フリーランスの保護

フリーランスとは、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日)(「ガイドライン」)によれば、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」をいいます。自宅・ワーキングスペース・ネット上の店舗は実店舗に含まれず、個人経営に従事する同居の親族は雇人に含まれず、農林漁業従事者はフリーランスに含まれませんが、一人社長はフリーランスに含まれます。

コロナ禍を反映して、フリーランスの人口は1670万人(労働人口の24%)、経済規模は28兆円(前年比10兆円の増加)と過去最大規模となっています(ランサーズ「フリーランス実態調査2021」)。ガイドラインは、このように増大傾向にあるフリーランスを保護するルールの整備をめざすものです。以下では、フリーランスに適用される法制度と問題となる実例について解説します。

1法制度

フリーランスを保護するための主な法制度としては、①、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独占禁止法」)、②、下請代金支払遅延等防止法(「下請法」)、③労働基準法・労働組合法等の労働関係法令があります。

①独占禁止法

独占禁止法で禁止される「不公正な取引方法」には、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」以下のいずれかの行為を行うことが含まれます(同法2条9項5号)。

(1)継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。(2)において同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること

(2)継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること

(3)取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること

取引上の地位が優越する事業者がフリーランスに対してその地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用として、独占禁止法の規制を受けます。

②下請法

資本金1000万円超(*)の事業者が個人に対して製造委託等(製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託)をする場合は下請法が適用される可能性があります(下請法2条7項)。(*)製造委託・修理委託については3億円超、プログラム以外の情報成果物作成委託については5000万円超

下請法では、下請代金を60日以内に支払うことや給付内容・下請代金・支払期日・支払方法等を記載した書面を交付することを事業者に義務づけるほか、給付の受領拒否・下請代金の減額・給付物の引き取り・不当に低額な下請代金・物の強制購入・役務の強制利用・取引量の減少・取引停止・原材料費の天引き等について規制しています。

③労働基準法

労働基準法の労働者は「事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者」とされています(労働基準法9条)。同法上の労働者性の判断基準は、「使用従属性」、即ち(1)指揮監督下の労働であること及び(2)報酬の労務対償性があることです。(1)については、a.仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、b.業務内容や遂行方法についての指揮監督の有無、c.勤務場所及び勤務時間の拘束性の有無、d.代替性の有無(他者や補助者を使えるか)(補強要素)に基づいて判断されます。使用従属性の判断が困難な場合は、(4)事業者性の有無(機械器具等の負担等)及び(5)発注者に対する専属性の程度も補強要素として考慮されます(労働基準法研究会報告1985年12月19日)。

フリーランスが労働基準法上の労働者に該当する場合は、賃金や労働時間等について同法による保護の対象となります。

④労働組合法

労働組合法の労働者は「沈金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とされています(労働組合法3条)。同法上の労働者性の判断基準は、(1)不可欠または枢要な労働力としての事業組織への組み入れ、(2)契約内容の一方的・定型的決定、(3)報酬の労務対価性、(4)業務の依頼に応ずべき関係及び(5)広義の指揮監督下の労務提供・一定の時間的場所的拘束((4)(5)は補充的要素)とされ、(6)顕著な事業者性は労働者性を消極的に開始得る判断要素とされています(労働関係法研究会報告2011年7月)。

