会社をまとめるということ

~会社をまとめていくためのリーダーシップとチームづくり~

社長の仕事を一言でいうとしたら、会社の目標を立てて達成に向かって社員をリードしていくことでしょう。

ビジネスの世界ではこのやり方が一番正しいというのはありませんが、どうすれば、社員が良い雰囲気のなかで仕事を進め、素晴らしい成果をもたらしてくれるのでしょう?社長になれば誰でも直面する課題のひとつですが、特に創業して間もない人には、初めて経験する社長の役割や立ち位置について、少なからず悩まれるものだと思います。

私自身も随分と悩んだこの課題に対して、拙い自分の経験と反省も込めて、社長のリーダーシップとチームづくりに必要と考えることを書いてみたいと思います。

会社が立上げ当初の場合は、社員数が少ないため、課題に対して自らアイデアを出し、自分が先頭に立って行動して切り拓いていく、という率先垂範型リーダーシップが一般的でしょう。会社の実情に一番精通しているのは自分、任せようにも頼りにできる人間がまわりにいない、という思いがそうした行動をとらせることになります。

また、IT技術が社会経済の基盤となる中、競争に勝つにはスピード優先や効率第一主義が必要不可欠という風潮があります。このため、とにかく素早く動かなければという強迫観念が経営者には常につきまといます。こうした理由から、新米社長はいきおいワンマンプレーのトップダウン経営を取りがちですが、このやり方にはいくつか落とし穴があります。

気をつけるべき点とその対処法についてまとめてみました。

1)仕事はチェックではなくサポートして進める

仕事を回すやり方は、計画をつくってまず行動を起こし、振り返りをして修正点を見つけ、改善対策を実行に移す、というのがPDCAの基本パターンですが、実際には、社長の目は進捗管理と結果ばかりにいきがちです。例えば良くない結果がでたとしましょう。社長は、自ら会議を主催して課題をリストアップ、自分で考えた対策案を示し指示することで、解決しようと躍起になります。私自身も当初はそういう行動をとっていました。時間とマンパワーに制約がある以上、こうしたやり方ではすぐに限界が露呈しますし、自ら手を下し細部にまでマイクロマネジメントをしてしまうと、組織が上手く回らなくなります。社員のヤル気が生まれてきませんし、彼らの能力を上手く引き出すことができず、下手をしたら会社から離反していきます。

もし組織を上手く回したいと考えるならば、指示よりもヒアリングに重点を置くべきです。ヒアリングの仕方も、何が問題かに焦点を当てるのではなく、社員が良い成果を出すためにどんなサポートができるか教えてほしい、と聞くべきです。そうすると、現場の状況に根ざした生きた改善案が出やすいですし、何より社員に目的意識が生まれ自分たちの手で良くしようという自主的な活力が出てきます。

この相手の言うことをよく聞く、傾聴する姿勢で思い出すのは、海外駐在時分に、現地人副社長が個室のドアをいつも開け放ちノブには「My door is always open for you.」という看板をぶら下げていたことです。そこで相談にいくと、彼は目じりにしわを寄せながら「あなたが望ましいと思うアイデアは何か、その実現のために私がどう動けば良いのか教えてほしい」と、いつも決まって、自分の意見をほとんど言わずに、臆面もなく相談者の考えや自分がどう動くべきかを聞く人でした。当時の私は、彼は魅力的な性格の持ち主だが自分の頭で考えようとしない人物だなと少し軽く見くびってみていました。しかし、今になって思えば、これが彼の組織を活性化するマネジメントスタイルだったんだ、と改めて気づかされます。

私もマネして日本ではいつもドアを開放していましたが、個人的魅力に欠けるのか、遠慮があるのか、飛び込んで相談にくる人は少なく余り成果はありませんでした。代わりに、隔週一回のペースで全社員と個人面談の時間を設けて、仕事のこと会社生活のことなど何でも聞くようにしていました。昼食の開始時間や細かな勤務管理ルールなど、普段の会議では気づかないことを社員から随分と教えてもらい、すぐに対応できることは素早く手を打つことで、出来るだけ距離を近づけるよう努力をしていました。

  • 人間関係を重視する 

仕事は数字で成果を出すことが求められるため、いきおい理詰めの冷たいものになりがちですが、成果を出すのが情緒的な人間である以上、厳しさだけでなくフレンドリーな“一緒の仲間”という接し方が大事になります。難しいことではありません。真心からのRespectと感謝を示すのです。そうすれば、お互いの心に間違いなく温かいものが通いあいます。

