)、1.94人(2015年)となっています(国立社会保障・人口問題研究所)。意外にも、夫婦の間に生まれる子供の数は過去約50年間で大きな変動はないということです。

(5)非正規労働者数の増加

正社員として終身雇用制度のもとで安定した人生設計を描けるという社会モデルは崩れつつあり、非正規労働者の割合は1989年の19.1%(男性8.7%、女性36.0%)から2019年は38.3%(男性22.9%、女性56.0%)に増加しています(総務省「労働力調査特別調査」「労働力調査詳細集計」)。特に、15歳から24歳までの非正規労働者の割合は1990年の20.5%から2014年は48.6%に、25歳から34歳までの非正規労働者の割合は1990年の11.7%から2014年は28.0%に増加しており、適齢期世代の非正規労働者が増えています(総務省統計局「統計Today No.97」)。

適齢期世代の非正規労働者の増加は、同世代の経済力の低下を意味します。平均賃金は、正規労働者 323.4 千円に対し非正規労働者 216.7 千円(男性は正規労働者 348.8 千円に対し非正規労働者241.3 千円、女性は正規労働者270.6 千円に対し非正規労働者195.4 千円)であり、賃金格差は正規労働者を100とすると非正規労働者は67.0(男性 69.2、女性 72.2) となっています(厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査)。

(*)非正規労働者と正規労働者の間の賃金格差については、2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法に基づく非正規労働者・派遣労働者の均衡待遇・均等待遇の原則が導入されました(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条9条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律30条の3第2項)。しかしながら、2021年10月時点では、総じて「必要な見直しを行った・行っている、または検討中」の企業が4割超であったのに対し、約5社に一社(19.4%)が依然として「対応方針は、未定・わからない」状態にとどまっています(独立行政法人労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金の対応状況に関する調査」)ので、賃金格差の是正が進むかは今後の課題です。

4.海外の状況

(1)合計特殊出生率

フランス、スウェーデン及びイギリスの合計特殊出生率は、1960年代後半から1970年代前半にかけて低下傾向にありましたが、2000年以降2010年頃までに2.0前後まで上昇回復しました(但し、その後減少傾向し、フランスは1.86(2019年)、スウェーデンは1.71(2019年)、イギリスは1.68(2018年)となっています。)(Eurostat Statistics Database)。

(2)婚外子の割合

いわゆる婚外子の割合は、フランス61%、ドイツ33%、イタリア35%、スウェーデン54%、イギリス48%、アメリカ40%であるのに対し、日本は2.3%です(イギリスは2017年、その他は2019年)(U.S. department of Health and Human Services, National Vital Statistics Reports, Vol.70, No.2)。欧米では、結婚にとらわれずに出産・育児する人が、日本と比べて格段に多いという特徴があります。

(3)女子労働力率と出生率の相関関係

日本の女子労働力率は約70%で合計特殊出生率は1.34なのに対し、女子労働力率が高い国は概して合計特殊出生率も高いともいえます。例えば、女子労働力率が85%前後のスウェーデン(1.88)、ノルウェー(1.85)、オランダ(1.70)、80%代前半のフランス(1.96)、フィンランド(1.85)、70%代後半のアメリカ(2.2)、イギリス(1.80)、アイルランド(1.89)です。他方で、女子労働力率が85%超のポルトガル(1.40)、80%超のスペイン(1.40)、70%台後半のドイツ(1.37)というグループもあります((国立社会保障・人口問題研究所、ILO2008年)。例外はあるものの、女子労働力率が高い国は出生率も高い傾向にあります。

5.解決の方向性

(1)わかったこと

上記3(*)の通り、夫婦の間に生まれる子供の数は過去約50年間でほぼ2前後であり、少子化の直接の原因は婚姻数の減少であることがわかります。また、上記4の通り、合計特殊出生率の上昇に成功したフランス、スウェーデン及びイギリスを含め、欧米各国の婚外子の割合は40%以上と日本の2.3%と大きく異なり、女子労働力率が高い国は出生率も高い傾向にあります。

(2)方向性

少子化対策としては、婚姻数を増やすことと婚外子割合を増やすことが考えられます。しかしながら、婚外子割合については、日本の婚外子割合が欧米並みになるのは、社会的文化的違いに鑑みると、相当先の話と思われます(むしろ、婚外子でも育てられる社会制度の充実度の違いも大きいと考えます。)。従って、婚姻数を増やすためにその障害を軽減・除去することが、少子化対策の基本的方向と考えますが、婚外子割合を増やすための環境を整備することも見落としてはならないと考えます。

6.結婚しない理由

婚姻数の減少が少子化の直接的原因ですので、結婚しない理由について検討しました。

(1)結婚願望の変化?

