カーボンゼロⅡ...メタン・天然ガス

前シリーズでアンモニア(NH₃)を取り上げましたが、それ以降も温室効果ガス削減に資する燃料としては益々話題に上るようになりました。その際、アンモニア燃焼に際して発生する亜酸化窒素(N₂O) …二酸化炭素(CO₂)に対して約200倍の温室効果がある…について触れましたが、CO₂以外の温室効果ガスということで、今回は、直近のウクライナ情勢や昨年のCOP26での新しい動きを受けて、CO₂に次ぐ温室効果ガスであるメタン(CH₄)について触れていきます。これら3種で、水蒸気(H2O)を除く温室効果ガスの大部分を占めています。因みに、CO₂だけだと4分の3程度にしかなりません。

メタンは、CO₂の20倍程度の温室効果をもたらすガスとしての一面と、他の化石燃料に比べて炭素(C)が少なく、CO₂発生を相対的に抑える燃料としての一面との両面から注目されています。ウクライナ情勢でロシアから欧州への供給が懸念されている天然ガス(NG)の大部分の成分はメタンですし、その代替として欧州が調達を増やそうとしている液化天然ガス(LNG)も同様です。ドイツ等では、地球温暖化対策としての国内炭での石炭火力発電の削減、東日本大震災を受けての原子力発電の削減を進める中で、主としてロシアからのパイプラインを利用した天然ガスによる発電を再生可能エネルギーと並んで急速に増加させました。その結果、ロシアに社会基盤を依存することとなっています。現在を生き抜くためのエネルギー安全保障と将来の生存可能性を高めるためのカーボンゼロとをどうバランスをとって運営していくかのジレンマとも言えます。ビジネスでの世界でも、将来のために投資したいが、投資すると現時点でその負担をどうするか不安になるのと同様、二者択一は出来ず、正解はありませんが、そのバランスを常に念頭に置いて確認・調整していく必要があります。

前段では、時事問題に則してメタンの地球温暖化に貢献する側面の話をしましたが、ここからは、温室効果ガスとしての側面について触れさせていただきます。昨年のCOP26の際に、アメリカとEUの呼びかけで97の国と地域によってメタンを削減する国際的枠組みが発足し、2030年までに排出量を30%削減することを目標に掲げることが合意されました。残念ながら、排出量の大きい中国、インド、ロシア…因みにこの3カ国の排出量の合計は日本の50倍以上…は参加していませんが、同時期にアメリカと中国とでメタン排出削減に向けての協力についての合意もされています。このことは、カーボンゼロとかカーボンニュートラルとか目標を掲げる中で、概念としては勿論すべての温室効果ガスが対象としていても実質的には計測・対策が比較的容易な全体の4分の3しか占めないCO₂のみを対象としており、メタンとか亜酸化窒素は一旦削減することのみに取り組んでいくことを示しているかもしれません。しかし、例えそうであったとしても現実的な取り組みとしてまず実行可能な行動をとることは重要です。勿論最終的な目標に反することはあってはなりませんが、すべてが整ってから行動しようとすれば何もしない結果ともなりかねませんし、少なくとも目標達成が遅れる可能性が高くなります。ビジネスでも、分析の進捗を確認しながらどのタイミングで行動をとるか、そのバランスを確認した上でタイミングを判断していくことは非常に重要なことです。全ての検討が終わってから行動して、後れをとった例も多くあるでしょう。

今回はここまでとし、次回は少し見方を変えて、メタンの削減がなぜ難しいか、から考えてみたいと思います。

(ここから後編)

今回は前回を踏まえた上で、メタンの削減がなぜ難しいか、考えてみたいと思います。測定そのものが困難なため正確な割合が特定されているとは言い難いですが、発生源として一番多いのは自然由来で、これで半分程度といわれています。日本でも房総半島では地面から発生しているメタンを集めて家庭用に利用している地域もありますし、CO₂の吸収源として期待されている森林もメタンは吸収も発生もしており、条件次第では発生源と言われています。また、地球温暖化が進むことで、シベリア等の永久凍土(ツンドラ)が解けて閉じ込められているメタンが放出されることも話題になったりもします。これらの発生源に対して、発生量の把握もですが、効果的な削減を実現する方策が十分見つかっていないのが実態でしょう。更に、その他の発生源としては、化石資源の採掘・消費によるもの、農畜産業によるもの、廃棄物からの発生の三つが主たるものであり、この4つでほぼ大部分です。原油採掘時の随伴ガス、天然ガス採掘時・消費時の漏洩等は、化石燃料の使用を削減することで減少させることができますが、農畜産業、廃棄物からの発生を減少させることは、他の問題とのコンフリクトを解決していく必要があり、カーボンゼロ以外への配慮も重要です。農畜産業では、よく牛のゲップが話題になりますが、水田からとか有機肥料からとかも発生します。牛を食べなければいいと問題ではなく、人間が食料を自然由来から摂取しようとする限り、ある程度必然的に発生します。地球温暖化対策も17の持続可能な開発目標(SDG‘s)における重要な課題ではありますが、これは、SDG’sの①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに に直結し、どう調整していくか難しい課題です。(尚、地球温暖化対策は主として⑬気候変動に具体的対策を に対応します)また、もう一つの廃棄物については、日本では大部分が焼却処理されていますのでメタンの発生量は限定的ですが、世界的には多くが埋立処理されており、それが自然界で分解されていく過程でメタンが発生しています。焼却処理すれば多くは解決しますがそのような整備をすることが現実的かどうか、また焼却するとほぼ同等のCO₂が発生する(温室効果という面では20分の1程度となりますが)ことも考慮に入れる必要があります。これらは、ビジネスでも直面する複数の課題を解決していくために、どのようなバランス感覚で取り組むか難しい対応に迫られているのと同様と言えるでしょう。

最後に、現状世界の地球温暖化対策を主導している欧州で欧州委員会から本年2月にEUタクソノミー(EUの持続可能な地球環境のための活動を推進する仕組み)に関して、原子力と並んで天然ガスがこれに資するものとされる興味深い発表が行われました。先に述べた二つの側面のうち、天然ガスは燃焼によりCO₂が発生しますが、他の化石燃料に比べてCO₂の発生を抑制する側面を重視したということでしょう。2050年に向けて最終的にどうするかはわかりませんが、理想・将来のあるべき姿と現実・現在の実態とのバランスを考えたうえで、足元のCO₂削減手段を幅広く確保するという現実的な対応を行ったと考えられます。ビジネスの世界でも、一つの目標(理想)を設定すると、それのみを考えるあまり身動きが取れなくこともありますので、そこに陥らないような行動をとっていくことは大切です。また、一つの事にわき目も振らずに邁進できることは少なく(勿論そうせざる得ない時もありますが)、バランスを考えていかねばならないことが多くあり、その局面局面で判断を求められます。また、判断することもですが、そもそもバランスを考えて判断しなければいけないことに気づくことの方が難しいという側面もあります。私たちとしては、皆さんの適確な判断を支援したいと考えていますので、ご相談いただければ気づきのキッカケも含めてサポートさせて頂きます。