法的支援:弁護士の上手な使い方
私は、昨年末まで、大手法律事務所のパートナーとして企業法務を中心に弁護士業務を行ってきました。今後は、地域に密着した法的サービスを提供したいと考えております。
さて、弁護士の数は、過去30年間で3倍以上となりましたが、それでも4万人強に過ぎません。米国カリフォルニア州だけで毎年3万人の弁護士が誕生することと比べると、依然として日本の弁護士数は少ないといわざるを得ず、弁護士は身近な存在ではないというのが現状です。しかしながら、トラブルを未然に防止しトラブルを解決する上で、弁護士を活用することが有用な場合があります。
1.どういう場合に弁護士を使うべきか
①予防的利用
ビジネスの基盤となる商品・サービスに関する契約、高額な商品・サービスに関する契約、テンプレートとして反復継続して使用する契約等の重要性の高い契約を締結する場合は、漏れている条項や特に不利益な条項等がないかどうかについて、事前に弁護士による契約書のチェックを受けるべきでしょう。トラブルが発生した場合に備える条項が漏れていると対応手段が限定されますし、不利益な条項による不利益を避けることは困難だからです。
また、原則として口頭での合意も契約として有効ですが、万一紛争が生じた場合は「言った言わない」の水掛け論となってしまいますので、重要性の高くない合意についてもできる限り契約書を交わしておくことが賢明です。この場合、弁護士が契約書の作成に関与することが望ましいですが、時間的・費用的な理由等により弁護士が直接契約書の作成に関与しない場合であっても、どのような点を書面化すべきかについて弁護士からアドバイスを受けることが考えられます。
相続をめぐる紛争を防止するためには、遺言書を作成しておくことが効果的です。2020年7月10日から自筆証書遺言保管制度(< http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html>)が始まり、自筆証書遺言を法務局で保管することが可能になりましたが、遺言内容に誤りがあると遺言の目的を達成できないおそれもありますので、遺言書の重要性に鑑み、弁護士に相談しながら作成すべきでしょう。
②事後的利用
トラブルが深刻な場合(生命侵害、身体の重大な侵害、巨額の損害賠償責任の可能性等)や緊急を要する場合(刑事責任、保全処分等)は、迷わず弁護士に相談すべきでしょう。対応が遅れることにより、防御手段が限定される、証拠が散逸する、トラブルが拡大するといったおそれがあるためです。
そうでない場合であっても、権利関係が複雑であるとか関係者が多数であるといった事情があるときは、弁護士を関与させることによって効果的にトラブルを解決できる場合があります。
2.どうやって弁護士を捜すべきか
知り合いの弁護士や知人が紹介してくれる弁護士がいる場合はいいですが、そうでない場合は、弁護士を捜さなければなりません。
まず、弁護士会・自治体・各種団体が主催する法律相談会を通じて弁護士を捜す方法が考えられます。このほか、総合法律支援法に基づく日本司法支援センター(法テラス)ではトラブル解決に役立つ情報の提供や経済的余裕のない場合の無料法律相談や弁護士費用・司法書士費用の立て替えを行っています(< https://www.houterasu.or.jp/lp/sougou2020/?utm_medium=cpc&utm_source=yahoo&utm_campaign=r3_y_s_01&utm_content=r3_y_s_0101_a04_03&yclid=YSS.1001118796.EAIaIQobChMIzrKpz9mO8AIVEFVgCh1HRgG9EAAYASAAEgL-rPD_BwE
>)し、日弁連中小企業法律相談センターのひまわりホットダイヤルでは、中小企業向け法律相談のための弁護士との面談を予約できます(< https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/index.html>)。
3.弁護士を利用する場合の留意点
日本弁護士連合会が定める弁護士職務基本規程(「基本規程」)では、弁護士は、受任に際し、事件の見通し・処理方法・弁護士報酬費用について説明し、委任契約書を締結し、複数の依頼者間で利害対立が生じるおそれがある場合には辞任の可能性その他不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならないと規定しています。従って、弁護士を利用する場合には、事件の見通し・処理方法・弁護士報酬費用について納得のいく説明を弁護士に求めるべきです。依頼者が複数であるのに利害対立のおそれについて何ら説明をしない弁護士は注意すべきでしょう。
基本規程は、弁護士は、速やかに着手し遅滞なく処理しなければならず、必要に応じ、依頼者に対し、事件の経過及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しながら事件の処理を進めなければならないと規定しています。従って、弁護士に対しては、迅速な事件処理と必要に応じた事件の経緯報告・協議を求めるべきです。
基本規程は、弁護士は、委任の終了に際し、事件処理の状況・結果に関して必要に応じ法的助言を付して依頼者に説明し、金銭を清算した上で預かり金・預かり品を返還しなければならないと規定しています。従って、委任が終了した場合は、弁護士に対し、事件処理の状況・結果についての説明と預かり金・預かり品の返還を求めるべきです。
4.まとめ
弁護士と無縁であることが望ましいというのが一般的な考え方であるかどうかはさておき、紛争予防や紛争解決のため、弁護士を上手に使っていただきたいと思います。