もし逮捕されたら
警察のやっかいになるという事態は誰しも是非とも避けたいですが、誤認逮捕も含めてその可能性が皆無という保証はありません。今回は、万一警察に逮捕された場合に備え、知っておいたほうがよい情報です。
1.逮捕後の流れ 2.身柄拘束の問題点 3.被疑者弁護制度 4.当番弁護士制度の運用内容 5.弁護人以外の接見・差入れ |
1.逮捕後の流れ
警察は、逮捕後48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留(身体拘束の延長)を裁判所に請求するかどうかを決定します。裁判所は、勾留の必要があると判断した場合は勾留決定をし、勾留の必要がない判断した場合は釈放されます。検察官は、勾留期間(原則10日)内に起訴するかどうかを決定します。起訴されると公判手続に移行し、不起訴処分になると釈放されます。検察官が必要と認めた場合は勾留延長を裁判所に請求し、これが認められると更に勾留期間が10日延長されます。従って、逮捕後3日以内に勾留請求がされ、勾留決定がされるとその後10日間又は20日間警察署に留置され、最大23日間身柄が拘束されることになります。起訴された場合は、保釈されない限り、拘置所で引き続き身柄拘束されます。
2.身柄拘束の問題点
身柄拘束は、逃亡や証拠隠滅を防ぎながら取り調べを行う上で有用ですが、逮捕された人(被疑者)にとってみれば、取り調べに応じなければならないだけでなく、有利な証人や証拠に自由にアクセスすることができず、被害者との示談交渉もできず、孤立無援の状態です。
ほとんどの人にとっては、留置場に閉じ込められて密室での取り調べが繰り返されるので、精神的にも大きなダメージを受けます。万一取り調べの重圧に負けて事実と異なる自白をしてしまうと、自白は重要な証拠となり、公判手続でこれを覆すことは非常に難しいです。
証拠が固まって起訴された後は「被告人」となり、国選弁護制度が適用されて国選弁護人が選任されますが、起訴前の「被疑者」の段階では国選弁護人制度は適用されません。起訴前でも私選弁護人を選任することはできますが、経済的理由等で私選弁護人を選任できない場合もあります。
身柄拘束中の問題点は、起訴するための証拠固めという重要な局面において、被疑者が身体的自由を奪われた圧倒的に不利な状況であるにもかかわらず、無防備であるということです。
3.被疑者弁護制度
このような起訴前の被疑者を保護するため、勾留前については弁護士会の刑事被疑者弁護援助事業(当番弁護士制度)、勾留後については刑事被疑者国選弁護制度を利用することができます。勾留決定は裁判所が行いますので、逮捕後(3日以内に)裁判所に連れて行かれる前は勾留前なので前者、裁判所に連れて行かれて引き続き身柄拘束される場合は勾留後なので後者を利用できます。
①刑事被疑者弁護援助事業(当番弁護士制度)(勾留前)
逮捕されてから勾留されるまでの間で、私選弁護人に依頼するお金がない等の要件を満たす場合には、日弁連が実施する刑事被疑者弁護援助事業を利用して弁護を依頼することができます。また、勾留前は当番弁護士制度(後述)を利用することもできます。
②刑事被疑者国選弁護制度(勾留後)
勾留された後、私選弁護人を依頼する費用がない等一定の条件を満たす方は、国が弁護士費用を負担して、弁護人を依頼する被疑者国選弁護制度を利用することができます。なお、特定の弁護士を指定することはできません。2006年10月から実施されている制度であり、当初は適用範囲が限られていましたが、現在は被疑者が勾留されている全事件に適用されます。
③制度利用の申出方法
上記各制度を利用したい場合は、警察官、検察官又は裁判官に「当番弁護士制度/刑事被疑者国選弁護制度を利用したい。」と言えば足ります。
4.当番弁護士制度の運用内容
①制度概要
当番弁護士制度は、各地の弁護士会が運営主体となり、毎日担当の当番を決め、被疑者等からの依頼により、被疑者の留置・勾留されている場所に弁護士が出向き、無料で、接見の上、相談に応じる制度です。初回の接見費用や外国人被疑者のための初回通訳費用などは、被疑者に負担を求めることなく、弁護士会が費用を負担して制度を運営しています。
②当番弁護士の派遣
被疑者からの当番弁護士派遣依頼は、警察や裁判所を通じて弁護士会の受付電話に入ります。依頼は被疑者本人のほか被疑者の家族・友人からも可能です。
弁護士会は、派遣依頼を受けたら、その日の担当となっている弁護士に出動要請の連絡をします。担当弁護士は、予め当番弁護士名簿から選ばれて待機日を割り当てられます。
出動要請の連絡を受けた担当弁護士は、原則として当日のうちに接見に向かいます。通訳人を要する場合や遠隔地の場合など翌日以降となる場合もあります。弁護士以外の一般人の場合は接見が平日の17時までと制限されていることが多いですが、弁護士の場合は休日や17時以降も接見できるのが通常です。
③初回接見
当番弁護士は初回の接見を弁護士会の費用で行いますので、初回の接見に対して被疑者がお金を支払う必要はありません。当番弁護士が初回の接見で行うのは以下のような内容が含まれます。
(1)当番弁護士制度、当番弁護士の立場・役割についての説明
(2)依頼の趣旨の確認
(3)逮捕時や取調状況等の事実確認
(4)被疑者の言い分の聴取
(5)手続の流れの概要の説明
(6)黙秘権、供述調書への署名押印等、取調上の注意点の説明
(7)資力がない場合の刑事被疑者国選弁護制度、刑事被疑者弁護援助事業の説明
(8)関係者への連絡の要否の確認
(9)弁護人選任意思の確認
当番弁護士が手続概要や黙秘権等について記載したペーパーを被疑者に差し入れることもあります。被疑者が外国人の場合は上記ペーパーを母国語に翻訳したものを差し入れるのが通常です。
④初回接見後
初回接見で被疑者が弁護人選任を希望する場合は、弁護人選任届や委任契約書に署名し、以後当番弁護士は被疑者の私選弁護人として、警察官・検察官との折衝、被害者との示談交渉、被疑者に有利な証拠の捜索等の弁護活動を行います。被疑者に資力がない場合は、刑事被疑者弁護援助制度を利用することにより、弁護士会から委託を受けた日本司法支援センター(法テラス)が弁護士費用を立て替えます。この場合、被疑者は後日法テラスに立替費用を支払う必要がありますが、支払を免除されることも多いです。
⑤筆者の経験談
筆者は当番弁護士制度が開始された1990年頃から当番弁護士として登録しています。初回接見では、連絡がとれなくなった家族や勤務先に心配や迷惑をかけることを懸念して家族や勤務先への伝言を頼まれることが多いです。罪を認めて証拠も明らかな被疑者に対しては、被害者との示談交渉のほか、原因を考えて再発防止のために何が必要かをとことん考え、その結果を警察官や検察官に真摯に伝えるよう助言しています。証拠が固まっている事案では悔悟が量刑や処遇の重要な要素であり、その道のプロである取調側は本当に反省しているかどうかを簡単に見破れるからです。
5.弁護人以外の接見・差入れ
弁護人以外の人による接見は、平日の17時までと制限されていることが多いです。また、被疑者への差入れは1回につき2点まで等、数量も制限されています。従って、被疑者に接見や差入れを行う場合は、事前に被疑者が留置されている警察署に電話をして確認しておくべきです。
自分には刑事手続は関係ないと思われる方がほとんどだと思いますが、「当番弁護士」という用語は頭の片隅に置いておいてくださいね。