法律改正2024

法律改正2024年

2024年に施行される事業者が知っておくべき法律改正情報について概説します。

1.労働条件の明示          9.電子帳簿保存法 2.時間外労働の上限規制       10.不当景品類及び不当表示防止法 3.健康保険・厚生年金保険      11.意匠法 4.裁量労働制            12.商標法 5.障害者雇用率の引き上げ      13.不正競争防止法 6.障害者差別禁止法         14不動産登記法 7.フリーランス保護新法       15.民事訴訟法 8.労働安全衛生法          16.民法                   

1.労働条件の明示(2024年4月1日施行)

①使用者が労働契約を締結する場合に労働者(有期・無期を問わない。)に対し明示しなければならない事項として、就業場所及び従事すべき業務に加えて、「就業場所及び従事すべき業務の変更の範囲」が追加されます(労働基準法施行規則5条1項1の3号)。従って、将来の配置転換等によって変わり得る就業場所及び業務の範囲を明示することが必要になります。

②使用者が有期労働契約を締結又は更新する場合に有期労働者に対し明示しなければならない事項として、「通算契約期間又は有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合の当該上限」が追加されます(労働基準法施行規則5条1項1の2号)。従って、更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無及び内容の明示が必要になります。なお、有期労働契約の締結後の契約変更又は更新に際して通算契約期間又は更新回数について上限を定め又は引き下げる場合は、予め、その理由を労働者に説明しなければならないとされています(有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準(「基準」)1条)。

③使用者が有期労働者が無期転換申込み(*)をすることができることとなる有期労働契約を締結する場合に有期労働者に対し明示しなければならない事項として、「無期転換申込みに関する事項及び無期労働契約の労働条件」(労働基準法施行規則5条1項1号、1の3号ないし11号)が追加されます(労働基準法施行規則5条5項)。但し、労働基準法施行規則5条1項4号の2ないし11号に定める事項については、定めのある場合に限ります。従って、無期転換申込権が発生する更新のタイミング毎に無期転換を申込むことができる旨及び無期転換後の労働条件を明示することが必要になります。無期転換申込みに関する事項及び無期労働契約の労働条件のうち労働基準法施行規則5条1項1号、1号の3ないし4号に定める事項については、労働者に対する書面の交付が必要です(労働基準法施行規則5条6項)。なお、無期労働契約の労働条件を明示する場合は、労働契約法3条2項の趣旨(労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする)を踏まえて他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項(労働基準法施行規則5条1項に定めるものを除く、業務内容、責任の程度、異動の有無範囲等)について、有期労働者に説明するよう努めなければならないとされています(基準5条)。

(*)有期労働契約の通算契約期間(一定の空白期間がある場合はそれ以前の契約期間を除く。)が5年を超える労働者は、使用者に対し、現行有期労働契約の契約期間の満了日までに満了日以降の無期労働契約の締結の申込みをすることにより、現行有期労働契約と同一の条件(契約期間を除き、特約のある事項を除く。)で無期労働契約を締結したものと看做されます(労働契約法18条)。

▲参考:労働基準法5条1項

一 労働契約の期間に関する事項

一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項

二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項

三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項

六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

七 安全及び衛生に関する事項

八 職業訓練に関する事項

九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

十 表彰及び制裁に関する事項

十一 休職に関する事項

2.時間外労働の上限規制の適用猶予期間の終了(2024年4月1日施行)

①時間外労働の上限は、原則として月45時間・年間360時間です(労働基準法36条3項、4項)が、労使間の合意があれば、①時間外労働が年間720時間以内、②時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、③時間外労働と休日労働の合計について、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月及び6ヶ月の各平均が月80時間以内、④時間外労働が45時間を超える月が年間6ヶ月以下という条件を満たせば、月45時間・年間360時間を超えることができます(労働基準法36条5項、6項)。

②工作物の建設の事業については、上記①②③④の条件を満たさなくても月45時間・年間360時間の上限を超えることが認められていましたが、かかる例外的取扱が廃止されます。違反者には6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されます。但し、災害時における復旧及び復興の事業には、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満、2~6ヶ月平均80時間以内とする規制は適用されません。

なお、自動者運転の業務及び医業に従事する医師についても時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、猶予期間終了後の取扱は工作物の建設の事業と異なります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html

