マイクロプラスチック問題を考える

マイクロプラスチック(5ミリ以下のプラスチック粒子)による海洋汚染は、温暖効果ガスと並んで大きな環境問題となっています。マイクロプラスチックは、海洋生物のみならず人体へも悪影響があると言われています。以下では、2022年4月1日に施行されたプラスチックに係る資源循環の促進に関する法律を中心に、取り組むべき課題について検討します。

1.問題の所在 2.日本の取り組み 3.世界の取り組み 4.プラスチックに係る資源循環の促進に関する法律 (1)目的 (2)事業者の責務 (3)消費者の責務 (4)地方公共団体の責務 (5)プラスチック使用製品製造業者等 (6)特定プラスチック使用製品の使用の合理化 (7)排出業者による排出の抑制及び再資源化等 5.我々にできること

1.問題の所在

マイクロプラスチックとは、5㎜以下の微細なプラスチック粒子のことを指します。マイクロプラスチックは、プラスチック製品の生産段階でできるもの(プラスチック製品製造用のプラスチック粒や製品の原材料となるプラスチック粒)とプラスチックが自然環境で劣化して破片化するものに分類されます。マイクロプラスチックは、海洋生物への悪影響(マイクロプラスチックが内蔵に詰まる、マイクロプラスチックに付着していた有害化学物質が体内に蓄積する等)があるだけでなく、海洋生物を摂取する人間の体内にも深刻な悪影響を及ぼす可能性があります。海洋プラスチックごみの量は極めて膨大であり、世界全体では、毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出しており、このままでは2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えるとの試算も報告されています(2016年世界フォーラム)。そのため、プラスチックの使用量自体の削減、プラスチックの海洋流出の防止、プラスチックごみの回収といった対策が必要になります。

2.日本の取り組み

日本政府の主な取り組みは以下の二つです。

(1)プラスチック資源循環戦略(第四次循環型社会形成推進基本計画)

3R(reduce, reuse, recycle)+Renewableを基本原則とする、プラスチック資源の循環及びプラスチックによる海洋汚染解決の戦略です。戦略と目標は以下の通りです。

・ワンウェイプラスチックの使用削減(2030年までに排出を累計25%抑制)

・プラスチック資源の容易且つ効果的な分別回収・リサイクル(2030年までに容器包装の60%をリユース・リサイクル)

・可燃ゴミ指定袋等へのバイオプラスチックの使用(2030年までに200万トン導入)

・ポイ捨て・不法投棄の撲滅

(2)海洋プラスチックごみ対策アクション

2019年のG20に先駆けて、以下のアクションプランが策定されました。

・廃プラスチック処理・リサイクル施設の整備支援

・清涼飲料団体に専用のリサイクルボックスの設定を要請

・海洋ごみゼロウィークを作り全国一斉清掃を行う

・自治体が行う海岸漂流物の回収・処理の支援

・技術開発や代替素材の生産設備等の支援

なお、「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良港な景観及び環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」の2018年改正により、マイクロプラスチック問題が海岸漂着物対策に取り入れられ、事業者に対するマイクロプラスチックの使用抑制や廃プラスチック類の排出抑制についての努力義務が規定されました。

3.世界の取り組み

EUでは、2030年までに全てのプラスチック包装剤をリユース・リサイクルすることとしています。米国では、プラスチックストロー・マドラーの使用禁止、再生プラスチック比率記載の義務づけ、マイクロビーズを含む洗顔料・歯磨き粉の製造販売の禁止を行っています。中国では、廃プラスチック等固体廃棄物の輸入を禁止しています。タイでは、廃プラスチック・電子廃棄物の輸入制限を強化しています。

4.プラスチックに係る資源循環の促進に関する法律(プラ資源循環法)

概要は以下の通りです。

(1)目的

国内外におけるプラスチック使用製品の廃棄物をめぐる環境の変化に対応して、プラスチックに係る資源循環の促進等を図るため、プラスチック使用製品の使用の合理化、プラスチック使用製品の廃棄物の市町村による再商品化並びに事業者による自主回収及び再資源化を促進するための制度の創設等の措置を講ずることにより、生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与すること。

(2)事業者の責務

[一般事業者の責務として、分別排出・再資源化、使用合理化、再資源化品の使用、認定プラスチック使用製品の使用が定められています。いずれも努力義務です。認定プラスチック製品(後述)は、プラスチックの使用量削減や再資源化等に配慮した設計と認定された製品のことです。再資源化を除き、消費者の責務も同じ内容です。]

・プラスチック使用製品廃棄物及びプラスチック副産物を分別して排出するとともに、その再資源化等(*1)を行う(努力義務)

・プラスチック使用製品の使用の合理化(プラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品の過剰な使用を抑制すること等)により、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制する(努力義務)

・使用済プラスチック使用製品等の再資源化等により得られた物又はこれを使用した物を使用する(努力義務)

・認定プラスチック使用製品を使用する(努力義務)

(*1) 使用済プラスチック使用製品又はプラスチック副産物を製品の一部として利用可能な状態にすること及び使用済プラスチック使用製品であって可燃性のものを発熱に利用できる状態にすること

(3)消費者の責務

・プラスチック使用製品廃棄物を分別して排出する(努力義務)

・プラスチック使用製品の使用の合理化(プラスチック使用製品をなるべく長期間使用すること、プラスチック使用製品の過剰な使用を抑制すること等)により、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制する(努力義務)

・使用済プラスチック使用製品等の再資源化等により得られた物又はこれを使用した物を使用する(努力義務)

・認定プラスチック使用製品を使用する(努力義務)

