IPOをめざそう(その7)~ 東証のコーポレートガバナンス・コード(その2)

さて、今回は東証のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)について説明します。上場企業にとってコーポレートガバナンスを意識した経営は必須となっています。会社は誰のものかというテーマにもつながる会社の根本の建付けにかかわるものであり、資本コストの概念も含め理解しておく必要があります。

IPOの実務的具体的な準備という視点からは、適切な意思決定を行える機関設計、規程の整備、内部統制機能を組み込んだ組織整備、内部監査制度の整備、監査役(あるいは、監査等委員、監査委員会)による監査体制の構築、情報開示体制の構築などが、必要となります。こうした実務手続きについては、別の回で説明したいと思います。

  1.背景 2.コーポレートガバナンスとは 3.コーポレートガバナンスの2つの側面(以上本号) 4.プリンシパルベース・アプローチ 5.5つの基本原則 6.現状の評価と今後   (参考1)「資本コストや株価を意識した経営」の要請 (参考2)伊藤レポート (参考3)スチュワードシップ・コード  
  1. 背景

日本の上場企業では長年に渡り、株主資本は利子の無い返さなくても良い会社のお金で、利益は会社のもの、株主へは安定的な配当を行っていれば経営者は合格であるといった誤った考え方が蔓延し、株式を持ち合う株主構造から株主の権利を軽視した経営が行われてきました。株主のコスト(期待収益率)を意識した経営は行われず、グロ-バルにみて日本企業は総じて株式資本利益率(Return On Equity、ROE)が低く、稼ぐ力が大きく見劣る状況でした。こうした状況を改善すべく、東証は、1999年コーポレ-トガバナンスの充実を上場会社に要請、2015年に金融庁と共同し上場企業が守るべき企業統治の行動規範としてコーポレートガバナンス・コードを作成しました。第2次安倍政権の成長戦略の一部となるものであり、通称、伊藤レポートやスチュワードシップ・コードと共に、上場企業に大きな変化を促しました。その後2018年、2021年に改訂が行われ、今年(2026年)更なる改定が検討されています。

2.コーポレートガバナンスとは

 コーポレートガバナンスとは、一言で言えば企業統治のことです。企業は上場後も株主のために持続的に企業価値を向上させていくことを求められています。その目的を達成すべく経営が行われるよう、経営者を監督・統制していくことを、コーポレートガバナンスといいます。東証のコーポレートガバナンス・コードでは、コーポレートガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・構成かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する」と定義しています。

3.コーポレートガバナンスの2つの側面

コーポレートガバナンスは2つの側面を持ちます。一方が、いわゆる守りのガバナンスといわれる、不祥事の防止です。不祥事が起こらないように、組織体制を整備し、経営を行わせることです。粉飾決算であったり、コンプライアンス違反であったり、昨今でも世の中を騒がす事案が起こっています。そうした不祥事によって、企業の価値は大きく毀損し、場合によっては会社が潰れ株主価値がゼロになってしまうこともあります。不祥事が起こった時、その原因として、ガバナンスが効いていなかったとか、ガバナンスが弱かったとかと語られます。上場審査時においては、特に不祥事が起こらないような仕組みが構築できているかが、重要なチェックポイントの一つとなります。

一方で、持続的な企業価値の向上のためには、守りだけで無く攻め経営も必要であり、持続的な成長のために有効な投資を行っていかなければなりません。そうした攻めの経営をさせていくのが、攻めのコーポレートガバナンスです。企業は、いたずらに内部留保を積み上げ無駄な資産を抱えるのでなく、必要な将来の投資を行いあるいは従業員の給料を上げて優秀な人材を確保するなどし、株主のコストである株主資本コストを上回る利益を上げていく、そうして稼いだ利益を株主に還元していくということを求められています。