3.短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大(2024年10月1日施行)

厚生年金保険の被保険者数が101人以上の企業等で週20時間以上働く短時間労働者は健康保険・厚生年金保険の加入対象となっていますが、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業等(*)で働く以下の全てに該当する短時間労働者も、健康保険・厚生年金保険の加入対象になります。

(a)週の所定労働時間が20時間以上30時間未満

(b)所定内賃金が月額88000円以上

(c)2ヶ月を超える雇用の見込みがある

(d)学生でない

(*)1年のうち6月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上(法人事業所の場合は同一法人格に属する(法人番号が同一である)すべての適用事業所の被保険者の総数、個人事業所の場合は適用事業所単位の被保険者数)となることが見込まれる企業等

4.裁量労働制の対象労働者の要件の追加(2024年4月1日施行)

①専門業務型裁量労働制の対象業務に「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)」が追加されます(労働基準法38条の3第1項1号、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号、労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務(平成9年2月14日労働省告示第7号)8号)。

②専門型裁量労働制導入に際しては、労使協定で①制度の適用に当たって労働者本人の同意を得なければならないこと、②制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと、③制度の適用に関する同意の撤回の手続及び④同意とその撤回に関する記録を保存することを定めて届け出ることが必要になります(労働基準法施行規則24条の2の2第3項1号、2号、4号ハ)。また、協定の有効期間中及び期間満了後5年間保存すべき労働者毎の記録に、「同意及び同意の撤回」が追加されます(労働基準法施行規則24条の2の2の2)。

③企画型裁量労働制導入に際しては、労使委員会決議で①制度の適用に関する同意の撤回の手続、②同意とその撤回に関する記録を保存することを定めること及び③評価制度及び賃金制度を変更する場合は労使委員会に説明することを決議することが必要になります(労働基準法施行規則24条の2の3第3項1号、4号ハ)。また、協定の有効期間中及び期間満了後5年間保存すべき労働者毎の記録に、「同意及び同意の撤回」が追加されます(労働基準法施行規則24条の2の3の2)。

④裁量労働制の実施に際しては、長時間労働の抑制や休日確保を図るための事業場の適用労働者全員を対象とする措置(①終業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)、②深夜業(22時~5時)の回数を1か月で一定回数以内とする、③労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除、④連続した年次有給休暇の取得)又は勤務状況や健康状態の改善を図るための個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置(⑤医師による面接指導、⑥代償休日・特別な休暇付与、⑦健康診断の実施、⑧心とからだの相談窓口の設置、⑨必要に応じた配置転換、⑩産業医等による助言・指導や保健指導)のいずれかを講ずることが適切(両方講ずることが望ましい)とされています。

5.障害者雇用率の引き上げ(2024年4月1日施行)

障害者雇用の法定雇用率が2.3%(43.5人以上)から2.5%(40.0人以上)に引き上げられます。さらに、2026年7月からは2.7%(37.5人以上)に引き上げられます(障害者の雇用の促進等に関する法律43条1項、障害者の雇用の促進等に関する法律施行令9条)。

6.障害者差別禁止法(2024年4月1日施行)

事業者の合理的配慮に関する法的義務が定められました(改正前は努力義務)(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条2項)。

①合理的配慮義務が発生するための要件は以下の通りです。

(a)障害者からの現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(令和5年3月14日閣議決定、令和6年4月1日施行)(「ガイドライン」)では、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)によることも想定されています。また、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が、本人を補佐して行う意思の表明も含むとされています。

(b)社会的障壁除去の実施に伴う負担が過重でないこと

ガイドラインでは、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度、事務・事業規模、財政・財務状況を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的に判断するとされています。また、過重な負担になると判断した場合には、障害者にその理由を説明し、理解を得るよう努めることが望ましいとされています。

②障害者の権利に関する条約2条によれば、合理的配慮とは、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」とされています。合理的配慮の具体例については、総務省の公表している「合理的配慮等具体例データ集」が、「障害の種別」(全般・視覚障害・聴覚言語障害・盲ろう・肢体不自由・知的障害・精神障害・発達障害・内部障害難病等)及び「生活の場面」(行政・教育・雇傭就業・公共交通・医療福祉・サービス・災害時)に区分して具体例を紹介しており、参考になります。

https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/index.html

③障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律5条は「行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。」と定めています。環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものであるのに対し、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して個別の状況に応じて講じられる措置という関係にあります。

