入管法改正2024
技能実習制度・特定技能制度をめぐる問題や不法滞在問題を改善するため、出入国管理及び難民認定法(「入管法」)及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(「技能実習法」)が改正され2024年6月21日に公布されました。
| 1.背景 2.入管法 3.技能実習法(育成就労法) |
1.背景
1993年に創設された技能実習制度(90職種、40万人)は、人材育成を通じた国際貢献を目的とし(労働力の需給の調整の手段として行われてはならない(技能実習法3条2項))、受入企業が計画に基づいて実習を実施し管理団体が実習を監理するという制度ですが、本人意向の転職は原則として認められません。2019年創設の特定技能制度(12分野、20万人)は、人手不足解消における人材確保を目的とし、日本語及び技能の試験合格等を要件として雇用する制度であり、本人意向の転職は同じ分野内では認められています。特定技能制度では分野毎の受入上限を設定しており、特定技能1号(相当程度の知識又は経験を必要とする技能)と特定技能2号(熟練した技能を要する業務)の2種類があります。
技能実習制度については、制度目的と運用実態との乖離、技能実習生の立場に立った転籍のあり方、監理団体による監理等の体制や技能実習機構の相談・支援体制の充実、技能実習生の日本語能力不足が問題とされています。特定技能制度については、外国人が成長しつつ中長期的に活躍できる制度の構築、受入見込数の設定のあり方、大都市集中防止が問題とされています。
2.入管法
(1)育成就労の創設(別表第一の二)
「技能実習」に替わる在留資格として「育成就労」が定められました。育成就労の在留資格で行うことができる活動は、育成就労産業分野に属する技能を要する業務に従事する活動とされます。「育成就労産業分野」とは、特定産業分野(特定技能の対象分野)(*)のうち、外国人にその分野に属する技能を本邦において就労を通じて習得させることが相当であるものとして主務省令で定める分野とされています。詳細は下記3をご覧ください。
(*)介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設業、造船・船用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業
(2)特定技能の適正化(19条の22第2項)
1号特定技能外国人の支援機関(受入先)は登録支援機関に限るものとされました。登録は法令違反等の拒否理由があると認められず(19条の26)、一定の事由があると取り消されます(19条の32)。受入先の不適正な対応による人権侵害等の問題を防ぐことが企図されています。1号特定技能外国人とは、特定産業分野に属する法務省令で定める相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人のことです。在留期間の上限は通算5年で家族の帯同は認められません。
(3)不法就労助長罪の厳罰化(73条の2)
(i)事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者、(ii)外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者、又は(iii)業として外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金が科されていましたが、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金と厳罰化されました。
(4)永住許可制度の適正化
永住許可要件として、入管法に定める義務の遵守及び公租公課の支払が追加されました(22条2項)。
また、永住者の在留資格の取消事由として、(i)入管法に定める義務を遵守しないこと、(ii)故意に公租公課の支払をしないこと、(iii)刑法・暴力行為等処罰に関する法律・盗犯等の防止及び処分に関する法律・特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律・自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に定める特定の罪により拘禁刑に処せられたことが追加されました(22条の4第1項8号、9号)。この場合、法務大臣は、当該外国人が引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合を除き、職権で、永住者の在留資格以外の在留資格への変更を許可できることとされました(22条の6)。
上記改正により、入管法違反や公租公課不払があると永住者の在留資格を取得又は維持することができなくなります。
3.技能実習法(育成就労法)
技能実習法の名称は、「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」(「育成就労法」)に改められました。
(1)育成就労制度の目的(1条)
