働くということを、映画に学ぶ ― 不条理と希望のあいだで(完)
映画館の暗闇の中で、働く人の姿に涙する瞬間があります。それは、スクリーンに映るのが誰か知らない人物の人生でありながら、どこか自分のことのように感じるからでしょう。働くという行為は、単なる経済活動だけではありません。誰かのために動き、悩み、報われたり報われなかったりする――その過程が人を形づくっていく、映画は、その“働くことの物語”を、私たちより少しだけ俯瞰した目線で描いてくれています。
今回は、こうした会社生活での悩みや課題に関連した映画を紹介したいと思います。既にご覧になった作品もあるかもしれませんが、ネタバレにならないように注意しながら、ポイントを絞り説明することで、悩み解決のヒントを得ることができたり、共感を感じ心が温まることがあれば、幸いです。
それでは、4つの軸ごとに映画作品を4本ずつ(重複あり)紹介し、最後に共通するテーマをまとめてみます。
| 一つ目の軸 新米社長の成長物語 ― リーダーとしての孤独と希望 二つ目の軸 上司や友人との交流 ― 人は人によって育つ 三つ目の軸 会社と個人の葛藤 ― 自分らしさを探して(以上前号まで) 四つ目の軸 「不条理な会社生活」――矛盾の中で、どう生きるか |
四つ目の軸 「不条理な会社生活」――矛盾の中で、どう生きるか
会社という組織の中で避けて通れない“理不尽さ”や“矛盾”をテーマに、それでも前を向く人々を描いた映画作品を紹介します。会社という場所は、理屈だけでは動かないところです。どんなに正しい提案も、タイミングを間違えれば通らない。努力しても評価されない。上司の一言で方針が変わる。こうした「不条理」は、どんな職場にも起き、働く人にとっては、避けては通れない通過儀礼みたいなものです。笑いながら共感できるものもあれば、胸が苦しくなるような作品もあります。けれど、どの物語も最後には「希望」を残してくれる映画作品です。
映画①『オフィス・スペース』:退屈の中の反乱
アメリカの典型的なオフィスで働くピーターは、終わりのない会議と、やる気のない上司、意味のない報告書にうんざりしています。そして、ある日、催眠療法の事故で“何も気にしない性格”になってしまい、突然、自由に振る舞い始めます。その結果、なぜか上司から高評価を受け、人生が思わぬ方向に進んでいきます。
“It’s not that I’m lazy. It’s that I just don’t care.”(怠けてるんじゃない。ただ、もうどうでもよくなっただけだ。)
このセリフが刺さるのは、私たちがどこかで「やる気が出ない自分」を責めているからでしょう。
でもこの映画は、そんな気持ちを笑い飛ばしてくれます。仕事に心が疲れたとき、「ちょっと休んで、自分を取り戻してもいいんだ」と思わせてくれる温かい励ましとなります。
不条理を真正面から否定するのではなく、ユーモアで軽く受け流すこと。それも一つの“処世術”だと教えてくれます。
映画②『ブラジル』:管理社会の不条理
テリー・ギリアム監督のカルト的名作『ブラジル』は、未来の官僚社会を舞台にしたディストピア映画です。書類、ハンコ、手続き、ミスを認めない体制。どこかの職場にも似ていませんか。主人公サムは、理不尽な官僚機構の歯車として働く一人。ある日、書類の誤字から無実の人が逮捕され、それをきっかけに自分の世界が崩れ始める。
“We’re all in this together.”(みんな同じ歯車なんだよ。)
この言葉は、皮肉でもあり真実でもあります。組織が大きくなるほど個人の声は小さくなっていく。だけど、サムの小さな抵抗は、“個人の尊厳を取り戻すための戦い”でもあります。この映画はファンタジーのようでいて、「働くとは、自由と秩序の間で揺れること」だと痛烈に描き出しています。
映画③『マージン・コール』:崩壊寸前の組織で
2008年のリーマン・ショックを背景にしたこの映画は、金融会社の一夜を描いています。
経済崩壊が目前に迫る中、社員たちは「真実を公表するか」「会社を守るか」の選択を迫られます。若手アナリストがデータから危機を察知し、上司に報告する。だが上層部は、顧客を犠牲にしてでも自社の生き残りを選ぶ。
“There are three ways to make a living in this business: be first, be smarter, or cheat.”
(この業界で生き残るには3つの方法がある。先に動くか、頭を使うか、ずるをするかだ。)
この冷たい一言に、組織の現実が凝縮されています。倫理と利益の間で揺れる人々――。その葛藤は、私たちが日々直面する“小さなジレンマ”に似ています。
「正しいこと」と「会社の利益」が常に一致するとは限らない。そんな現実を前に、個人としてどう生きるべきか。この映画は観る者に重く、しかし切実な問いを投げかけてきます。
映画④『半沢直樹』:理不尽への抵抗の象徴
最後に、日本のドラマから一つだけ取り上げます。『半沢直樹』は、まさに“理不尽な会社社会”の象徴です。理不尽な命令、責任の押しつけ、上司の圧力。それでも主人公半沢は信念を曲げない。
「やられたらやり返す。倍返しだ!」この決め台詞は単なる報復ではありません。「正義をあきらめない」という意思の表明です。
彼が見せるのは、怒りの力ではなく、信念の力。どんなに不条理な世界でも、自分の中に“筋”を持ち続けることの大切さを教えてくれます。多くの人がこのドラマに熱狂したのは、彼の中に「本当はこうありたい自分」を見たからでしょう。
まとめ:不条理の中で、“自分の正義”を失わないこと
生きていく上で仕事を進める上で、不条理は、避けられません。会社には理屈の通らないことがたくさんあります。でも、そこで何を選ぶかは自分次第です。
『オフィス・スペース』のピーターは、笑いながら抵抗し、『ブラジル』のサムは、夢の中で自由を見た。『マージン・コール』の社員たちは、恐怖と誠実の間で揺れて、『半沢直樹』は、理不尽に真正面から立ち向かった。
どの物語にもひとつの共通点があります。それは「自分の中の正義」を手放さなかったということです。組織の中で働くということは、時に妥協し、時に流され、それでも“自分らしさ”を守ることです。不条理を乗り越えるために必要なのは、怒りでも、反抗でもない。笑うこと、信じること、そして動き続けること、映画は静かに教えてくれます。
終わりに:
会社という場所は、時に過酷で、時に優しいところです。そこには理不尽もあれば、思いがけない出会いもあります。会社は、単なる収入の場ではなく、そこで出会う人、経験する葛藤、得る喜びや悔しさ―それらが少しずつ、自分を形づくっていく、いわば人生経験を深める“道場”のようなものです。
「会社のために働く」のではなく、「自分の人生の一部として会社と関わる」。その視点を持てば、日々の悩みは少し軽くなります。名刺がなくても、あなたは誰かの役に立っている。肩書きが変わっても、あなたの価値は変わらない。こうしたことを、映画は静かに伝えてくれています。
以 上

