IPOをめざそう(その7)~ 東証のコーポレートガバナンス・コード(その1)

本題に入る前に、2025年のIPO市場を振り返ります。2025年のIPOの件数は66件と前年に比し20件の減少となりました。主に件数で3分の2を占めるグロ-ス市場への上場が大きく減少したことによるものです。株式市場全体は活況でしたが、グロース市場は伸び悩みが見られたことによるほか、東京証券取引所(東証)がグロース市場の上場維持基準の見直しを4月に発表(9月決定)したことが大きく影響していると見られます。

具体的には、「上場後10年経過後時価総額40億円以上」を「上場後5年経過後時価総額100億円以上」としました。企業がグロ-ス市場に上場後、更に大きく成長していくことをイメージしていたのに反し、その多くが上場時の時価総額を上回れない、IPOがゴ-ルとなってしまっているという実態があり、その改善を図ったものです。証券会社も対応して、IPO準備を進める企業の選別を厳しくしており、IPOの件数は今年も昨年同様の水準が予想されています。今後、未公開企業のM&Aや2次流通などが活発になっていくものと思われます。

上場時の時価総額を見ますと、いわゆる「小粒上場」が減る一方で、パーシャルスピンオフされたソニーフィナンシャルグループ、3度目の上場となった新生銀行、JX金属(旧日鉱金属)などの大型の上場が目に付きました。

IPOに影響を与えた事件として、オルツ事件に触れておきます。オルツは2014年に設立されたAIを使って議事録作成サービスを行う会社で、2024年10月に東証グロース市場に大和証券を主幹事として上場しました。監査法人はシドーで、ジャフコや証券系・銀行系のベンチャーファンドも投資していました。これらのIPOに関与した専門家ばかりか、上場審査を行った日本取引所自主規制法人も欺かれました。2025年4月に証券取引等監視委員会が関係者の内部告発などから調査に乗り出し、循環取引によって売上高を最大9割過大計上するという驚くべき粉飾決算が発覚しました。結果、8月末に上場廃止となりました。東証、証券会社、監査法人などは、再発を防止するため審査やチェックの強化を図っています。具体的には、仕入れ先や販売先の実態の調査(循環取引など架空の売上げが無いことの検証)、監査法人や証券会社の交代があったときは前任の会社に理由の聞き取り実施、内部通報制度の整備状況のチェック、東証の通報窓口の周知などがポイントとしてあがっています。

さて、今回は東証のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)について説明します。上場企業にとってコーポレートガバナンスを意識した経営は必須となっています。会社は誰のものかというテーマにもつながる会社の根本の建付けにかかわるものであり、資本コストの概念も含め理解しておく必要があります。

IPOの実務的具体的な準備という視点からは、適切な意思決定を行える機関設計、規程の整備、内部統制機能を組み込んだ組織整備、内部監査制度の整備、監査役(あるいは、監査等委員、監査委員会)による監査体制の構築、情報開示体制の構築などが、必要となります。こうした実務手続きについては、別の回で説明したいと思います。

1. 背景 2.コーポレートガバナンスとは 3.コーポレートガバナンスの2つの側面 4.プリンシパルベース・アプローチ 5.5つの基本原則 6.現状の評価と今後   (参考1)「資本コストや株価を意識した経営」の要請 (参考2)伊藤レポート (参考3)スチュワードシップ・コード