法律改正2021

経営者が押さえておくべき最近の法律改正(2021年施行分)

最近の法律改正についてはこのコーナーで順次ご紹介してきましたが、今回は、2021年に施行された改正法のうち経営者として押さえておくべきと思われるものをまとめました。便宜上、2020年施行のものも記載しています。本文中の条文番号は各法律の条文を示しています。

目次: 1.著作権法 2.意匠法 3.労働者派遣法 4.高年齢者雇用安定法 5.労働施策総合推進法 6.パートタイム・有期雇用労働法 7.会社法 8.賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律 9.特定商取引法

1.著作権法(2020年10月1日、2021年1月1日施行)

◎2020年10月1日施行

①リーチサイト(違法にアップロードされた著作物へのリンク情報を集約したサイト)対策(サイト運営行為とリンク提供行為も違法に)(113条2項ないし4項、119条2項4号・5号、120条の2第3号等)、②写り込みに係る権利制限規定の対象範囲の拡大(複製・伝達行為全般(創作性を問わず)につき分離困難な対象でなくても写り込みは著作権侵害とならず)(30条の2)、③著作物を利用する権利に関する対抗制度の導入(許諾された著作物利用権を著作権の譲受人にも対抗可)(63条の2)について改正されました。

◎2021年1月1日施行

①侵害コンテンツのダウンロード違法化(音楽・映像に限らず違法アップロードを知りながらのダウンロードは一定要件下で違法に)(30条1項4号、2項、119条3項2号、5号等)、②著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化(裁判所は書類提出命令発出の要否を判断するため予め証拠書類を閲覧でき、専門委員のサポートを受けることも可能に)(114条の3)、③アクセスコントロールに関する保護の強化(ライセンス認証が保護対象であることが明確化され、ライセンス認証等を回避するための不正なシリアルコード等の譲渡等も著作権侵害行為に)(2条1項20号、21号、113条7項、120条の2第4号等)について改正されました。

2.意匠法(2020年4月1日、2021年4月1日施行)

◎2020年4月1日施行

①保護対象・間接侵害規定の拡充(画像、内装、建築物の追加)(2条1項、2項、5条、6条、8条の2,37条、61条の6、64条、65条)、②意匠権の存続期間・関連意匠制度の変更(10条、21条、60条の8)、③損害賠償時の算定方法見直し(38条)、④創作の非容易性に関する水準の明確化(3条2項)、⑤組物の部分意匠導入(2条1項、8条)について改正されました。

◎2021年4月1日施行

①複数意匠の一括出願手続の導入(上限100)(*)(7条、2条の2、15条)、②手続における救済規定の拡充(意匠登録の指定期間経過後2ヶ月以内及び指定期間内に1回のみ2ヶ月間の延長可、優先期間経過後も正当理由あれば優先権の主張可、優先権を証明する書類の提出期間経過後も注意喚起通知から2ヶ月以内は提出可)(15条、60条の10、68条、準用する特許法5条3項、43条の2、43条6項、7項等)、③物品区分における扱いの見直し(区分表廃止・新基準制定、意匠に係る物品又は意匠に係る建築物若しくは画像の用途が明確となるように記載すれば良い、添付資料と併せて総合的に審査)(7条、施行規則7条)について改正されました。

(*)分割出願、変更出願、補正却下後の新出願、国際意匠出願を除く。

3.労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(「労働者派遣法」)(2020年4月1日、2021年1月1日、2021年4月1日施行)<News Letter 2021.5.31号もご参照ください>

◎2020年4月1日施行

①不合理な待遇差をなくすための規定の整備

・派遣先均等・均衡方式(*)vs労使協定方式(**))(30条の3、30条の4、施行規則24条の5)

・派遣元の派遣労働者(労使協定対象労働者を除く)の職務内容等を勘案した賃金決定の努力義務(30条の5)

・派遣労働者に係る事項についての就業規則を作成・変更する場合の派遣労働者の過半数代表者からの意見聴取努力義務(30条の6))、

②労働者派遣契約締結時の対応強化

・派遣先から派遣元への比較対象労働者の待遇に関する情報提供義務(26条7項、施行規則24条の4)

・派遣元から派遣先に対する労使協定対象労働者であるかについての通知義務(35条1項2号)

・労使協定対象労働者であるかについての派遣元管理台帳・派遣先管理台帳への記載義務(37条1項1号、42条1項1号)

・派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度の労働者派遣契約記載事項への追加(26条1項10号、施行規則22条1項1号))、

③派遣元の派遣労働者への説明義務の強化

・雇入時・派遣時における労働条件(昇給・退職手当・賞与の有無、協定対象労働者であるか、派遣労働者が申し出た苦情の処理に関する事項)・不合理な待遇差の解消措置についての説明義務(31条の2第2項、3項)

・派遣労働者から求めがあった場合の比較対対象労働者との待遇差に関する説明義務・不利益取扱いの禁止(31条の2第4項、5項))

④派遣先の対応ルールの新設

・派遣先の派遣料金交渉における待遇改善配慮義務(26条11項)

・派遣先の(派遣元からの求めに応じた)教育訓練実施義務、福利厚生施設の利用機会提供義務、通常利用施設の利用についての便宜供与配慮義務(40条2項、3項、4項)

