カーボンゼロⅣ...エネルギー価格上昇は追い風

最近の世界的な再生エネルギー活用の広がりはめざましいものがありますが、皮肉なことにそれをもたらしている要因の一つがロシアのウクライナ侵攻です。主にはロシアから欧州への天然ガス(メタンCH₄)供給への危機感、それによるエネルギー安全保障の確保への高まりです。再生可能エネルギーは、一般的には自国で獲得できるエネルギーですから当然のことでしょう。

ところで、ここからが今回の主題ですが、もう一つの要因と考えられるそれによりエネルギー価格が高騰したと捉えられていることについて考えてみます(エネルギー価格の高騰の主因は別にあり、根深いことで必然とも言えますがそれは後述します)。エネルギー価格が高騰し、それが相当期間継続していくというコンセンサスにより、再生可能エネルギーの採算性が向上しますので、それが拡大していくのは至極当然のことです。しかし、これはエネルギー価格が高騰した社会が継続していくことを前提としています。カーボンゼロを進めていく上では好ましいことですが、世界では安易には受け入れがたいというのが主流だと思います。日本でも、ガソリン、電気、ガス価格高騰対策が政治課題として大きく取り上げられているのはその証左です。ガソリン需要、電気・ガスの元となるエネルギー源(主としてメタンCH₄)の価格上昇による使用減少がもたらすCO₂発生量の抑制効果を絶とうとしているのですから、前回のシリーズでも触れた一方でカーボンゼロを実現することを掲げながら行っている矛盾した行動と言えます。これは、カーボンゼロが国際会議やメディアで大きく取り上げられていても、現状の環境を激変させてまでも達成すべき最優先の課題とは認識されていないということです。これは日本に限ったことではなく、前々回のシリーズで触れたEUタクソノミーでの天然ガス(メタンCH₄)をカーボンゼロに資するものとして評価すること、つい先日のイギリスがガソリン自動車の廃止期限も延期したこと、フランスでのエネルギー価格高騰を受けての全国的なデモも起きたこと等もこれを示しているかと思います。単純に考えれば、CO₂排出を産業革命前の水準に戻すためには、電気も内燃機関(エンジン等)も使わない生活に戻ればいいということですが、ごく一部の方を除けばそれを受け入れることは出来ないと思います。ただ、全く影響を受けないことはあり得ませんが少なくすることは出来ます。現状の生活を激変させたくなければ、個々人の正しい意識の変化が必須で、それがなければ国や企業のどんな取り組みも水泡に帰することとなりかねません。また一方では、カーボンゼロのためにどのくらいコストを負担できるのか、どのくらい生活パターンを変えることを受け入れられるのか考えてみる良いチャンスであるとも思います。そして、それが現状に近い生活を守ることに繋がります。レジ袋を受け取らないことがエコだと自己満足して、ポリエステル製エコバックを度々取り替えたりするような間違った意識改革とならないように気をつけねばなりませんが。ポリエステルはペットボトルと同じ材質です。話がずれましたが、ビジネスの世界でも、どんなにメディア等でもてはやされているテーマがあったとしても、それをすべてとするのはリスクが大きくなります。そのテーマに取り組む必要は当然あるとは思いますが、それに反していてもやらなければいけない根源的・本質的なことがある可能性もあります。

次回は、エネルギー価格についてもう少し掘り下げていきたいと思います。

前回の宿題のエネルギー価格の高騰ですが、実はロシアのウクライナ侵攻半年ぐらい前から始まっていました。もちろん、侵攻受け一時的により高騰したのは事実ですがその後落ち着いてもそれなりの水準は維持され、最近また高騰の兆しが出ています。エネルギー価格は高騰してもその価格が一般に反映されるには輸送・加工等によるタイムラグがあり、ガソリンでも3ヶ月程度、日本では電気・ガスに至っては半年程度かかります。よって、ウクライナ侵攻で高騰したと感じた高騰はそれ以前のもので、ウクライナ侵攻の影響は一時的で政府の補助金対策なので大部分は相殺されています。ですから、ウクライナ侵攻の影響は下支え要因とはなっていることは間違いありませんが、すべてではありませんので落ち着いてもエネルギー価格の高止まりは続いていますし、原油価格は史上最高値には届いていませんのでまだ値上がり余地があると考えた方がよいとも思います。ビジネスの世界でも、一般に統計やメディアに反映される前に事業に携わっている人であれば想定できる近未来があることがありますので、それには敏感である必要があります。

前回考えてみたように、カーボンゼロを実現していく中でも現在の生活水準、生活環境は大きく影響されたくないというのは本音のところだと思います。ただ、達成された社会として自然エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱等)だけで現在の生活を維持していく社会の構築は可能かもしれませんが、そこにいくまでの過程では必ず歪みが発生し、そのコストを負担していくことが必要です。人類として今の生活を支えるのに、CO₂排出は大きいが安価な化石燃料を大量に使用してコストミニマムで構成されているのが現在社会の姿ですから、やむを得ないことです。最近大手スーパーでも、以前は野菜でさえ形の揃ったものしか見かけなかったのに、曲がったキュウリとか小さな人参とかがパック詰めされて売られているのを見るようにもなりました。コストがそのようなことだけで済めばいいですが、その間のエネルギー価格の上昇・高止まりは必至と考えた方がよいと思いますので、そこを覚悟していく必要があります。化石燃料への批判が強まり将来的な継続性に疑義があるということは、それに携わることは事業者としては避けるようになるのは当然です。その中で、供給量が減っていきますが必須のものであるほどそれに歩調を合わせて需要量を減らしていくのは並大抵ではありませんし、短期でより高い収益を上げない限り嫌われてまでその事業をやっていく価値はありませんので事業者は高価格での販売を目指さなくてはいけません。これは根源的・本質的なことですので、エネルギー価格の高止まりの払拭はしばらく期待できないと思います。ビジネスの世界でも、需要が減少していくものはすべて安くしか供給できないという意識を捨て、将来伸長が期待されない事業でも、代替が安易に可能でない限り適正な価格政策をとることにより相当期間高収益事業となる可能性もありますので、一度見直してみるのもいいかもしれません。

単なる感覚に囚われるのではなく、正確な情報とその分析により事業を進めていくのを是非お手伝いしたいと考えておりますので、よろしくお願いします。

<おまけ…ふるさと納税で、収入のある時に納税しよう>

10月から返礼品に関するルールが厳格化されましたが、ふるさと納税には、翌年6月以降に支払いとなる住民税はもちろん、確定申告による支払・還付となる所得税も税金は後払いになりがちの中、それを収入のある時に支払えるという利点がありますので皆さんも考慮してください。特に、収入が不安定な方、役職定年・再雇用・退職等により翌年から収入の減少が見込まれる方にお勧めです。