改正土地所有法制

東日本大震災後の復興事業において事業対象地内に所有者不明土地が存在することが大きな障害となりましたが、このような所有者不明土地は410万ヘクタール(全国の国土の20%、九州全土の面積以上)を占め、2040年には720万ヘクタール(北海道全土の面積に迫る水準)まで増加するおそれがあると報告されています。そこで、所有者不明土地問題の発生予防と所有者不明土地の利用促進のため、民法及び不動産登記法が改正されたほか、土地所有権の国庫への帰属を認める制度(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律:2023年4月27日施行)が創設されました。以下では民法に限定して改正内容を解説します。施行日は2023年4月1日です。

1.相隣関係 ①隣地使用権 ②竹木の枝の切除等 ③設備設置権及び設備使用権 2.共有等 ①共有物を使用する共有者と他の共有者との関係 ②共有物の変更 ③共有物の管理 ④裁判による共有物の分割 ⑤相続財産に属する共有物の分割の特則 ⑥所在等不明共有者の持分の譲渡 3.所有者不明土地建物・管理不全土地建物の管理命令 ①所有者不明土地管理命令 ②所有者不明建物管理命令 ③管理不全土地管理命令 ④管理不全建物管理命令 4.相続等 ①相続財産等の管理 ②相続を放棄した者による管理 ③不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消 ④相続財産の清算 ⑤遺産分割に関する見直し

1.相隣関係

①隣地使用権(209条)

・改正前は境界又はその付近において障壁・建物を築造・修繕するため必要な範囲で隣地の使用を請求できるとされていました。改正後は、「使用を請求できる」から「使用することができる」と使用権であることが明確になりました。また、使用目的は、①障壁・建物「その他の工作物」の築造・「収去」・修繕、②境界標の調査又は境界に関する測量、③233条3項による枝の切取りと拡大されました。住居については、承諾(裁判手続で承諾に代わる判決は不可)を得なければ立ち入ることができないことには変わりはありません(209条1項但書)。なお、隣地使用権の主体は、土地所有者及び地上権者(民法267条)のほか、土地賃借人にも267条を類推適用すべきとする有力説及び裁判例があります。

・隣地使用の日時、場所及び方法は隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければならず(209条2項)、隣地を使用する者は予め隣地使用の目的、日時、場所及び方法を隣地所有者及び隣地使用者に通知しなければなりません(209条3項)。但し、事前の通知が困難な場合は使用開始後遅滞なく通知することでも足ります(同項但書)。

・隣地使用により生じた損害の補償(及び使用料相当額の償還)を請求できる主体が隣地所有者及び隣地使用者であることが明確になりました(209条4項)。

②竹木の枝の切除等(233条)

・改正前は「隣地の竹木の枝が境界線を越えるときはその竹木の所有者にその枝を切除させることができる」とされていましたが、①催告後相当期間内に竹木所有者が切除しない場合、②竹木所有者又はその所在を知ることができない場合及び③急迫の事情がある場合は、土地所有者が自ら枝を切除できることになりました(233条3項)。

・竹木が数人の共有に属する場合は、各共有者が枝を切除できることが明確になりました(233条2項)。

・隣地の竹木の根が境界を越えている場合には土地所有者が自ら根を切除できる点は変わりません(233条4項、改正前2項)。

③設備設置権及び設備使用権(213条の2、213条の3)(新設)

・土地所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用しなければ電気・ガス・水道の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない場合は、継続的給付を受けるために必要な範囲で、他の土地に設備を設置し又は他人が所有する設備を使用することができます(213条の2第1項)。

・設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人の所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならず(213条の2第2項)、設備を設置又は使用する者は予めその目的、場所及び方法を他の土地の所有者又は設備の所有者及び他の土地の使用者に通知しなければなりません(213条の2第3項)。通知の相手方の所在が不明であっても事前通知が必要です。

・設備を設置又は使用する者は、設備の設置又は使用のために当該土地又は当該設備のある土地を使用できますが、隣地使用に関する209条(1項但書及び2項ないし4項)が準用されます。

・設備設置者は他の土地の損害につき、設備使用者は設備の使用を開始するために生じた損害につき、それぞれ償金を支払わなければなりません(213条の2第5項、6項)。

・分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けられない土地が生じた場合は、当該土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができ、他の土地に対する償金を支払うことを要しません(213条の3第1項)。土地の所有者がその土地の一部を譲渡した場合も同様です(同条2項)。