Respectについては苦い経験があります。海外で駐在している時分は現地人とよく言い合いをしました。相手が強く主張をしてくるものですから、負けまいと相手の意見を途中でさえぎり、上司という立場を利用して自分の考えをまくし立てて話を始めました。そうすると彼から、あなたの態度は相手をRespectしていない、たとえ気に入らない意見でも違う話には全力で耳を傾けるべきだ、と強い非難を受けました。確かにそうだったのです。相手の主張を取るに足らないものと見下した態度を見透かされたようで、とても恥ずかしい思いをしました。それ以降、私の中でRespectの意味は単に相手に敬意を払うというだけではなく、相手の話を注意深く最後までしっかり聞くこと、と同義となりました。

感謝の気持ちをもって相手に接することも、同様に重要です。人は完全でない以上、したくなくともミスをします。いや必ずミスをします。この失敗は、本人の注意不足ともいえるが、そもそも人はミスを犯しやすいことを前提にすれば、ミスをしてもカバーできる仕組みやプロセスがないことに本質的な問題が潜んでいないか、と思慮の足りなさを思うべきです。社員の仕事への基本姿勢に間違いがなければ、仕事への献身ぶりにトップが率直に感謝を示すことで、社員に対して寛大になれますし、会社全体のストレスを軽減させます。そして、なにより大切で風通しの良い職場の元となる、相互の信頼感を育むことができます。

ここで一番大事なところですが、Respectや感謝を示し過ぎると過剰な謙虚の姿勢に映り、社員から軟弱に見られないか軽く見られないか、という不安な考えが頭をもたげます。この気持ちを克服するのです。トップに立つとエゴはつきものです。エゴを自覚した上で謙虚な姿勢で社員に接することができるかどうか、貴方の真の勇気が試されることになります。

3)根気をもつ、我慢する

社長として大事な資質を一つ上げろと言われれば、それは忍耐力です。仕事が順調に進んでいるときは誰でも平常心で仕事を進めることができますが、トラブルや危機的状況のときこそ(通常毎日が問題の連続だと思います)、社長のリーダーとしての真価が問われます。仕事が思うように進まないために、感情的な切羽詰まった態度をリーダーが示すと社内のムードは一層悪化したものになります。会社の勢いが失速し社員が暗い気持ちになりそうなときに、視点を変えて小さくとも明るい希望の光を見つけて、元気で自信ある態度を社長が示していけば、会社全体を大きく勇気づけて復元する力につながります。

尊敬する先輩から、後輩の育成のためには彼らの動ける範囲をできるだけ大きく取れ、と言われたことがあります。泳ぎを覚えたての人が、プールで泳ぐ姿を想像してみてください。コースラインの幅を大きくしておけば、こうした人が多少左右にぶれても目標まで泳ぎきることができ自信が生まれます。部下の仕事ぶりで細部が気になりながらも大きなところで踏み外さない限り大丈夫、と辛抱強い心構えで臨みましょう。

私自身こんな経験をしました。ドイツで社長をしていた頃、現地現物の必要性から傘下の300余の販売店を定期的に訪問していました。販売店オーナーとの面談となり、お願い事項を五つほどリストアップして説明したところ、彼から「現場はやらなければならないことが日々コロコロ変わる。やることは、1,2,たくさん、と数え、3つ以上のことは社員に頼まない」と言い放たれました。私は、机上で考えることと現場のギャップを思い知らされ、本当に目からうろこが落ちる思いでした。それ以来、誰に仕事を依頼しても、頼んだことの3つもしてくれれば「御の字」と腹をくくりました。そうでないと、こちらもフラストが溜まることになります。期待を詰め込み過ぎないこと、そうすれば人は期待以上の働きをしてくれます。そう信じて、良い成果を待って辛抱しましょう。

以上、率先垂範型リーダーシップの注意すべき点を3つほど列挙してみました。社長には強い責任感と同時にエゴが同居することを自覚して、自分が必ずしも一番賢いわけではない、自分が全てを知っているわけではない、という謙虚で柔軟な姿勢が、最終的にはものをいいます。皆さんがCool head and Warm heartを持って、会社づくりに成功されることを期待しています。