育成就労制度の目的は、育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護を図り、もって育成就労産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能(特定技能1号レベルの技能とされています。)を有する人材を育成するとともに、育成就労産業分野における人材を確保することとされています。技能実習制度では禁止されていた「人材確保」を正面から認めたものです。
(2)分野別運用方針(7条の2)
政府の定める基本方針に加え、主務大臣は育成就労産業分野のうちの個別分野における運用方針を定めるものとされました。運用方針には、人材の基準、育成就労外国人の育成、人材の受入見込数、育成就労計画認定の停止・再開の措置、育成就労実施者の変更等を定めることとされています。個別分野毎に受入見込数が策定されることになります。
(3)育成就労計画の認定
育成就労を行わせようとする本邦の個人又は法人は対象外国人毎に育成就労計画を作成して出入国管理庁長官及び厚生労働大臣の認可を受ける必要があります(8条)。
育成就労計画の認定基準として、従事させる業務・要する技能・日本語能力等が基準に適合していること、育成就労期間が3年以内であること、(単独型の場合)育成就労実施者に対する監査体制が基準に適合していること、外国の送付機関を経由した外国人が送付機関に支払った費用額が基準に適合していることが追加されました(9条1項)。技能能力に応じた業務での就労や悪質ブローカーの排除が期待されます。
(4)転籍の柔軟化
技能実習制度では本人意向の転職は原則として認められませんでしたが、育成就労外国人は育成就労実施者変更の希望を申し出ることができ(8条の2)、当該育成就労外国人を新たに育成就労させようとする本邦の個人又は法人は、当該育成就労外国人を対象とする育成就労計画を作成して出入国管理庁長官及び厚生労働大臣の認定を受けることができることになりました(8条の5)。この場合の育成就労計画の認定基準には、上記一般的基準のほか、(i)育成就労期間が通算(原則として)3年以内であること、(ii)要する技能及び育成就労産業分野が従前と同一であること、(iii)(やむを得ない事情がある場合を除き)直前の育成就労実施者が育成就労を行わせていた期間が主務省令で定める期間(1年以上2年以下)を超えており当該育成就労外国人が修得した技能・日本語能力が基準に適合しており育成就労を行わせようとする者が実績・費用負担能力等の基準に適合していることが含まれます(9条の2)。
育成就労の対象でなくなった外国人を新たに育成就労させようとする本邦の個人又は法人についても、当該育成就労外国人を対象とする育成就労計画を作成して出入国管理庁長官及び厚生労働大臣の認定を受けることができることになりました(8条の6)。この場合の育成就労計画の認定基準には、上記一般的基準のほか、(i)育成就労期間が通算(原則として)3年以内であること、(ii)要する技能及び育成就労産業分野が従前と同一であること又はやむを得ない事情があることが含まれます(9条の3)。(ii)の基準は、当該育成就労外国人が出国した事実があり、出国前の育成就労期間の合計が1年を超えず、出国後の育成就労の対象となった事実がない場合において、従前の認定育成就労計画に定められていた技能と同一でない技能を要する業務又は従前の認定育成就労計画に定められていた育成就労産業分野と同一でない育成就労産業分野に属する技能を要する業務に従事することについてやむを得ない事情があるときは適用されません。
(5)関係機関の整備
出入国管理庁長官及び厚生労働大臣は育成就労実施者変更の希望の申出等の受理に係る事務を外国人育成就労機構に行わせることができます(8条の3)。外国人育成就労機構は、育成就労実施者変更の希望を申し出た育成就労外国人の育成就労の継続が可能となるよう、当該育成就労外国人の相談に応じ、必要な情報の提供、助言、職業紹介その他の援助を行うものとされています(8条の4第3項)。
従前の実習監理を行う監理団体は、監理支援を行う監理支援機関に替わりました(5条、23条)。監理支援機関の許可基準として、(監理型)育成就労実施者と密接な関係がなく知識又は経験を有する者に役員の監理支援事業に係る職務の執行の監査を行わせる措置を講じていることが追加されました(25条1項5号)。従前は、役員が団体監理型実習実施者と密接な関係を有するもののみで構成されていなければ、外部監査は必要ではありませんでした。
(6)特定技能制度との関係
育成就労期間(3年)終了後、一定の技能試験及び日本語能力試験に合格した場合は特定技能1号(5年間)への移行が可能であり、更に一定の技能試験及び日本語能力試験に合格した場合は特定技能2号(期間無制限)への移行が可能です。
(7)施行日・経過措置
育成就労制度の施行は2027年を予定されています。
施行日前に入国し施行日時点で技能実習を行っている場合は、施行日後も引き続き技能実習を継続でき、施行日前に技能実習計画の認定を申請している場合は、施行日後に技能実習生として入国できる場合があります。