・派遣先の(派遣元の求めに応じた)派遣先労働者に関する情報・派遣労働者の業務の遂行状況等の情報提供配慮義務(40条5項))

⑤裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

・都道府県労働局長による助言・指導・勧告、紛争調整委員会による調停)(47条の4ないし47条の9)について改正されました。

(*)派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を図る方式

(**)派遣元において、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と一定の要件を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式

4.高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(「高年齢者雇用安定法」)(2021年4月1日施行)<News Letter 2021.5.31号もご参照ください>

定年(65歳未満)の定めをしている場合は、(i)65歳までの定年の引き上げ、(ii)65歳までの継続雇用制度(希望すれば定年後も雇用する制度)の導入又は(iii)定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じる必要があります(9条1項)。

改正法では、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、70歳までの就業機会確保の努力義務を新設しました。即ち、65歳以上70歳未満の定年の定めをしている場合又は70歳未満までの継続雇用制度を導入している場合は、①70歳までの定年の引き上げ、②70歳までの継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、④創業支援等措置(高年齢者との委託契約、関連する社会貢献事業と高年齢者間の委託契約等)のいずれかの措置を講ずるよう努める必要があります(10条の2)。創業支援等措置は事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(かかる労働組合がない場合は労働者の過半数の代表者)の同意を得る必要があります。

5.労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(「労働施策総合推進法」)(2021年4月1日施行)(中小事業主については2022年3月31日までは努力義務)<News Letter 2021.5.24号もご参照ください>

職場におけるパワーハラスメントを防止するため、①事業主の方針の明確化及びその周知啓発、②相談に適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速且つ適切な対応等の雇用管理上必要な措置を講じる必要があります(30条の2)。

パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることをいいます。労働者がハラスメントの相談を行ったこと又は事業主による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは禁止されます。

参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf

6.パートタイム・有期雇用労働法(2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)施行)<News Letter 2021.5.17号もご参照ください>

短時間労働者(パート・アルバイト等)・有期雇用労働者の待遇と通常の労働者の待遇との間で、①業務の内容及び責任の程度(「職務の内容」)、②職務の内容及び配置の変更の範囲並びに③その他の事情のうち、当該待遇の性質及び目的に照らして適切なものを考慮して不合理と認められる相違を設けることが禁止されます(「均衡待遇」)。また、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間労働者・有期雇用労働者について、雇用の全期間を通じて職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれる場合は、短時間労働者・有期雇用労働者であることを理由とする待遇の差別的取扱が禁止されます(「均等待遇」)(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、9条)。

参考:短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(厚生労働省告示430号)(https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/content/contents/000478586.pdf

7.会社法(2021年3月1日施行)

①株主総会資料の電子提供制度の創設(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類、事業報告書、連結計算書類をウェブサイトで提供可)(325条の2ないし325条の6)、②株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備(1日との株主が提案できる議案数は10まで)(305条4項)、③取締役の報酬に関する規律の見直し(公開会社且つ大会社である監査役会設置会社で有価証券報告書の提出義務のある会社及び監査等委員会設置会社の取締役の個人別報酬の決定方針を定める義務、取締役に付与する株式等の数の上限につき株主総会決議が必要、上場会社が取締役報酬として発行する株式について出資履行は不要)(361条7項、361条1項、202条の2等)、④会社補償及び役員等のために締結される保険契約に関する規律の整備(規定創設、役員賠償責任保険契約に関する規定創設)(430条の2、430条の3)、⑤社外取締役の活用等(社外取締役に対する業務執行の委託可、公開会社且つ大会社である監査役会設置会社で有価証券報告書の提出義務のある会社の社外取締役の設置義務化)(348条の2、327条の2)、⑥社債管理に関する規律の見直し(社債管理補助資格者に社債管理の委託可)(714条の2)、⑦株式交付制度の創設(完全子会社とならない場合でも自社株式を子会社化する会社の株主に交付可)(2条32の2号、774条の2等)等、幅広い改正がされました。

8.賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(新設)(2021年6月15日施行)

賃貸住宅管理業について登録が義務付けられました(3条)。登録を受けた賃貸住宅管理業者は、業務管理者の選任、管理受託契約締結前の重要事項の説明、財産の分別管理、委託者への定期報告等が義務づけられます(12条、13条、14条、16条、20条等)。

特定賃貸借契約の適正化のための措置(サブリース業者と所有者間の賃貸借契約の適正化のための規制に係る部分:誇大広告等の禁止、不当な勧誘等の禁止、締結前書面交付、締結時書面交付等)(2条4項、5項、28条ないし36条)は2020年12月15日に施行されています。

参考:(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001373100.pdf)

9.特定商取引法(2021年7月6日施行)

販売業者が売買契約に基づかないで一方的に相手方に送り付けた商品(送り付け商法)について、販売業者が返還請求できない規定が整備されました。送り付けには、相手方の留守の間に商品を置いていった場合や相手方の了解なしに強引に置いていった場合のように、郵便や運送等の手段によらない場合も含まれます。

相手方は施行日以降に送り付けられた商品を即座に処分できるようになりました(以前は14日間の保管が必要でした)(59条)。売買契約が成立していないので相手方に代金支払義務は発生しません。また、販売業者は、売買契約成立を偽って商品を送付した場合は、送付した商品の返還を請求できないことが明記されました(59条の2)。