2.共有等

①共有物を使用する共有者と他の共有者との関係

・共有物を使用する共有者は、別段の合意のある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うこと、共有者は共有物の使用について善管注意義務があること明確化されました(249条2項、3項)。

・相続財産について共有に関する規定を準用する場合は、法定相続分(又は指定相続分)により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とされます(898条2項)。

②共有物の変更

・改正前は「各共有者は他の共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることができない」とされていましたが、変更の意義及び範囲が明確ではありませんでした。改正後は、形状又は効用の著しい変更を伴わない変更(「軽微な変更」)については持分価格の過半数の同意が必要、軽微でない変更については他の共有者全員の同意が必要という規律になりました(251条1項、252条1項)。

・他の共有者又はその所在が不明な場合は、その他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることもできます(251条2項)。

③共有物の管理

・共有物を使用する共有者がいる場合であっても、各共有者の持分価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定することができます(252条1項)。但し、共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼす場合はその承諾を得る必要があります(252条3項)。

・他の共有者又はその所在が不明な場合及び他の共有者が相当期間内に共有物の管理に関する事項について賛否を明らかにしない場合は、その他の共有者の持分価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定することができる旨の裁判をすることもできます(252条2項)。

・共有者は、持分価格の過半数による決定により、一定の期間(山林10年、他の土地5年、建物3年、動産6ヶ月)内の賃借権その他の使用収益を目的とする権利(地上権、地役権等)を設定することができます(252条4項)。

・共有者は、持分価格の過半数の決定により共有物の管理者を選任・解任することができます(252条1項)。共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為を行うことができ(共有物の軽微でない変更については共有者全員の同意が必要)(252条の2第1項)、共有者又はその所在が不明な場合は他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができ(252条の2第2項)、共有者が決定した共有物の管理に関する事項に従って職務を行わなければならず(252条の2第3項)、これに違反した管理者の行為は共有者に対して効力を生じません(但し、善意の第三者には対抗できません。)(252条2第4項)。

④裁判による共有物の分割

・共有物の分割について協議が整わない場合のほか、協議不能の場合も共有物分割を裁判所に請求できるようになりました(258条1項)。

・裁判による共有物の分割方法として、競売のほか、現物分割の方法及び賠償分割の方法(共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法)が明文化されました(258条2項)。

・裁判所は、共有物分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができます(258条4項)。

⑤相続財産に属する共有物の分割の特則

・共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で遺産分割をすべきときは、共有物分割訴訟による分割はできないのが原則です(258条の2第1項)。これは判例を確認する規定です。

・この特則として、共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始から10年を経過したときは、当該共有物の持分について遺産分割請求があり相続人が共有物分割訴訟による分割に異議(裁判所からの通知後2ヶ月以内に限る。)を申し出た場合を除き、当該共有物の持分について共有物分割訴訟による分割ができます(258条の2第2項、3項)。

⑤所在等不明共有者の持分の取得(新設)

・不動産が複数の共有に属する場合において、他の共有者又はその所在が不明であるときは、共有者は、当該他の共有者(「所在等不明共有者」)の持分取得の裁判を申し立てることができます(262条の2第1項)。申立をした共有者が複数の場合は、各共有持分割合に応じて按分した持分を取得することになります。申立者は裁判所が定める金額を供託する必要があります(非訟事件訴訟法87条5項)。

・所在等不明共有者の持分に係る不動産についての共有物分割訴訟又は遺産分割調停・審判が係属していてその他の共有者が異議を申し立てた場合、並びに所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合において相続開始から10年を経過していない場合は、所在等不明者の持分取得の裁判をすることができません(262条の2第2項、第3項)。

・所在等不明共有者は、持分を取得した共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払い請求権を取得します(262条の2第4項)。

・所有権以外の不動産の使用収益権が数人の共有に属する場合も同様です(262条の2第5項)。

⑥所在等不明共有者の持分の譲渡(新設)

・所在等不明共有者がいる場合であっても共有物全体を売却できるようにするための制度が新設されました。

・不動産が複数の共有に属する場合において、所在等不明共有者がいるときは、共有者は、所在等不明共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができます(262条の3第1項)。

・所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合において相続開始から10年を経過していない場合は、所在等不明者の持分譲渡の裁判をすることができません(262条の3第2項)。

・所在等不明共有者は、持分を譲渡した共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じ按分した額の支払い請求権を取得します(262条の3第3項)。

