改正消費者契約法
消費者契約法が、2018年改正の附帯決議に対応すべく改正されました。また、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(「消費者裁判手続特例法」)も、運用課題に対応すべく改正されました。以下では、改正点の概要をご説明します。
1.消費者契約法 ①取消権の拡充、②不当条項規制の拡大、③解約料の説明の努力義務、④事業者の努力義務の拡充、⑤その他 2.消費者裁判手続特例法 ①対象範囲の拡大、②和解の早期柔軟化、③消費者への情報提供方法の拡充、④特定適格消費者団体の負担軽減、⑤その他 |
1.消費者契約法(2023年6月1日施行)
①取消権の拡充
事業者が消費者契約締結の勧誘に際して困惑させることにより締結した消費者契約を消費者が取り消すことができる類型として、①勧誘することを告げずに退去困難な場所に同行して勧誘する場合、②威迫する言動を交えて消費者が勧誘を受ける場所から外部と連絡することを妨げる場合、③消費者契約の目的物の現状を変更して原状回復を著しく困難にする場合が追加されました(4条3項3号、4号、9号)。
②不当条項規制の拡大
事業者の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任(故意重過失によるものを除く。)の一部を免除する条項が、「事業者の軽過失による行為にのみ適用される」ことを明らかにしていない場合は無効とされました(8条3項)。これにより、例えば「軽過失の場合は○○円を上限として賠償します」といった形にする必要があります。
③解約料の説明の努力義務
事業者は、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定又は違約金を定める条項に基づいて損害賠償又は違約金の支払いを請求する場合において、消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定根拠の概要を説明するよう努める義務が定められました(9条2項)。
また、適格消費者団体が損害賠償の額の予定又は違約金の合算額が平均的な損害額(9条1項1号)を超えると疑う相当な理由があると判断して説明を求めた場合は、事業者は、正当な理由がある場合を除き、算定根拠を説明するよう努める義務が定められました(12条の4)。
④事業者の努力義務の拡充
事業者の努力義務として以下が追加されました。
・事業者が消費者契約締結を勧誘する際に、「事業者が知ることができた・・消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験」を総合的に考慮して情報提供すること(3条1項2号)
・定型取引合意(民法548条の2第1項)に該当する消費者契約の締結を勧誘する際に、(消費者が定型約款の内容を容易に知り得る状態に置く措置を講じている場合を除き)消費者が民法548条の3第1項に定める請求(定型約款の内容の表示請求)を行うために必要な情報を提供すること(3条1項3号)
・消費者の求めに応じて、消費者の消費者契約に基づく解除権の行使に必要な情報を提供すること(3条1項4号)
・適格消費者団体からの不当条項(8条ないし10条)を含む契約条項の開示の要請(12条の3)、損害賠償の額の予定又は違約金の算定根拠の説明の要請(12条の4)、及び不当条項(8条ないし10条)を含む消費者契約締結の停止・予防に必要な事業者の講じた措置の開示の要請(12条の5)に応じること
⑤その他
適格消費者団体認定の申請書類に添付すべき書類が見直されました(14条2項)。
適格消費者団体の業務遂行の適正に関する学識経験者による毎事業年度の調査が廃止されました(旧31条2項)。
※適格消費者団体の事務関係規定については、改正消費者裁判手続特例法と同日に施行されます。
2.消費者裁判手続特例法(2023年12月までに施行)
消費者裁判手続特例法(2016年10月1日施行)は、消費者契約に関する財産的被害を集団的に回復するための裁判手続の特例を定めるものです。国から認定された特定適格消費者団体が原告となり、事業者の共通義務(相当多数の消費者に対する金銭支払義務)を確認する第一段階(共通義務確認訴訟)と消費者の債権を個別に確定する第二段階(簡易確定手続)の手続から構成されています。日本版クラスアクションとして期待されていますが、利用例が少ないのが現状です。
①対象範囲の拡大
共通義務確認の対象となる損害として、基礎的事実関係が共通で且つ(i)財産的請求と共通する事実上の原因に基づいて併せて請求される場合又は(ii)事業者の故意により生じた場合の慰謝料が追加されました(3条2項)。
対象となる被告として、事業監督者及び被用者(故意重過失ある者に限る。)が追加されました(3条1項、3項)。
②和解の早期柔軟化
共通義務確認訴訟における和解として、事業者の責任(共通義務)を認める和解だけでなく、解決金を支払う和解等の様々な和解が可能になりました(11条)。
③消費者への情報提供方法の拡充
共通義務確認訴訟が係属する裁判所は、適格消費者団体の申立により、その疎明に基づいて、事業者等に対し消費者情報を開示することを命ずる(保全開示命令)ことができるようになりました(9条)。
簡易確定手続申立団体の対象消費者に対する個別通知の記載事項が簡略化されました(27条2項)。
事業者等は、簡易確定手続申立団体の求めにより、対象消費者に対し個別通知をしなければなくなりました(28条)。
内閣総理大臣が公表する情報として、簡易確定手続開始決定の概要、公告(26条1項、2項前段、3項)の概要、簡易確定手続申立団体の対象消費者に対する個別通知(27条1項)の概要が追加されました(95条1項)。
④特定適格消費者団体の負担軽減
特定適格消費者団体(71条の認定を受けた適格消費者団体)を支援する法人(消費者団体等支援法人)を認定する制度が導入されました(98条ないし113条)。消費者団体支援法人は、特定適格消費者団体の通知や行政の公表等を受託することにより、特定適格消費者団体の負担を軽減します。
⑤その他
簡易確定手続の申立が柔軟化されました(和解に応じた申立、申立期間の伸張等)(15条、16条)。
簡易確定手続の事件記録の閲覧請求は、簡易確定手続の当事者及び利害関係を疎明した第三者に限られることが明確になりました(54条)。
特定認定の有効期間が3年から6年に延長されました(75条)。
特定適格消費者団体と適格消費者団体その他の関係者との連携協力努力義務が定められました(81条4項)。