ガイドラインでは、合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る例を挙げています。

7.フリーランス保護新法(2024年11月までに施行)

フリーランスと事業者間の取引の適正化等を図るため、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(「フリーランス保護法」)が成立しました。

①特定業務委託事業者(特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの)(2条6項)は、特定受託事業者(業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの)(2条1項)に対し業務委託をした場合は、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日等を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。正当な理由により内容を定められない事項については、内容が定められた後直ちに明示しなければなりません(3条)。従業員を使用していない事業者が特定受託事業者に対し業務委託を行うときについても同様です。

②特定業務委託事業者は、特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません(4条1項、3項)。報酬支払日が定められていない場合は給付受領日が報酬支払期日とみなされ、上記に違反した報酬支払日が定められている場合は給付受領日から60日を経過した日が報酬支払期日とみなされます(4条2項)。

③特定業務委託事業者は、特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、以下の(a)ないし(e)の行為をしてはならず、(f)(g)の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとされています(5条)。

(a)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること

(b)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること

(c)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと

(d)通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること

(e)正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること

(f)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること

(g)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

④特定業務委託事業者は、広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならず(12条)、特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの。以下「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならず(13条)、特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならず(14条)、継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならないとされています(16条)。

⑤公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができ、命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金(法人両罰規定あり)が科されます(8条、9条、11条、18条ないし20条、22条、24条、25条)。

8.労働安全衛生法(2024年4月1日施行)

職場の化学物質管理の対象となる物質を大幅に拡大し、より合理的にリスクアセスメントを実施するために政省令改正が行われ、従来の「個別規制型」から事業主による「自律的な管理」への移行を促進するべき、政省令等が改正されました。

①安衛法57条の3でリスクアセスメント等が義務付けられている危険性・有害性のある化学物質(「リスクアセスメント対象物」)に、国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が順次追加されます。このうち、国によるGHS分類の結果、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性、急性毒性のカテゴリーで区分1に分類された234物質がラベル表示等の義務対象に追加されました。ただし、2024(令和6)年4月1日時点で現存するものには、2025(令和7)年3月31日までの間、安衛法第57条第1項のラベル表示義務の規定は適用されません。

https://www.jniosh.johas.go.jp/groups/ghs/arikataken_report.html

②リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることで労働者に健康障害を生ずるおそれがない物質として厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(濃度基準値)以下としなければならず、当該措置の内容と労働者のばく露の状況を、労働者の意見を聴く機会を設け、記録を作成し、3年間(がん原性のある物質として厚生労働大臣が定めるもの(がん原性物質※)は30年)保存しなければなりません。

③皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性または皮膚から吸収され健康障害を引き起こすことが明らかな化学物質と当該物質を含有する製剤を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、その物質の有害性に応じて、労働者に障害等防止用保護具を使用させなければなりません(改正前は努力義務)。

④衛生委員会の付議事項に、濃度基準値の設定物質について、労働者がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること、リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関すること、濃度基準値設定物質について、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに実施した健康診断の結果とその結果に基づき講ずる措置に関することが追加されます。

⑤労働災害の発生またはそのおそれのある事業場について、労働基準監督署長が、その事業場で化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、事業場の事業者に対し、改善を指示することができます。改善の指示を受けた事業者は、化学物質管理専門家(厚生労働大臣告示で定める要件を満たす者)から、リスクアセスメントの結果に基づき講じた措置の有効性の確認と望ましい改善措置に関する助言を受けた上で、1か月以内に改善計画を作成し、労働基準監督署長に報告し、必要な改善措置を実施しなければなりません。

⑥リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講ずるばく露低減措置等の一環として、リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、事業者は、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等(医師または歯科医師)が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じなければなりません。