18歳乃至34歳の未婚者の85%が「いずれ結婚するつもり」と回答しています(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査(独身者調査)」2015年)。従って、最近の若者の結婚願望が特に低くなったとはいえないと思われます。

(2)結婚の機会の減少?

出会いのきっかけについては、1960年代は「お見合い」でしたが、2000年代は「お見合い」という回答はほとんどありません(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)。お見合いは、互いの素性を周りの者も確認するという安心感もあり、特に恋愛に奥手な人や恋愛に関心のない人にとっては結婚につなげる有効な仕組みといえます。最近はやりのマッチングアプリは、結婚以外の目的で悪用される場合もあり、自由度や利便性が高いものの、必ずしも結婚につながる仕組みとまではいえません。自由恋愛の機会は増えたとしても、お見合いに代わるような結婚につながる仕組みがないことは、婚姻数減少の一因と考えます。

(3)女性の意識変化?

いくつになっても出産できる、キャリア形成してから出産すればいい、というような考えで結婚を先延ばしにした女性の中には、そのうちキャリアと出産・育児の両立に自信がなくなって結果的に結婚を断念する場合もあると推測されます。結婚の判断を先延ばししても構わないという意識が拡がれば、それだけ結婚を断念する機会も増えますので、女性の意識変化も婚姻数減少の一因になり得ると考えます。

(4)経済的理由?

上記3(5)で述べた通り、適齢期世代の非正規労働者の割合が1989年の19.1%(男性8.7%、女性36.0%)から2019年は38.3%(男性22.9%、女性56.0%)に増加し、正規労働者との賃金格差が是正されない状況では、長期雇用の保証がなく昇給もない非正規労働者が将来の経済的不安から結婚に踏み切れない場合もあると推測されます。

(5)成功モデルの欠如

もし若いときに妊娠出産してもキャリアを形成できるという蓋然性があれば、多くの女性にとって結婚を躊躇する理由はなくなるはずです。しかしながら実際には、妊娠出産とキャリア形成の関係が不明確であることが多く、妊娠・出産・育児とキャリア形成のいずれかを選択せざるを得ない場合も多いと推測されます。

7.婚姻数増加の方策

結婚した後の生活パターンとしては、大きく分けて、①夫婦の一方のみが働くパターンと②夫婦が共働きするパターンが考えられます。

(1)夫婦の一方のみが働くパターン

夫婦のうち働かない方が育児を担当する場合は、子育て上の大きな問題はないと考えられます。問題は、夫婦のうち働かない方が将来的には仕事に復帰してキャリア形成することを考えている場合です。子育てのためにキャリアを一旦中断した後復帰した場合であってもキャリア形成を追求できるような社内体制(復帰後の待遇・昇進についてのルール、復帰に向けた教育研修制度等)の整備とそれを支援する政策(整備に対する補助、整備の義務化等)が必要と考えます。キャリア追求を諦めたくないと考える女性にとって、子育てのためにキャリアを中断したとしてもその後キャリアを追求できる路が確保されているかどうかは、結婚するかどうかを判断するにあたって極めて深刻且つ重要な問題だからです。

なお、妻のみが働く場合、妻の妊娠・出産がキャリア形成に悪影響を及ぼさないような社内体制(産休の確保、育児休業の奨励、マタハラ防止策等)の整備も必要です。

(2) 夫婦が共働きするパターン

共働きの場合は、経済的な大きな問題は少ないと考えられますが、夫婦のキャリア形成が育児によって悪影響を受けないような環境整備が必要となります。具体的には、育児の負担を軽減するため、待機児童の解消、保育施設の利用時間の柔軟性、病児保育(具合が悪くなった子供を親が就業時間中に引き取りに行かなくてもすむ体制)、学童保育(就学児童の放課後の面倒を看る体制)等についての制度の充実のほか、勤務体制の柔軟化(育児休業の奨励、テレワークの普及、勤務時間の短縮・柔軟化等)が必要です。夫婦が就業時間中安心して育児を任せられる体制が確保されていれば、キャリアと育児の両立がより現実的となるからです。

(3)その他の方策

・妊娠・出産・生殖に関する情報提供により、晩産のリスク(妊娠率の減少、低体重化等)等についての啓発を行うことも重要と考えます。

・また、子育てを取り巻く社会・企業・男性の意識改革(職場環境、パートナー家族上司同僚の理解、仕事へのモチベーション等)も重要と考えます。子育てが重要であり支援しなければならないという意識を個人・企業・社会の全てのレベルで共有することが、子育て支援の環境整備の原動力となるはずだからです。

