労務管理のチェックポイント
1 雇入に際して労働条件を労働者に明示していますか?
使用者は、労働契約締結に際して、以下の事項を労働者に明示しなければなりません。①ないし⑥(昇給を除く)については書面の交付(労働者が希望すればファクシミリ又は電子メールも可)で行う必要があります。⑦以下は使用者が定める場合に限ります(労働基準法15条1項)。
①契約期間、②期間雇用契約の更新基準、③就業場所及び従事すべき業務、④始業終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、シフト制をとる場合の就業時転換、⑤賃金(退職手当及び臨時の賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、締切り時期、支払時期、昇給、⑥退職(解雇事由を含む)、⑦退職手当支給対象労働者、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払時期、⑧臨時の賃金(退職手当を除く)、賞与、労働基準法施行規則8条に定める精勤手当、勤続手当、奨励加給又は能率手当、最低賃金、⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品等、⑩安全衛生、⑪職業訓練、⑫災害補償及び業務外傷病扶助、⑬表彰制裁、⑭休職
2 税金・社会保険料以外を労使協定によらずに賃金から控除していませんか?
税金・社会保険料のような法律に基づく場合を除き、(例えば社内預金・組合費・社宅費等を労働者に支払ってもらう目的で)賃金の一部を控除して支払うためには、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)との労使協定が必要になります(労働基準法24条1項)。
3 36協定を締結して労働基準監督署に届け出ていますか?
1日8時間又は週40時間(休憩時間を除く)を超えて労働させ又は法定休日(週1日又は4週で4日)に労働させるためには、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)との労使協定(いわゆる36協定)を締結して労働基準監督署に届け出る必要があります。「労働者」には管理職や非正規労働者を含みますが、管理職は「代表者」にはなれません(労働基準法36条1項)。
4 管理職にも深夜割増賃金を支払っていますか?
①法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働には25%(法定外休日労働と合わせて月60時間を超える部分は50%)、②休日労働には35%、③深夜労働には25%の割増賃金を支払う必要があります。就業規則でこれより労働者に有利な規定(例えば1日7時間を超える労働について割増賃金を支払う規定)がある場合はそれに従って支払う必要があります。月60時間を超える部分が50%という規定(労使協定により割増賃金の引上げ分の支払に代えて有給の休暇を付与することも可能)は中小企業には2023年4月から適用されます。管理監督者については、超過労働と休日労働に対する割増賃金の支払は不要ですが、深夜労働に対する割増賃金の支払は必要です(労働基準法37条1項、3項、4項)。
5 年次有給休暇を年5日取得させていますか?
年次有給休暇が10日以上付与されている労働者については、年間最低5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。但し、労働者が申請して取得した年次有給休暇及び事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)との労使協定に基づき取得した年次有給休暇の日数は上記5日から除かれます。時間単位の年次有給休暇を付与するためには、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)との労使協定が必要になります(労働基準法39条7項、4項)。
6 就業規則を労働基準監督署に届け出ていますか?
常時10人以上の労働者(非正規労働者を含む)を使用する使用者は、就業規則を定め、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴取した上で、労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法89条、90条1項)。
7 非正規労働者の待遇と正規労働者の待遇との相違は合理的ですか?
短時間労働者(パート・アルバイト等)・有期雇用労働者の待遇と通常の労働者の待遇との間で、①業務の内容及び責任の程度(「職務の内容」)、②職務の内容及び配置の変更の範囲並びに③その他の事情のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切なものを考慮して不合理と認められる相違を設けることが禁止されます(「均衡待遇」)。また、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間労働者・有期雇用労働者について、雇用の全期間を通じて職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる場合は、短時間労働者・有期雇用労働者であることを理由とする待遇の差別的取扱が禁止されます(「均等待遇」)(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、9条)。
均等待遇及び均衡待遇についての考え方については、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(厚生労働省告示430号)(https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000478586.pdf
)が参考になります。
8 医師による面接指導のために労働時間を適切に管理していますか?
週40時間を超える労働時間が月80時間を超え且つ疲労の蓄積が認められる労働者(新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については週40時間を超える労働時間が月100時間を超える労働者)については医師による面接指導を行い、その結果を記録しておく必要があります。必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換(新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については職務内容の変更、有給休暇の付与)、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずる必要があり、かかる医師による面接指導を実施するため、労働者の労働時間の状況を把握する必要があります。上記以外の労働者で健康への配慮が必要なものについても、医師による面接指導又はこれに準ずる措置を講ずるよう努める必要があります(労働安全衛生法66条の8以下)。
9 有期労働契約の無期労働契約への転換に備えていますか?