⑦リスクアセスメント対象物を製造、取扱い、または譲渡提供をする全ての事業場(業種・規模要件なし)で、化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者を化学物質管理者に選任しなければなりません。リスクアセスメント対象物を製造する事業場においては、選任すべき事由が発生した日から14日以内に、厚生労働大臣が定める化学物質の管理に関する講習を修了した者等のうちから選任しなければなりません(施行規則第12条の5第3項)。事業者は化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者の氏名を事業場の見やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知する必要があります(施行規則12 条の5 第5項)。事業者は、化学物質管理者を選任したときは、当該化学物質管理者に対し、以下の職務をなしうる権限を与えなければならなりません(同条4項)

(a) ラベル表示および安全データシート(SDS)交付に関すること(リスクアセスメント対象物を含む製品をGHS国連勧告「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」に基づく分類)に従って分類し、ラベル表示および安全データシート(SDS)交付を行う作業の管理(ラベル表示およびSDS の内容の適切性の確認等))
(b) リスクアセスメントの実施に関すること(リスクアセスメントを実施すべき物質の確認、取扱い作業場の状況確認(当該物質の取扱量、作業者数、作業方法、作業場の状況等)、リスクアセスメント手法(測定、推定、業界・作業別リスクアセスメント・マニュアルの参照など)の決定および評価、労働者へのリスクアセスメントの実施およびその結果の周知等)
(c) リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の内容および実施に関すること(ばく露防止措置(代替物の使用、装置等の密閉化、局所排気装置または全体換気装置の設置、作業方法の改善、保護具の使用など)の選択および実施についての管理
(d) リスクアセスメント対象物を原因とする労働災害が発生した場合の対応に関すること(実際に労働災害が発生した場合の対応、労働災害が発生した場合を想定した応急措置等の訓練内容および計画を定めることの管理
(e) リスクアセスメントの結果等の記録の作成および保存ならびに労働者への周知に関すること(①~④の事項等を記録・保存、リスクアセスメント結果の労働者への周知管理
(f) リスクアセスメントの結果に基づくばく露防止措置が適切に施されていることの確認、労働者のばく露状況、労働者の作業の記録、ばく露防止措置に関する労働者の意見聴取に関する記録・保存ならびに労働者への周知に関すること(ばく露防止措置等について1年を超えない期間ごとに定期的に記録を作成し、3年間(リスクアセスメント対象物であり、かつがん原性物質の場合には30年間)保存し、労働者に周知
(g) 労働者への周知、教育に関すること(①~④を実施するに当たっての労働者に対する必要な教育(雇入れ時教育を含む)の実施における計画の策定教育効果の確認等の管理

9.電子帳簿保存法(2024年1月1日施行)
2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法により、電子取引に係るデータは電子保存が義務付けられ、紙に印刷して保存することは不可とされています。ただし、2022年1月1日から2023年12月31日まで2年間の宥恕措置(経過措置)が設けられ、一定の要件を満たす場合には紙媒体による印刷保存も認められていました。2024年1月1日以降は上記の宥恕措置が撤廃されるため、電子取引に係るデータは電子保存が一律で義務付けられます。

10.不当景品類及び不当表示防止法(2024年11月までに施行)
事業者の自主的な取り組みの促進
優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで迅速に問題を改善する、確約手続きが導入されました(26条ないし33条)。また、課徴金制度における返金措置が弾力化され、特定の消費者へ一定の返金を行った場合に課徴金額から当該金額が減額される返金措置に関して、返金方法として金銭による返金に加えて第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)が許容されることとなりました(10条)。
違反行為に対する抑止力の強化
課徴金制度が見直され、課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握することができない期間における売上額を推計することができる規定が整備されるとともに、違反行為から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対し、課徴金の額を加算(1.5)する規定が新設されました(8条4項ないし6項)。また、罰則規定が拡充され、優良誤認表示・有利誤認表示に対し、直罰(100万円以下の罰金)が新設されました(48条)。
円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備等
措置命令等における送達制度の整備・拡充、および外国執行当局に対する情報提供制度の創設がなされ、国際化の進展への対応が進められました(41条ないし44条)。また、適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定が新設されました(35条)。

11.意匠法(2024年1月1日施行)

意匠登録を受けるためには、その意匠に新規性が認められる必要があります。発表(公開)によって新規性を喪失した意匠を登録したい場合、例外適用として全ての公開意匠を網羅した証明書を提出することが必要でしたが、この要件が緩和され、最先の公開意匠についての証明書で足りることとなります。