・制度改革によって出生率をV字回復した海外の成功例(スウェーデン、イギリス等)の施策を研究し、日本に適したものを導入することも検討されるべきです。経済的に困窮する家庭・女性を金銭的に援助することはもちろん大切ですが、それだけでは少子化問題の根本的な解決にならないと考えます。

8.婚外子割合増加の方策

(1)海外の状況

日本の婚外子が欧米と比べて遙かに少ないのは、社会的文化的違いもありますが、結婚しなくても育てられる社会制度も関係していると考えられます。欧米の制度の詳細を知りませんが、スウェーデンやイギリスは、育児に必要なインフラ整備を進めた結果、合計特殊出生率が回復したと聞きます。社会保障制度が充実している北欧3国の合計特殊出生率がいずれも高い(スウェーデン1.88、ノルウェー1.85、フィンランド1.85)のも頷けます。

(2)考えられる方策

シングルマザーは育児をしながら生活費を稼ぐ必要がありますので、シングルマザーが安心して出産・育児をするためには、①妊娠分娩時の経済的不安が解消されること、②育児時間を確保しやすい非正規労働者・派遣労働者であっても待遇が安定していること、③(シングルマザーに限られませんが)勤務中の育児を任せられる支援制度があることが必要と考えます。

①については、出産一時金増額、妊婦健診の公的助成等の施策が実施されています。②については、非正規労働者・派遣労働者の均衡待遇・均等待遇の原則が導入され、有期労働者の無期雇用社員への転換権も認められています(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条9条、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律30条の3第2項、労働契約法18条)。③については、7(2)と重なりますが、待機児童の解消、保育施設の利用時間の柔軟性、病児保育、学童保育等についての制度の充実のほか、勤務体制の柔軟化も必要です。

9.特効薬は何か

働き方改革、非正規労働者の待遇改善、セクハラ・マタハラ防止策、育児休業制度の拡充、育児時間制度の改正、待機児童の解消等、これまで様々な方策が講じられてきましたが、残念ながら現在のところ少子化問題解消の兆しは見えていません。

小池都政が子育て世代に対する補助金を導入しましたが、これは既に(ほとんどの場合は結婚して)出産した人への経済的援助であり、援助規模が相当大きくない限り、これから結婚を考えている人に対する結婚への誘因としては弱いと言わざるを得ません。即ち、既に結婚している子育て世代への経済的援助は「子育て支援」ではあっても「少子化対策」とは異なるということです。少子化対策は、子育て支援とは一応切り離して考える必要があると思われます。現国会での議論も、少子化対策と言いながら実は子育て支援の議論をしている場面があるのが気になります。

私見ですが、少子化対策としては、①育児が就労上の障害とならないこと、②妊娠・出産・育児から復帰した後もキャリア形成できること、③シングルマザーの育児期間中(特に初期)の経済的不安をなくすことが最も効果的と考えます。①②は婚姻数増加(上記7)、③は婚外子割合増加(上記8)に関するものです。

①については、乳児から小学校高学年になるまでの間の保育体制を完備することで、子育て期間中であっても従前と同じように就労することが可能になります。そのためには、保育所・託児所の数的確保だけでなく、利用時間の柔軟化(残業になったら面倒を看てくれる体制)、病児保育(具合が悪くなった子供を親が就業時間中に引き取りに行かなくてもすむ体制)、学童保育(就学児童の放課後の面倒を看る体制)についても充実させることが必要です。

②については、復職後のキャリア形成についての社内ルール作り(昇進・昇給・待遇等)、復職時の教育・研修制度の確保(スキル回復のための助走期間の確保)等により、復職後のキャリア形成について「見える化」することが必要と考えます。実施する主体は企業になりますが、最初は企業の努力義務、将来的には義務化ということも考えられます。

③については、シングルマザーへの出産・育児に対する十分な額の補助金が効果的と考えます。例えば、シングルマザーが安心して子育てに集中できるようにするために必要な生活資金として出産後2年間毎月10万円を支給すると、一人当たり年間240万円の予算が必要になりますが、仮に対象者が20万人(現在は2万人程度)の場合でも年間2400億円の予算で済みます。婚外子割合が増えれば、婚外子に対する社会的偏見も少なくなります。教育費の無償化も有効ですが、上記①を前提とすれば、出産直後の経済的不安の解消が喫緊の課題と考えます。

新設されたこども家庭庁の予算は4乃至5兆円ありますので、効果的な施策に予算を使っていただきたいところです。

10.最後に

育児をしながらノーベル賞を2回受賞したキュリー婦人は、研究と子育ての両立について、「私は子どもを育てることと研究することを同じ次元で考えています。よい研究をすることは社会への奉仕ですが、社会のためになるような素晴らしい人間を育てることも研究同様、社会への奉仕と考えています。」と述べています。育児に対する全ての人の意識改革が重要です。