カーボンゼロⅤ..プラスチックは地球に優しいのかも

プラスチックは主として化石燃料から作られていることは皆さんご存じだと思います。ただ、その主たるものは原油を使いやすくするためにガソリン、灯油、軽油、重油などに分離精製する際に出てくるナフサと原油・天然ガスを採掘する際に随伴して出てくるエタン(C₂H₆)で、いずれもエネルギー産業としては活用しづらくゴミとも言えるものです。他の原料にしても、プラスチックの原料とすることを目的として作られるものではほとんどなく、エネルギー産業を中心とする他の産業で副生してくるものです。金属・ガラス・紙など他の素材は、それを作るための専用の原料(鉄鉱石、珪砂、石灰石、木等)があることを考えると、これはプラスチックの他の素材と違う大きな特徴と言えます。

ところで、プラスチックはここまで幅広く使用されるようになったのでしょう。私が子供のころのおもちゃは木製もしくはブリキ製で、鉄道模型も金属製で比較的高価でしたので、今のようにプラスチック製の鉄道模型を多くの人が入手し易くなっているのには隔世の感があります。現在のようなプラスチック利用の拡がりには、軽い、加工がし易い等様々な機能が考えられますが、忘れてはならないのは絶対値として「安いという機能」が大きく貢献していることは間違いありません。100円shopでのプラスチック製品の品揃え、またこの低価格を実現している様々な製品の包装にまで幅広く利用されていることを見れば、皆さんも実感されていると思います。勿論「安いという機能」だけでは意味がありませんが、加工し易いこと等から実現できる他の機能(使いやすいとか)を合わせもつことで強い機能となる潜在力があります。一方で、会社の経営計画で、「汎用から機能へのシフト」という言葉をよく目にしますが、多くの人に受け入れられている機能があるからこそ汎用化しているはずですので矛盾している言葉です。汎用化するには、「安いという機能」が大きく貢献しているはずですが、そのことを儲からないことと勘違いして自らにその機能を生かす能力がないことに気が付いていないのでしょうか。政府の産業政策やアナリストレポート等にもよく見られるので蔓延しているとも言えますので、第三者受けするためにその言葉を使用するのは仕方ありませんが、「安いという機能」を忘れないようにしてください。消費者として、その機能を大いに実感しているはずなのに仕事となると特に大会社・官庁にいると忘れてしまうのは不思議でなりませんが。

さて、このプラスチックの安さを実現している要因としては、様々な用途に同一のプラスチックが加工され利用される(ポリバケツ用と自動車のバンパーカバー用も同一工程で生産)ことでして大量に生産することが可能だということもありますが、前述したような他産業で廃棄されていたものまで含めて副生物を活用することで原料の低価格化を実現していることも大きな要因でしょう。炭素(C)を多く含む副生物が使われており、ナフサ中心から原油随伴エタン、シェールオイル・ガス随伴エタンへと、需要の拡大も相まって安く調達できるものが幅広く利用されています。コロナ禍前に中国内陸部では、大量に埋蔵されていて安価であった石炭からプラスチックを生産することがブームとなりました。この場合は、原料として使用することを目的として石炭を採掘していますが、需要地へ運搬するコストを負担すると逆ザヤとなるほど石炭が安価に販売されていたことによるものでしょう。 今回は、プラスチック産業がある意味リサイクル事業であることを見てきましたが、次回は、プラスチック使用量削減と温室効果ガス削減について考えてみます。

今回は、プラスチックの使用量削減と温室効果ガスの関係について考えてみたいと思います。

プラスチックは、廃棄物として焼却すれば二酸化炭素(C)が発生しますし、製造過程でも多量のエネルギーを使用しているのは事実です。ただ、前回説明したように、プラスチックは他の産業の副生物から作られていますので、使用量の削減が製造過程でのエネルギー使用量削減以外温室効果ガスの削減に直結することはありません。原料の副生物は、プラスチックに使われなければエネルギーとして利用されるか廃棄されるかでしょうが、いずれにしても大部分は燃焼することで大気中に温室効果ガスとして放出されると思われます。つまり、レジ袋や使い捨てストローを使用せずゴミとして焼却されなくなっても、代わりに産油国でプラスチック原料が燃やされるというようなことが起きるということです。例え他のエネルギーの代替として利用できる場合も現状より非効率となることは想像に難くありません。プラスチックとなれば炭素(C)を固定化しますので、利用方法によっては長期的に温室効果ガスの排出を抑制できることを考えると逆効果と言えるかもしれません。また、製造過程でのエネルギーの使用量削減も温室効果ガス削減に一定の効果がありますが、他の素材に代替してしまっては代替素材の製造過程でのエネルギー使用量増加でその効果は相殺されてしまいます。

ただ、ここまでの話は地球規模で考えた場合です。米国を除く欧州・日本などの先進国は、プラスチックを原料・素材・製品等様々な形で輸入していますので、プラスチック使用量の削減は自国の温室効果ガスの排出削減に直結させることが出来ます。これらの国が地球温暖化防止を主導しているメンバーですが、自国の状況を考えてプラスチックの使用量削減がプラスチックそのものに含まれる炭素(C)分のすべてが温室効果ガス削減に繋がるようなイメージを持っているとすると、その地球規模での効果には裏切られることになりかねません。

無償提供されていた衣類持ち帰り用のプラ袋を提供しないゴルフ場も増えていますが、その際も本音はコスト削減のためと思われますが地球環境に貢献するためとよく書かれているように、プラスチックが地球温暖化に対する悪玉のように言われる昨今ですが、リユース・リサイクルも含め更に効果的に利用してくことは必要ではあってもそのものが直接環境悪化をもたらしているのではありません。それどころか少なくとも軽量であることだけで、あらゆるものの移動の際のエネルギー使用量の削減に貢献していることは間違いありません。今後、利用価値の低い物質を利用価値の高い物質に生まれ変わらせる化学の本領を更に発揮して、地球温暖化防止の観点からみた最大の廃棄物である二酸化炭素(C)を原料とすることで、イメージを一新し有用な素材である面を評価されていくことが前面に出てくることを願っています。

ところで、少し脇道にそれますが、最近テレビCM、ポスターで見かけるようになった国連世界食糧計画(WFP)の「今日を生きるための食料、8億人待ち」という呼びかけがあるのは、ご存じでしょうか。2021年時点で、飢餓に苦しむ人が8億2,800万人、中度および重度の食料不安(栄養失調に苦しむ人)は約23億人いると発表されています(世界人口 約78億人)。地球温暖化より喫緊な課題とも思えるこの問題にもプラスチックは食料の保存・物流等で大きく貢献しています。

最後に、エネルギーの使用量削減は勿論のことですが、プラスチックも含め様々な素材の使用量をトータルとして削減していくことは非常に大切なことですので、地道に皆さんで取り組んでいきましょう。