以下の場合は新規性が喪失しなかったものと看做されます(意匠法4条2項・3項)。

(a)新規性を喪失した日から1年以内に意匠登録出願がされている
(b)意匠登録出願と同時に意匠法4条2項の適用を受けようとする旨を記載した書面が提出されている
(c)出願日から30日以内に新規性を喪失した意匠が意匠法4条2項の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(例外適用証明書)が提出されている

改正前は全ての公開意匠を網羅した例外適用証明書を作成することが必要でしたが、今回の改正により、全ての公開意匠ではなく最先(最初)の公開意匠についての証明書を提出することで、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができるようになります。

12.商標法(2024年4月1日施行)

①コンセント制度の導入(商標法4条4項)

先行する他人の登録商標と同一又は類似する商標は、当該登録商標に係る又は類似する商 品・役務についての登録を受けることができませんが、諸外国の多くと同様に、先行する登録商標の権利者が同意し且つ消費者(需要者)に混同が生じるおそれがない場合には併存登録が認められるようになりました(コンセント制度)。混同が生じるおそれがないかの判断に当たっては、商品・役務の用途など、実際に商標が使用される場面で 棲み分けがなされているか等に着目することとされています。商標が併存登記された場合は、混同防止表示請求(混同のおそれがある場合)や不正使用取消審判請求(混同が生じている場合)が可能となります。

②不正競争防止法の適用除外規定の新設(不正競争防止法19条3号)

コンセント制度の安定した活用のため、同意した両者が不正の目的でなく商標を使用している場合には、相手側の商標の使用行為を不正競争行為として扱わない(適用除外)こととされました(不正競争防止法19条)。これにより、同意した商標権者が併存登記した商標権者に対して周知表示混同惹起行為・著名表示冒用行為を理由とする差止・損害賠償請求をすることはできなくなります。

③他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し(商標法4条1項8号)

「他人の氏名」を含む商標は、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができず、実務上は、同姓同名の他人全員 の承諾が得られなければ商標登録を受けることができません。このため、①「他人の氏名」に一定の知名度の要件と②出願人側の事情を考慮する要件を課し、氏名に一定の知名度を有する他人が存在せず且つ出願人側の事情を考慮する要件を満たしている場合(例えば、商標構成中の氏名が自己氏名等であり、商標登録を受けることについて不正の目的を有していない場合)には、他人の承諾なく商標登録が可能となりました。

商標制度小委員会は以下の整理をしています。

(a)商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有する場合は、人格的利益の侵害の蓋然性が高いため、出願人側の事情を問わず、出願が拒絶される
(b)商標に含まれる他人の氏名が一定の知名度を有しない場合は、出願人側の事情を考慮することで、他人の人格的利益が侵害されるような濫用的な出願は拒絶される

13.不正競争防止法(2024年4月1日施行)

①デジタル空間における模造行為の防止(不正競争防止法2条3号)

不正競争防止法は、他人の商品形態を模倣した商品(酷似したモノマネ品)の提供行為 (形態模倣行為)を規制していますが、有体物の商品を想定しています。近年、デジタル技術の進展、デジタル空間の活用が進み、現行法では想定されていなかったデジタル上の精巧な衣服や小物等の商品の経済取引が活発化しています。このため、有体物に加え、デジタル空間上の商品の形態模倣行為(電気通信回線を通じて提供する行為)も 規制対象とし、デジタル空間上の商品の保護が強化されることになりました。

②限定提供データの定義の明確化(不正競争防止法2条7号)

不正競争保護法によりビッグデータ保護制度(*)が創設(地図データ、消費動向データ等。令和元年7月施行)されましたが、「秘密管理されていないビッグデータ」のみが保護対象とされています。近年、自社で秘密管理しているビッグデータであっても他者に提供する企業実務があることから、対象を「秘密管理されたビッグデータ」にも拡充し、営業秘密と一体的な情報管理が可能となりました。

(*)限定提供データ制度:ビッグデータを安心して他者と共有・利活用できるように、不正取得等に差止など対抗手段を設ける保護制度

③損害賠償額算定規定の拡充(不正競争防止法5条)