フリーランスが労働組合法上の労働者に該当する場合は、団体交渉権や不当労働行為等について同法による保護の対象となります。

2独占禁止法・下請法上問題となる事例

ガイドラインは、独占禁止法・下請法上問題となる事例として、以下のものを列挙しています。

①報酬の支払遅延

・事業者の一方的都合(社内手続・設計仕様の変更等)による支払遅延

・事業者の恣意的な検収・仕様等の遅延による支払遅延

・事業者の一方的都合による一括払いから分割払いへの変更

②報酬の減額

・事業者の一方的都合(業績悪化・予算不足・顧客からのキャンセル等)による報酬減額

・事業者の一方的都合により作業量が増大したにもかかわらず当初の報酬額のみの支払

・実際の作業量が当初見込みより少なかったことを理由とする報酬減額

・事業者が一方的に重複作業を自ら実施したことを理由とする報酬減額

(*)フリーランスが労働基準法上の労働者に該当する場合は、費用や損害賠償の天引きは禁止され、最低賃金法上の最低賃金や割増賃金を請求できる可能性もあります。

③著しく低い報酬の一方的な決定

・短い納期を設定したために必要な費用が大幅に増加したにもかかわらず通常の納期の場合と同じ報酬を一方的に決定

・事業者の予算単価や不合理な算定方法に基づいて一方的に通常より著しく低い報酬を決定

・フリーランスが協議を求めたにもかかわらず見積書の金額に基づいて一方的に著しく低い報酬を決定

・合理的理由なく他のフリーランスよりも一方的に著しく低い報酬を決定

・事業者の要請により費用が増加するにも関わらず一方的に著しく低い報酬を決定

④やり直しの要請

・事業者の一方的都合による仕様変更をフリーランスに伝えなかったことによるやり直しの要請

・フリーランスが求めたにもかかわらず正当な理由なく仕様を明確にしなかったことによるやり直しの要請

・検査基準を恣意的に厳しくしたことによるやり直しの要請

⑤一方的な発注の取り消し

・事業者の指示に対応するためのフリーランスによる機材・ソフトウェアの調達や資格取得にもかかわらず、一方的都合による発注を取り消し

・契約時に定めていない役務等の無償提供をフリーランスが拒んだことを理由とする一方的な発注の取り消し

⑥役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い

・役務の成果物の二次利用についての著作権者であるフリーランスに対する対価の不払い、配分割合の一方的決定

・フリーランスに対する著作権等の権利の譲渡の強要

(*)職務著作(著作権法15条)に該当する場合は使用者が著作者になります。

⑦役務の成果物の受領拒否

・事業者の一方的都合により成果物が不要になったことを理由とする受領拒否

・検査基準を恣意的に厳しくしたことによる受領拒否

・フリーランスが求めたにもかかわらず正当な理由なく仕様を明確にしなかったことによる受領拒否

・納期を一方的に短くしたことによる受領拒否

⑧役務の成果物の返還

・顧客からの返品を理由とする返品

・直ちに発見できる瑕疵を標準的な検収期間経過後に検収したことによる返品

⑨不要な商品・役務の購入・利用の強制

・取引終了・取引量縮小の可能性をちらつかせた事業者の指定する商品の購入の要請

・事業者の指定する商品の組織的・計画的な購入の要請

・不要な役務利用の一方的な要請

⑩不当な経済上の利益の提供要請

・決算対策のための協賛金負担の要請

・契約内容ではない役務(回収・保守・点検等)の無償提供の要請

・フリーランスの顧客リストの無償提供の要請

・フリーランスが提供した付随資料の無償使用の要請

⑪合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務の一方的な設定

・事業者との取引実績の公表を合理的に必要な範囲を超えて制限する秘密保持義務の一方的な設定

・フリーランスへの育成投資や報酬額が著しく低いにもかかわらず、合理的に必要な範囲を超えた一方的な専属義務の設定

・フリーランスの育成に要する費用を回収したにもかかわらず、当該費用の回収を理由とする競業避止義務や専属義務の設定

(*)専属義務があると労働者性が認められやすくなります。

⑫その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

3契約の解消

①事業者からの契約解消

事業者は、損害を賠償することにより契約を解除できます(民法641条、651条)。

フリーランスが労働基準法上の労働者に該当する場合は、契約期間中の契約解消にはやむを得ない事由が必要であり、更新拒否には雇い止めの規制が適用され、期間の定めがない場合は解雇権濫用法理の適用があります(労働契約法16条、17条、19条)。

②フリーランスからの契約解消

フリーランスは、損害を賠償することにより契約を解除できます(民法641条、651条)。損害賠償の予定や違約金の定めがある場合は、優越的地位の濫用に該当する余地はあります。

フリーランスが労働基準法上の労働者に該当する場合は、契約期間中の契約解消にはやむを得ない事由が必要であり(民法628条)(但し1年超ならいつでも可(労働基準法137条))、期間の定めがない場合は意思表示から2週間経過により契約を解消できます(民法627条)。