(4)地方公共団体の責務

[(1)容器包装リサイクル法に規定する指定法人(公益財団法人日本容器包装リサイクル協会)に委託し再商品化を行う方法又は(2)市区町村が単独で又は共同して再商品化計画を作成し、国の認定を受けることで、認定再商品化計画に基づいて再商品化実施者と連携して再商品化を行う方法のいずれかにより、市町村によるプラスチック使用製品廃棄物の分別収集及び分別収集物の再商品化が可能となりました。https://plastic-circulation.env.go.jp/about/pro/bunbetsu]

・市町村は、その区域内におけるプラスチック使用製品廃棄物の分別収集及び分別収集物の再商品化に必要な措置を講ずる(努力義務)

・都道府県は、市町村に対し、市町村の責務が十分に果たされるように必要な技術的援助を与える(努力義務)

・市町村及び都道府県は、国の施策に準じて、プラスチックに係る資源循環の促進等に必要な措置を講ずる(努力義務)

(5)プラスチック使用製品製造業者等

[プラスチック使用製品の製造業者等は、プラスチックの使用量削減や再資源化等に配慮した設計について認定を受けることができます。認定プラスチック使用製品は、一般事業者や消費者がプラスチック製品を選択する場合の指標となります。https://plastic-circulation.env.go.jp/about/pro/seido]

・主務大臣が定めるプラスチック使用製品設計指針(*2)に従いプラスチック使用製品を設計する(努力義務)

・プラスチック使用製品製造業者等は、その設計するプラスチック使用製品の設計について主務大臣の認定を受けることができる(「認定プラスチック使用製品」)

(*2) ①構造(減量化、包装簡素化,長期使用化・長寿命化、再使用可能な部品の使用・部品の再使用、単一素材化、分解・分別の容易化、収集・運搬の容易化、破砕・焼却の容易化)、②材料(プラスチック以外の素材への代替、再生利用可能な材料の使用、再生プラスチックの利用、バイオプラスチックの利用)、③製品のライフサイクル評価、④情報発信及び体制の整備(製品構造、部品取り外し方法、製品・部品の材質名、部品の交換方法、製品・部品の修理方法、製品・部品の破砕・焼却方法、製品・部品の収集・運搬方法)、⑤関係者との連携、⑥製品分野毎の設計の標準化・設計ガイドライン等の策定・遵守(③ないし⑥は留意点)

(6)特定プラスチック使用製品の使用の合理化

[いわゆる使い捨てプラスチックの排出を抑制するため、特定プラスチック使用製品提供事業者は、使用の合理化、情報提供、体制整備、安全性配慮等の取り組みが求められます。https://plastic-circulation.env.go.jp/about/pro/gorika]

・主務大臣は、特定プラスチック使用製品(*3)を提供する事業者で特定プラスチック使用製品の使用の合理化が特に必要な業種に属する事業を行う者が特定プラスチック使用製品の使用の合理化によりプラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制するために取り組むべき措置に関し判断の基準となるべき事項を定め、特定プラスチック提供事業者に対して必要な指導及び助言をすることができる。特定プラスチック「多量」提供事業者(年間5トン以上使用)に対して必要な措置をとるべき旨の勧告等をすることもできる。

(*3)      商品販売又は役務提供に付随して消費者に無償で提供されるプラスチック使用製品(容器包装再商品化法2条1項で定める容器包装を除く):フォーク、スプーン、ナイフ、マドラー、ストロー、ヘアブラシ、櫛、ひげ剃り、シャワーキャップ、歯ブラシ、ハンガー、衣料用カバーの12品目⇒有料化、ポイント還元、意思確認、反復使用促し、肉薄化・軽量化(原材料工夫)、適性サイズ化、反復使用可能化

(7)排出業者による排出の抑制及び再資源化等

主務大臣は、排出事業者(*4)がプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出の抑制及び再資源化等を促進するために取り組むべき措置に関し判断の基準となるべき事項を定め、排出事業者に対し必要な指導及び助言をすることができる。「多量」排出事業者(年間250トン以上排出)に対して必要な措置をとるべき旨の勧告等をすることもできる。

(*4) 産業廃棄物に該当するプラスチック使用製品又はプラスチック副産物を排出する事業者

排出事業者による排出の抑制・再資源化等 | プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)の普及啓発ページ

事業者・自治体の方向けに、プラスチック使用製品産業廃棄物等の排出事業者による排出抑制・再資源化等に関する情報を紹介しています。

5.我々にできること

消費者としてやるべきことは、上記プラ資源循環法に従えば、①プラスチックゴミの分別、②プラスチック製品の使用抑制、③プラスチック製品の長期使用、④再資源化による製品の使用、⑤認定プラスチック使用製品の使用ということになります。認定プラスチック使用製品は、プラスチックの再生がしやすい製品のことですが、どれが認定プラスチック使用製品であるかが消費者にはわかりにくいという点は改善されるべきと思います。

以上のほか、⑥マイクロプラスチック問題の周知、⑦教育現場でのマイクロプラスチック問題の啓蒙活動、⑧エコバッグの使用、⑨マイカップ・マイボトル・マイフォーク・マイスプーン等の携帯も考えられます。

ある資料によれば、プラスチックのうち、リサイクルされるのが25%、熱エネルギー化(燃やす)されるのが58%とのことですので、残り18%の一部がマイクロプラスチック化するということになります。上記取り組みは、リサイクル化率と熱エネルギー化率を高めることにつながりますが、熱エネルギー化はCO2の増加につながるので、リサイクル率を高めるほうが好ましいでしょうね。

マイクロプラスチック問題に対して様々な取り組みが可能ですので、皆さんも、自分でできることについて是非考えてみてください。