営業秘密等の損害額(逸失利益)は、侵害行為と損害との因果関係が明らかでない場合が多く立証が困難なため、損害額を原則「侵害品の販売数量×被侵害者(営業秘密保有者)の1個当たりの利益」と推定して算定することで立証負担を軽減しています(損害賠償算定規定)が、被侵害者の生産・販売能力超過分の損害額は認められませんでした。適切な損害回復を図るため、超過分は侵害者に使用許諾(ライセンス)したとみなし、 使用許諾料相当額として損害賠償額を増額できることになりました。これにより、生産能力等が限られる中小企業も、能力超過分はライセンス料相当額として増額することが可能になりました。また、現行法では「物を譲渡」する場合に限定されていた対象を、デジタル化に伴うビジネス多様化を踏まえ、 「データや役務を提供」する場合にも拡充されました。

④使用等の推定規定の拡充(不正競争防止法5条の2)

原告(営業秘密保持者)から不正取得した「営業秘密(生産方法等)」を被告(侵害者)が実際に使用しているかを原告が立証することは困難なため、被告が「営業秘密」を不正取得し且つ「その営業秘密」を使用すれば生産できる製品を生産している場合には、被告が「その営業秘密」を使用したと推定する規定が設けられていますが、推定規定の適用対象となる被告は産業スパイ等の悪質性の高い者(営業秘密へのアクセス権限がない者・不正に取得した者からその不正な経緯を知った上で転得した者)に限定されています。改正負では、オープンイノベーションや雇用の流動化を踏まえ、推定規定の適用対象を、元々アクセス権限のある者(元従 業員)や不正な経緯を知らずに転得したがその経緯を事後的に知った者にも同様に悪質性が高いと認められる場合に限り拡充しました。

⑤国際的な事業展開に関する制度整備

(a)外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充(不正競争防止法21条4項、5項、22条1項)

OECD 外国公務員贈賄防止条約に基づく外国公務員贈賄罪について、OECDからの勧告も踏まえ、条約をより高い水準で的確に実施するため、国内のバランスも踏まえつつ他の加盟国と遜色のない水準となるよう、自然人・法人の法定刑(罰金・懲役)が引上げられました(自然人:500万円以下又は5年以下⇒3000万円以下又は10年以下、法人:3億円以下⇒10億円以下)。

また、現行法上、日本企業従業員の贈賄行為は、日本国内での行為は国籍問わず(属地主義)、海外での行為は日本人のみを処罰対象とし(属人主義)、外国人従業員による単独行為は対象外としています。そこで、海外での贈賄行為を従業員の国籍 を問わず処罰可能とし、結果として外国人従業員が所属する日本企業も両罰規定により処罰できることが明確化されました。

(b)国際的な営業秘密侵害事案における手続の明確化(不正競争防止法19条の2、19条の3)

日本国内で事業を行う企業の営業秘密が侵害された場合、刑事(懲役・罰金)では海外での侵害行為も処罰可能です(国外犯処罰)。一方、民事(差止・損害賠償)では、日本国内の裁判所で日本の法律(不競法)に基づき裁判を受けられるのか、事案によっては不明確です(*)。このため、日本国内で事業を行う企業の、日本国内で管理体制を敷いて管理している営業秘密に関する民事訴訟であれば、海外での侵害行為も日本の裁判所で日本の不競法に基づき提訴できることが明確化されました(中小企業も、日本の裁判所で日本語で海外企業を提訴可能であることが明確化されました。)。但し、「専ら海外事業にのみ用いられる営業秘密」の場合は、従来と同様に、「民事訴訟法」「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断します。

 (*)裁判管轄は「民事訴訟法」、準拠法は「法の適用に関する通則法」に基づき裁判所が判断されますが、判断によっては、裁判管轄・準拠法が日本・日本法ではない可能性もあります。

14.不動産登記法(2024年4月1日施行)

①相続登記の義務化

相続(遺言による場合を含みます。)によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記(所有権移転の登記)の申請をしなければならないことになりました(76条の2第1項)。
遺産分割の協議がまとまったときは、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた相続登記の申請をしなければならないこととなりました(76条の2第2項、76条の3第4項等)。
正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかったときは、10万円以下の過料の対象となります(164条1項)。