・所有権以外の不動産の使用収益権が数人の共有に属する場合も同様です(262条の3第4項)。

3.所有者不明土地建物・管理不全土地建物の管理命令

①所有者不明土地管理命令

・裁判所は、所有者又はその所在が不明の土地(土地が複数の共有に属する場合は共有者又はその所在が不明な土地の共有持分)について必要があると認める場合は、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分(「所有者不明土地管理命令」)をすることができます(264条の2第1項)。裁判所は、所有者不明土地管理命令において所有者不明土地管理人を選任することとされています(264条の2第4項)。再度の所有者不明土地管理命令も可能です(264条の2第3項)。

・所有者不明土地管理命令の効力は、その対象とされた土地(共有持分の場合は共有物である土地)にある動産に及びます(264条の2第2項)。第三者の有する動産には及びません。

・所有者不明土地管理命令の対象である土地又は共有持分、同命令の効力が及ぶ動産、並びにその管理処分等により所有者不明土地管理人が得た財産(「所有者不明土地等」)は、所有者不明土地管理人に専属します(264条の3第1項)。所有者不明土地管理人選任が嘱託登記(非訟事件訴訟法90条6項)されることにより取引の安全が図られます。

・所有者不明土地管理人の権限は、保存行為及び(所有者不明土地等の性質を変えない範囲内での)利用・改良を目的とする行為に限られ、この範囲を超える行為を行うためには裁判所の許可が必要です(但し、許可がないことは善意の第三者には対抗できません。)(264条の3第2項)。所有者不明土地に関する訴えについては、所有者不明土地管理人が原告又は被告になります(264条の4)。所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(共有持分を有する者を含む。)に対する善管注意義務を負い、複数の共有持分が所有者不明土地管理命令の対象となった場合は当該共有持分を有する者全員のために誠実公平に権限を行為する義務を負います(264条の5)。

・所有者不明土地管理人の報酬及び費用は、所有者不明土地等の所有者(共有持分を有する者を含む。)が負担します(264条の7)。

②所有者不明建物管理命令

・裁判所は、所有者又はその所在が不明の建物(建物が複数の共有に属する場合は共有者又はその所在が不明な建物の共有持分)について必要があると認める場合は、利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として所有者不明建物管理人による管理を命ずる処分(「所有者不明建物管理命令」)をすることができます(264条の8第1項)。裁判所は、所有者不明建物管理命令において所有者不明建物管理人を選任することとされています(264条の8第4項)。再度の所有者不明建物管理命令も可能です(264条の8第3項)。

・所有者不明建物管理命令の効力は、その対象とされた建物(共有持分の場合は共有物である建物)にある動産及び当該建物の所有又は共有に必要な建物敷地に関する賃借権等に及びます(264条の8第2項)。第三者の有する動産及び賃借権等には及びません。

・264条の3ないし264条の7の規定は、所有者不明建物管理命令に準用されます(264条の8第5項)。

③管理不全土地管理命令

・裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され又は侵害されるおそれがある場合において必要があると認める場合は、利害関係人の請求により、当該土地を対象として管理不全土地管理人による管理を命ずる処分(「管理不全土地管理命令」)をすることができます(264条の9第1項)。裁判所は、管理不全土地管理命令において管理不全土地管理人を選任することとされています(264条の9第3項)。

・管理不全土地管理命令の効力は、その対象とされた土地にある動産に及びます(264条の9第2項)。第三者の有する動産には及びません。

・管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象である土地又は共有持分、同命令の効力が及ぶ動産、並びにその管理処分等により管理不全土地管理人が得た財産(「管理不全土地等」)の管理処分権限を有し、保存行為及び(管理不全土地等の性質を変えない範囲内での)利用・改良を目的とする行為のみ行うことができ、この範囲を超える行為を行うためには裁判所の許可(対象土地の処分には所有者の同意も)が必要です(但し、許可がないことを善意の第三者に対抗できません。)(264条の10)。管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者に対する善管注意義務を負い、複数の共有持分が管理不全土地管理命令の対象となった場合は当該共有持分を有する者全員のために誠実公平に権限を行為する義務を負います(264条の11)。

・管理不全土地管理人の報酬及び費用は、管理不全土地等の所有者が負担します(264条の13)。

④管理不全建物管理命令

・裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され又は侵害されるおそれがある場合において必要があると認める場合は、利害関係人の請求により、当該建物を対象として管理不全建物管理人による管理を命ずる処分(「管理不全建物管理命令」)をすることができます(264条の14第1項)。裁判所は、管理不全建物管理命令において管理不全建物管理人を選任することとされています(264条の14第3項)。