2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が更新されて通算5年を超える場合、労働者が現在の有期労働契約の契約期間満了までに申し込むことにより同一条件(契約期間を除く)で無期労働契約に転換されます。一定の空白期間(6ヶ月。直前の契約期間が1年未満の場合は原則としてその2分の1の期間)があると通算5年の期間はリセットされます。また、①反復更新されて契約更新しないことが無期労働契約の終了と社会通念上同視できる場合や②労働者が契約更新を期待することについて合理的理由がある場合は、有期労働契約の更新を拒絶できません(労働契約法18条、19条)。
10 セクハラ対策、マタハラ対策、パワハラ対策を行なっていますか?
職場におけるセクシュアルハラスメント、セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントを防止するため、①事業主の方針の明確化及びその周知啓発、②相談に適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速且つ適切な対応(マタハラについては職場におけるマタニティハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置を含む)等の雇用管理上必要な措置を講じる必要があります(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条、11条の3、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律30条の2)。
セクシュアルハラスメント、セクシュアルハラスメント及びパワーハラスメントの定義及び関連する政府の指針は以下の通りです。労働者がハラスメントの相談を行ったこと又は事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されます。
・セクシュアルハラスメント:①対価型:職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること及び②環境型:かかる性的な言動により労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号))
(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf)
・マタニティハラスメント:職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前休業を請求したこと、産後休業をしたこと等に関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成28 年厚生労働省告示第312 号))
(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605635.pdf)
・パワーハラスメント:職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号))(中小事業主については令和4年3月31日までは努力義務)
(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf)
11 派遣労働者への対応は適切に行っていますか?
派遣労働者の受け入れは、原則として、派遣可能期間(事業所単位で3年)に限られます。但し、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)の意見聴取手続を行うことにより派遣可能期間をさらに3年延長できます(その後も同様)。この場合でも、原則として、事業所における同一の組織単位で同一の派遣労働者を3年を超えて継続して受け入れることはできません(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の2、40条の3)。
事業所の組織単位の同一の業務に継続して1年以上有期雇用派遣労働者を受け入れた場合、派遣期間終了以後に当該同一の業務に従事させる労働者を雇い入れるときは、原則として、当該有期雇用派遣労働者を遅滞なく雇い入れるよう努める必要があります(同法40条の4)。
事業所において1年以上継続して同一の派遣労働者を受け入れた場合、当該事業所において労働に従事する通常の労働者の募集を行うときは、当該事業所に掲示する等の措置により、募集事項を当該派遣労働者に周知する必要があります。同一の組織単位の業務に継続して3年以上受け入れる見込みのある有期雇用派遣労働者については、原則として、「通常の」労働者の募集に限りません(同法40条の5)。
派遣労働者を派遣禁止業務に従事させた場合、無許可の労働者派遣事業者から労働者派遣を受けた場合、派遣可能期間(組織単位の上限期間を含む)を超えて労働者派遣を受けた場合、偽装請負を受けた場合は、善意無過失の場合を除き、その時点で、派遣労働者に対して同一の労働条件での労働契約の申込みをしたものと看做されます。かかる違法行為の終了から1年間は当該申込みを撤回することはできません(同法40条の6)。
以上のほか、派遣労働者から苦情処理、同種業務に従事する労働者の業務遂行に必要な能力付与のための教育訓練の実施(派遣元から求めがある場合)、福利厚生施設の利用機会付与の義務があります(同法40条)。
12 子の看護休暇及び介護休暇を時間単位で取得させていますか?
小学校就学始期に達するまでの子を養育する労働者は1年につき5日(子が2日以上の場合は10日)まで子の看護休暇を取得でき、要介護状態の対象家族の世話をする労働者は1年につき5日(要介護対象家族は2人以上の場合は10日)まで介護休暇を取得できますが、時間単位での取得もできます(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律16条の2、16条の5)。
13 高齢者雇用対策を行っていますか?
定年(65歳未満)の定めをしている場合は、65歳までの定年の引き上げ、65歳までの継続雇用制度(希望すれば定年後も雇用する制度)の導入又は定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じる必要があります。また、65歳以上70歳未満の定年の定めをしている場合又は70歳未満までの継続雇用制度を導入している場合は、①70歳までの定年の引き上げ、②70歳までの継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、④創業支援等措置(高年齢者との委託契約、関連する社会貢献事業と高年齢者間の委託契約等)のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条、10条の2)。創業支援等措置は事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)の同意を得る必要があります。
(*)関係書類の書式については、厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー」(< https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/
>)や東京労働局の「様式集」(< https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/youshikishu_zenkoku.html
>)が参考になります。