施行日前に相続が発生した場合も適用されます。この場合の3年間の履行期間の起算日は、相続登記義務発生日又は施行日のいずれか遅い方です。

②相続人申告登記

不動産の所有者が亡くなった場合、遺産分割の協議がまとまるまでは、全ての相続人が民法上の相続分の割合で共有している状態となり、遺産分割の協議がまとまったときは、その内容によります。いずれの場合であっても、相続登記を申請しようとする場合、民法上の相続人や相続分を確定しなければならないため、全ての相続人を把握するための戸籍謄本等の収集が必要となります。このため、より簡易に相続登記の申請義務を履行することができるよう、相続人申告登記という新たな制度が設けられました。
相続人申告登記は(1)登記簿上の所有者について相続が開始し、(2)自らがその相続人であることを申し出る制度です(76条の3第1項)。この申出がされると、相続人の氏名・住所等が登記されますが、持分までは登記されません。特定の相続人が単独で申請することができ、法定相続人の範囲及び法定相続人の割合の確定は不要です。相続人申請登記の申請義務の履行期間内にこの申出を行った相続人は、相続登記義務を履行したものと看做されます(76条の3第2項)。

15.民事訴訟法(弁論準備手続期日・和解期日については2024年3月1日施行)

①現行法下では、口頭弁論期日は公開の法廷で行われ、当事者及び訴訟代理人は実際に裁判所に出頭して期日に参加する必要があります(現行法87条1項)。争点整理のために実施される弁論準備手続(現行法168条)については、裁判所が「当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」に、ウェブ会議や電話会議によって実施することができますが、それでも当事者の一方は裁判所に出頭しなければならないこととされています(現行法170条3項但書)。これに対し、同趣旨の手続である書面による準備手続(現行法175条)が行われる場合の裁判所・当事者間の協議は、当事者のいずれも裁判所に出頭することなくウェブ会議等で実施することができ(現行法176条3項)、新型コロナウイルスの感染拡大を機に近時多用されるようになりましたが、同協議では書証の取調べができないという難点もありました。さらに、証人尋問は、遠隔地に居住する証人の負担の軽減又は(当事者等から圧迫を受けることによる)証人の精神的な不安等の軽減に必要な場合に限り、テレビ会議システムを利用して行うことができるとされていますが(現行法204条)、この場合も、証人は、訴訟を審理している裁判所(受訴裁判所)とは別の裁判所、又は受訴裁判所内で当事者等がいるのとは別の場所に出頭しなければならないこととされています(現行の民事訴訟規則123条1項、2項)。なお、当事者尋問にも、上記の証人尋問についての規定が準用されています(現行法210条、現行民事訴訟規則127条)。

②改正法では、裁判所が、相当と認めるとき(当事者が遠隔の地に居住しているときに限られない。)に、当事者の意見を聴いたうえで、ウェブ会議による口頭弁論期日を実施することができ(改正法87条の2第1項)、弁論準備手続において当事者の一方が裁判所に出頭する必要もなくなりました(改正法170条3項)。証人尋問等についても、当事者に異議がない場合で、裁判所が相当と認めるときは、広くウェブ会議による尋問を実施することができ(改正法204条3号)、裁判所以外の一定の場所に証人が所在することが認められる予定です。現行法下では明文規定がないウェブ会議等による和解期日も可能です(改正法89条2項)。

16.民法(2024年4月1日施行)

①嫡出推定制度の見直し
婚姻の解消等の日から300日以内に子が生まれた場合であっても、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定することとしました(民法772条1項)。
女性の再婚禁止期間を廃止しました(旧民法733条)。
これまでは夫のみに認められていた嫡出否認権を、子及び母にも認めました(民法774条1項ないし3項)。
嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長しました(民法777条)。

②懲戒権に関する規定等の見直しのポイント
懲戒権に関する規定を削除しました(旧民法822条)。
子の監護及び教育における親権者の行為規範として、子の人格の尊重等の義務及び体罰などの子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動の禁止を明記しました(民法821条)。
③その他の改正内容
このほか、本法律では、子の地位の安定を図る観点から、事実に反する認知についてその効力を争うことができる期間に関する規定を設けるなどしています(民法786条)。