・管理不全建物管理命令の効力は、その対象とされた建物にある動産及び当該建物の所有に必要な建物敷地に関する賃借権等に及びます(264条の14第2項)。第三者の有する動産及び賃借権等には及びません。

・264条の11ないし264条の13の規定は、管理不全建物管理命令に準用されます(264条の14第4項)。

4.相続等

①相続財産等の管理

・改正前の相続財産の管理制度としては、①相続人の存否不明の場合における清算を目的とする相続財産管理制度(951条以下)と②相続の承認・放棄までの熟慮期間中(改正前918条2項)、限定承認後又は相続の放棄後次順位相続による相続財産開始前における相続財産管理制度(保存のための管理制度)(改正前918条2項、926条」2項、936条3項、940条1項)がありましたが、①については手続が重く費用がかかる、②については熟慮期間経過後遺産分割前の暫定的な共有状態にある相続財産の管理に利用できないといった難点がありました。改正により、相続人不明の場合や相続財産が熟慮期間経過後の暫定的な共有状態にある場合を含めて保存のための管理制度に一本化されました。

・家庭裁判所は、利害関係に又は検察官の請求により、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができることになりました(897条の2第1項)。但し、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が複数ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は952条1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りではありません。

②相続を放棄した者による管理

・改正前は、相続の放棄をした者は次順位相続人が相続財産の管理を開始するまでの間自己の財産におけると同一の注意義務をもって相続財産を管理しなければならないとされていました(940条)ところ、管理義務の内容についての解釈上不明な点が改正により明確になりました。

・相続の放棄をした者は、放棄時に相続財産に属する財産を現に占有している場合は、相続人又は952条1項の相続財産の清算人に当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけると同一の注意義務をもって当該財産を保存しなければならないこととなりました(940条1項)。

③不在者財産管理制度及び相続財産管理制度における供託等及び取消

・改正前は、不在者財産管理制度において供託の明文がなく供託が不在者財産管理人の選任取消事由として規定されていなかったのですが、改正により、供託が不在者財産管理人の選任取消事由に追加され、また改正により一本化された保存のための相続財産管理制度にも同様の規律が設けられました。

・家庭裁判所が選任した管理人は、不在者の財産の管理処分その他の事由により生じた金銭を供託することができ(家事事件手続法146条の2第1項)、家庭裁判所は、管理すべき財産の全部が供託された等の場合は、不在者、管理人又は利害関係人の申立により又は職権で管理人の選任その他の不在者の財産に関する処分の取り消しの審判をしなければならないことになりました(家事事件手続法147条)。相続財産の保存又は管理に関する処分の審判事件についても、上記規定が準用されます(家事事件手続法190条の2第2項)。

④相続財産の清算

・改正により一本化された保存のための相続財産管理人と清算を目的とする「相続財産の管理人」を区別するため、後者の名称が「相続財産の清算人」に改められました(936条1項、952条ないし956条)。

・相続人不明の場合の相続財産管理人について、「相続人の清算人」への名称変更に加え、選任公告期間及び相続人捜索公告期間の短縮と事務手続の合理化がされました(952条2項、957条1項等)。

⑤遺産分割に関する見直し

・遺産分割促進のため、903条乃至904条の2(特別受益・寄与分)の規定は、相続開始から10年を経過した後にする遺産分割については適用しないこととなりました(904条の3)。但し、①相続開始から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合及び②相続開始から始まる10年の期間満了前6ヶ月以内間に遺産分割請求をすることができない事情が相続人にあった場合において、その事由消滅時から6ヶ月経過前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をした場合は、この限りではありません。

・上記改正により特別受益・寄与分の主張期間が制限される相続人を保護するため、遺産分割の調停又は審判の申立の取り下げは、相続開始から10年を経過した後は、相手方の同意を得なければその効力を生じないこととなりました(家事事件手続法199条2項、273条2項、82条4項)。相続開始後10年を経過後に申し立てられた遺産分割の調停又は審判についても同様です。

・共同相続人は、5年以内の期間を定めて遺産の全部又は一部の分割をしない旨の契約をすることができ、5年以内の期間を定めて更新することもできますが、その期間の終期は相続開始から10年を超えることができません(908条2項、3項)。審判による遺産分割禁止期間についても同様も規律となりました(908条4項。5項)。この期間制限は、特別受益・寄与分の主張期間の制限と整合させるため趣旨です。